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地中海と北海の戦い

※プーラ(ポーラ)

クロアチア(ユーゴスラヴィア)のイストリア半島に存在。

1813年よりハプスブルク家の直轄地となり、オーストリア帝国の海軍基地、造船地となる。

1866年の普墺戦争、装甲艦同士の大規模海戦となったリッサ海戦では、オーストリアのテゲトフ艦隊はこのプーラ港より出撃した。

第一次世界大戦の後、イタリアに割譲されていた。

 旧ユーゴスラヴィア・プーラ軍港。

 かつてオーストリア・ハンガリー二重帝国の海軍基地だった場所である。

 ここに上部構造を滅茶苦茶に破壊され、生きた砲は2隻で3門のみという惨状を晒した戦艦「ビスマルク」と「ティルピッツ」が入港して来た。

 その頑強な舷側装甲と艦内の隔壁が、辛うじて沈没だけは免れさせていた。

 他の護衛艦は全滅している。


 ヒトラーは激怒した。

 戦意に乏しいイタリアの戦艦を撃破し、アドリア海に用意した軍港まで回航して来るのでは無かったのか?

 イタリア如きにここまでボコボコにやられて、恥ずかしいと思わないのか!!


 ヒトラーと海軍首脳部が立てた戦略は以下の通りである。

 ドイツの目的は、イギリスとインドとの通交を遮断する事である。

 それにはエジプト、スエズ運河の占領もしくは閉塞を行いたい。

 エジプトやチュニジアの小麦も魅力である。

 北アフリカでの戦闘が必要であろう。

 それには地中海の制海権を取る必要がある。

 制海権が無ければ、北アフリカまで兵員を輸送する船が危険に晒される。

 そこで、北に居ても氷に閉ざされるだけの戦艦「ビスマルク」と「ティルピッツ」を地中海に移す。

 そしてイタリアとイギリス地中海艦隊という2つの強敵の内、弱い方から先に片付ける。

 イタリア艦隊の殲滅とプーラ軍港への移動は、地中海の制海権確保という戦略で、一つに繋がっていたのだ。


 ドイツは地中海やアドリア海に軍港を持っていない。

 そこで旧オーストリア・ハンガリー二重帝国の遺産を使う事にした。

 開戦早々にイタリア領ポーラと名を改めていたこの地を奪うと、軍港として大型艦を整備出来るような設備を、突貫工事で作る。

 オーストリア海軍の拠点だったとはいえ、5万トン級の「ビスマルク」級の母港とするには、それなりの設備が必要なのだ。


 大型艦の運用という視点では、属国フランスの軍港・トゥーロンという選択肢もあった。

 その為に、スペイン攻撃がまるで進捗していないヴィシー政府への梃入れも兼ね、南フランスにもドイツ軍を進駐させて事実上支配下に置く。

 その上でトゥーロンをドイツ海軍の軍港として使い、そこの艦艇はドイツ海軍の指揮下に入れると宣言した。

 するとヴィシー政府海軍のド・ラボルド司令官は

「そんな屈辱に甘んじるくらいなら、我々は誇りある最後を迎える」

 と全艦隊に自沈を命令してしまった。

 そして多数の沈没艦が邪魔となり、港湾は大型艦の運用が出来ないものとなってしまう。


 ドイツが占領したイタリアの港湾もあるが、アドリア海に在るラ・スペツィアとブリンディジはプーラ軍港と場所も機能も大して変わらない。

 イタリア全土を占領すれば、タラント軍港やシチリア島のアウグスタ軍港も使用出来るかもしれないが、南部では抵抗が今も続き、全土掌握はまだ先になりそうだ。


「地中海は空軍に任せる。

 海軍は大西洋で潜水艦によるイギリス封じ込めを行うのだ!」

 海軍があてにならないと考えたヒトラーは、空と海中からの攻撃に集中させる事とした。

 地中海は、空軍の爆撃機が飛べる狭い海なのだ。

 早速ゲーリングは、新型爆弾「フリッツX」を搭載したドルニエDo217爆撃機を出撃させ、イタリア艦隊を攻撃する。

 この誘導爆弾により、イタリア戦艦「ローマ」を撃沈、イギリス戦艦「ウォースパイト」を大破という戦果を挙げる。

 海軍の評価は下がり、空軍は更に期待されるようになった。


 その空軍だが、英国本土空襲は上手くいっていない。

 凄まじい強風が、英国上空を守っている。

 ヒトラーは

「ジェット機に爆弾を搭載すれば、荒れ狂うイギリスの空でも大丈夫だろう」

 と言って、メッサーシュミットMe262戦闘機を戦闘爆撃機として運用する指示を出す。

 この素人考えは、この時は失敗に終わる。

 爆弾を搭載したジェット戦闘機は、持ち前の高速を出せなくなった。

 その結果、操縦性能がピーキーながら最高速度720km/hというグリフォンエンジン搭載型スピットファイアの餌食となってしまう。

 それだけでなく、墜落したメッサーシュミットのジェットエンジンを鹵獲、解析され、イギリスでもジェット戦闘機の実戦配備が早まろうとしていた。


 ドイツ軍の大型艦、巡洋戦艦「シャルンホルスト」「グナイゼナウ」、かつては装甲艦(パンツァーシフ)と呼ばれていた重巡洋艦「リュッツォウ」「アドミラル・シェーア」、そして重巡洋艦「アドミラル・ヒッパー」「プリンツ・オイゲン」「ザイドリッツ」の7隻は、フランスのブレスト軍港に停泊している。

 冬季にバルト海が氷結するようになり、砕氷船を持たないドイツでは行動が制限を受ける。

 ソ連とも講和した以上、大西洋に面したこの地に拠点を移していた。

 イギリス上空の気流も凄まじいが、それは英仏海峡対岸のブレストも同様。

 ドイツのイギリス空襲が成功しないように、イギリスのブレスト空襲も成功しないと思われていた。

 実際、イギリス空軍の大型爆撃機が飛来しても、爆弾を命中させる事が出来ず、ドイツのジェット戦闘機の迎撃に遭った後は、気流を遡って本国に帰る事が出来ずに全滅した事があった。

 ランカスター爆撃機40機が全て失われた「ブレストの惨劇」以来、イギリス軍の空襲も止んでいる。

 ドイツ海軍は油断していた。


 そんな中、ブレスト軍港に空襲警報が鳴り響く。

 飛来したのはソードフィッシュ雷撃機、空母艦載機である。

 超低空を飛行し、しかも超低速である。

 高高度を高出力のエンジンを使って高速飛行するのが得意なドイツ軍ジェット戦闘機は、複葉機で海面スレスレを飛行するソードフィッシュ相手だと、遅過ぎてかえって苦戦する。

 東部戦線でドイツ空軍を苦しめたソ連空軍の低空戦法、そのもっと極端な事をイギリス海軍が仕掛けて来たのだ。

 幸い、ドック入りしていた艦も多く、被害はそれ程出ていない。

 港湾施設は爆撃を受け、駆逐艦や輸送船が魚雷によって撃沈された。


 そして翌日も艦載機による空襲が行われる。

 ドイツ空軍は索敵し、イギリス空母部隊を発見、反撃を仕掛ける。

 だが、イギリス本土から近い事もあり、また空母自身が搭載してもいるスピットファイア、またはシーファイア戦闘機による上空護衛(エアカバー)により、反撃空襲は失敗に終わる。

 折角の誘導爆弾フリッツXも、母機であるドルニエ爆撃機が撃墜されては、その命中精度を発揮出来ない。

 ドイツは航空母艦という艦種の攻撃力を知った。


「空母ならば、我々にも有るではないか。

 日本の技術支援を受けて完成した『グラーフ・ツェッペリン』が!

 イギリスにもブレストの報いをくれてやろう。

 我々の爆撃機では届かぬスカ・パフロー泊地を空襲するのだ」

 ゲーリングの発言に、ヒトラーは賛同し、出撃を命じる。

 海軍は反対だ。

 海軍の事は何も知らないゲーリングが思いつきで運用して、上手くいく筈が無い。

 大体、護衛艦はどうするのか?

 慣熟の為にバルト海で訓練をしていたが、冬の間は使用出来ず、艦載機の発艦訓練は春になった4月から1ヶ月程しかしていない。

 しかも波が無く穏やかなバルト海で訓練し、それでも10機以上の着艦失敗で喪失機を出している。

 これを波が高い北海に出し、強風の中を発艦し、攻撃終了後に着艦等出来る筈が無い。

 それを指摘するも、メッシーナ海峡海戦で醜態を晒した海軍の発言は、ゲーリングとヒトラーに笑殺されてしまった。


 かくして空母単独出撃という無茶を行う。

 この「グラーフ・ツェッペリン」の行動は、ユトランド半島沖を通過し、スカゲラック海峡に入った時には現地監視員によってロンドンに報告され、潜水艦によって監視されていた。

 空母を動かすのは、無理矢理空軍に転属扱いとした海軍の将兵である。

 しかし、この艦では艦長よりも攻撃隊長(空軍)の方が威張っていた。

 攻撃隊発艦において、空軍は凪いだ海面を好んだ。

 無理もない。

 波が高い海では発艦出来ないのだから。

 北海は、旧ハドソン海峡を下る太平洋由来の暖流、バフィン湾とグリーンランド海から南下する2つの寒流が衝突し、荒れるラブラドル海のうねりが、風によって押し寄せている。

 北米大陸健在時から波が高い海であった。

 イギリス海軍は、そういう海を拠点としている為、操艦技術が高い。

 北米大陸が消滅し、ハリケーン北上等の低気圧による荒れこそ無くなったが、それでもドイツの空母には難易度が高い海である。

 うねりの中での発艦を嫌い、島の近くで波が弱まる海域を指示された。

 空母としてはより遠くから発艦させた方が良い。

 だが、技量的に出来ないのと、空軍が艦を運用する海軍よりも上に置かれていた為、サウスロナウドジー島の近くまで接近してしまった。

 余りにもヨーロッパ大陸から離れてしまい、上空防御(エアカバー)をしていた長距離を飛行する双発戦闘機もここで離脱してしまう。


 凪いで見通しが良く、偵察機から位置情報が入る。

 潜水艦は見失う事なく追跡を続けていた。

 そして、艦載機発艦フェーズに入る。

 風上に向けて全力航行に入った。

 このタイミング、ジグザグに潜水艦回避運動は出来ない。

 進路予測もしやすい。

 イギリス潜水艦から6本の魚雷が放たれた。


 海軍の制止を無視し、護衛艦も断り、上空防御だけを行っていた空軍の空母。

 その上空防御も外れ、接触する敵偵察機を気にするあまり、上ばかりを見ていた。

 そこに水面下から攻撃が加えられる。

 明らかな運用ミスにより、ドイツがやっと完成させた空母「グラーフ・ツェッペリン」はユンカースJu87シュトゥーカ急降下爆撃機6機を発艦させただけで、被雷して大きく傾く。

 ダメージコントロールも下手で、やがて艦載機もろとも北海の底に沈んでいった。


 そして海軍の発言権はいよいよ低下する。

 発艦後に上空から母艦の悲惨な光景を目にしたパイロットたちは、そのままヨーロッパ大陸に逃げ帰った。

 沈没後に海に投げ出された船員たちは、イギリス領のすぐ傍であった為、凍死するより前に救助されるという幸運と、代わりに全員捕虜になる不運の両方に当たった。

 帰還したのは空軍のパイロットだけである。

 当然、空軍の不利になる証言等する筈が無い。

 軍法会議では、被告人不在のまま「グラーフ・ツェッペリン」艦長が有罪とされた。


 相次ぐ海軍の失態にヒトラーは怒り続けている。

 戦果を挙げているのは、通商破壊に出ている潜水艦と仮装巡洋艦だけだ。

 ついに彼は

「役に立たない大型艦は全てスクラップにし、工業用鋼材に再利用しろ!

 海軍は潜水艦と対潜水艦用の小型艦と、潜水艦に補給する船と、商船改造の通商破壊船だけで十分だ!」

 と言ってしまう。

 海軍は猛反対するが、相次ぐ失態、一部責任が無いものもあるが、その為に主張を受け入れて貰えない。


 日本では議論が白熱し、命を狙われる者すら現れている軍艦削減とその廃材利用。

 ドイツでは独裁者の鶴の一声であっさり実現されそうであった。

次話は18時にアップします。

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