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独伊戦艦対決

ドイツ巡洋戦艦「シャルンホルスト」「グナイゼナウ」の戦隊、重巡洋艦「アドミラル・ヒッパ―」「プリンツ・オイゲン」「ザイドリッツ」の戦隊、この2つの部隊が陽動も兼ねて大西洋で通商破壊活動に出ている。

しかし、沈められるのはスペイン船、ポルトガル船ばかりである。

イギリスはアメリカ合衆国との航路が消滅した事で、アフリカ大陸沿岸を通って南アフリカに行くか、地中海からスエズ運河を通過して中東・インド・アジア方面に向かう為、陸に極めて近く、上空支援(エアカバー)されているから、ドイツ艦隊も攻撃しづらい。

結局、ドイツとしては大型艦を使った作戦行動だったのに、思ったような戦果が上がらず、ブレスト港に帰還する。

ヒトラーは激怒した。

「海軍は、貴重な重油を消費して見合った成果を出さず、何をやっているのか!!」

ドイツにとっても石油は貴重なのであった。

 イタリア海軍の最新鋭戦艦「ヴィットリオ・ヴェネト」級。

 そのスペックは

・基準排水量 41,177トン

・速力 29ノット(常用荷重)

・主砲 50口径38.1cm三連装砲3基9門

・装甲(最大) 水平防御:合計207mm 垂直防御:合計350mm(8度傾斜) 水雷防御隔壁:40mm

 である。

 防御上の特性は、70mm装甲と280mm装甲の間に50mmの木材を挟む複合装甲方式とした事だ。

 主砲の最大射程は44,640mで、戦闘においては28,000mの距離で舷側装甲380mmを貫通可能である。


 一方ドイツ海軍の最新鋭戦艦「ビスマルク」級のスペックは

・基準排水量 41,700トン

・速力 30.8ノット(公試時)

・主砲 47口径38cm連装砲4基8門

・装甲(最大) 水平防御:110mm 垂直防御:320mm 水雷防御:170mm

 である。


 実はビスマルク級の設計は第一次世界大戦型戦艦「バイエルン」級の発展形で、他国の設計よりやや古めかしい。

 水線下の防御は170mmと分厚いが、この厚さの部分は幅が狭い。

 深深度を進む魚雷には対応出来ないものだ。

 「バイエルン」級の時代は、水線下に石炭庫がある、それが水雷防御の機能を果たしていた。

 だが今は重油機関である為、石炭庫による防御は存在しない。

 また長射程で放たれる主砲弾を受け止める水平防御装甲だが、列強の戦艦に比べて薄い。

 ドイツの優れた冶金技術がある為、単純に薄いから弱いとも言い切れない部分もあるが。


 主砲の最大射程は36,520m、戦闘においては25,000mの距離で舷側装甲308mmを貫通可能である。

 これはイタリアの38.1cm砲に劣る数値だ。

 主砲弾の重量がイタリアの38.cm砲の885kgに比べ、ドイツの38cm砲は800kgと軽い。

 しかし、これはカタログスペックである。


 ドイツには数字に現れ難い、光学測定器の精度の良さが長所として存在する。

 ドイツの戦車は、その優れた照準能力により、砲の口径以上の戦果を挙げている。

 一方でイタリアも砲の性能においては優れたものを生産する国である。

 このかつての同盟国同士の新鋭戦艦がぶつかればどうなるか?


「我が地中海艦隊の到着を待ってはどうか?」

 イギリス第一海軍卿はそう外交ルートを通じて話す。

 「ウォースパイト」「バーラム」「マラヤ」という38.1cm連装主砲4基8門の「クィーン・エリザベス」級戦艦が3隻地中海に居る。

 主砲の口径だけなら「ビスマルク」級に匹敵し、これらと合流して戦えば圧倒的に有利になるだろう。

 その上空母「グローリアス」も展開している。

 砲の弾着観測に加え、魚雷攻撃も可能だ。

 これらの戦艦は旧式で足が遅く、最大速力24ノットであった。

 戦場到着には少し時間がかかる。


 戦艦の隻数増加は良いように見えるが、問題も多々有る。

 急遽同盟を締結したが、イギリスとイタリアは最近は共同訓練をした事も無く、信号も艦形情報の交換もされていない。

 また、口径38.1cm、主砲弾重量871kgと似た数値ではあるが、砲身長の違いから最大射程は22,850m前後と短い。

 これでは統一射撃指揮が出来ない。

 なまじ似たサイズの砲だけに、弾着観測で混乱する可能性がある。

「居ても邪魔だから、来ないで欲しい」

 随分な言いようだが、3年前には敵同士であり、自国戦艦に自信もあった為、こんな乱暴な返事をしていた。


 多数の駆逐艦及び大型水雷艇に護衛され、ドイツの巨大戦艦2隻がシチリア島に迫る。

 旗艦「ビスマルク」にはギュンター・リュッチェンス中将。

 彼は命令には極めて忠実である。

 地中海突入作戦を彼は危険だと考えていた。

 しかし、「ビスマルク」級戦艦を温存していたバルト海沿岸の都市ゴーテンハーフェン(旧名グディンゲン)は、今や冬季に氷で閉ざされる港となってる。

「港の中で氷に閉じ込められて眠るより、危険であっても海に出た方が良い」

 リュッチェンスはそう語る。


 一方、これを迎え討つイタリア艦隊はカルロ・ベルガミーニ中将であった。

 彼は母国を占領したドイツ軍に対し、艦隊を使って海から攻撃を仕掛けようと献策した。

 だがシチリア島に逃げた司令部はそれを承認しない。

 脱出する輸送船に護衛や、メッシーナ海峡の防衛を命じられる。

 彼は不満だったが、確かにイタリア艦隊がシチリア島やサルデーニャ島への航路を守っている事で、ドイツ軍が手出しを出来なかったのも事実である。

 そんな中、イギリスからドイツ戦艦が地中海に向かったという報を聞かされ、彼は喜んだ。

 やっと艦隊司令官らしく戦える。

 彼はサルデーニャ海峡でドイツ艦隊を迎撃する計画を立案した。

 しかし、出撃しようとするベルガミーニ提督を、海軍最高司令部(スーペルマリーナ)が止める。

「あくまでもメッシーナ海峡の防衛を行え。

 海峡を離れての海戦は許可しない」


 イタリア海軍最高司令部が、何故このような命令を出したのか、はっきりしない。

 その責任者であるアルトゥーロ・リッカルディは海戦後、一切説明をしようとしなかった。

 どうも、もっと上からの命令があったようである。

 結果として快速で遠距離砲撃に秀でた戦艦を、狭い海峡に置いて、その優位さを自ら封じる事になった。


 一方で、この命令が合理的であった部分もある。

 それは上空防御(エアカバー)が万全だった事だ。

 科学大国ドイツとはいえ、全ての軍用機をジェット機にしてはいない。

 大型爆撃機はプロペラ機である。

 この爆撃機の接近を、イタリア空軍が遮り続けている。

 逆にイタリア軍機がドイツ戦艦に空襲を仕掛ける。

 これは成功しない。

 洋上を高速航行する戦艦を攻撃出来る練度の航空隊は、今やイギリス軍と日本軍にしか存在していない。


 もう一つ、燃料不足のイタリア艦隊を活動させるなら、本国周辺に限るという事情もあった。

 迂闊に遠くまで行って貰っては困る。

 戦間期にエチオピアやらアルバニアやらと出撃しまくったイタリア海軍は、潤沢な燃料は持っていないのだ。


 かくしてドイツの巨大戦艦2隻を、イタリアの新鋭戦艦2隻と近代改装された戦艦2隻が迎え撃つ形で海戦が始まる。


 海戦は、まずアントニオ・レグナーニ上級少将率いる巡洋艦隊が、チュニス沖を航行するドイツ艦隊に接触するところから始まった。

 世界の海軍将校が学習した日露戦争の日本海海戦。

 その時の巡洋艦隊のように、彼は付かず離れずでドイツ戦艦を追う。


 命令絶対順守のリュッチェンスと、海軍最高司令部の命令は絶対の中で戦うベルガミーニ。

 ドイツ艦隊は迂回も目標変更もせず、真っすぐメッシーナ海峡を目指す。

 イタリア艦隊は愚直にメッシーナ海峡の中で待ち構える。

 そして戦艦同士の昼間正面砲戦が始まった。


 イタリア海軍の作戦は大失敗である。

 ドイツの「ビスマルク」級は、長距離砲戦では欠陥を抱える。

 イタリアの砲よりも最大射程と威力に劣り、長射程砲撃では防御に欠陥があった。

 それを分かっているリュッチェンスは、全速力でイタリア艦隊に突っ込む。

 敵が遠方にいる内に、4隻の戦艦の主砲を叩き込むベルガミーニ。

 しかし、長距離における主砲の命中率は5~7%程度。

 当たらないまま、お互いが見える距離に接近してしまう。


 直接照準が出来るようになると、命中率は10%を超える。

 両艦隊、戦艦に命中弾が出る。

 こういう戦いになると、垂直防御が頑丈なドイツ戦艦の方が有利だ。

 「ビスマルク」と「ティルピッツ」は何発も命中弾を浴びるが、平然と戦闘を続行する。

 一方のイタリア艦隊では、旧式艦を近代改装した「カイオ・ドゥイリオ」と「アンドレア・ドーリア」が中破以上の損傷となって離脱する。

 「カイオ・ドゥイリオ」級戦艦の舷側装甲250mmでは、25,000mの距離で308mmの装甲を打ち破るドイツの38cm主砲に耐えられない。

 「ヴィットリオ・ヴェネト」級の350mmの舷側装甲は、ドイツ戦艦の砲撃に耐えている。

 一方、「ビスマルク」級の舷側装甲320mmは、その数値以上の耐久力を見せる。

 結構被弾し、貫通弾も有るのだが、「ビスマルク」も「ティルピッツ」も戦闘不能とならない。


 戦闘不能とはならないが、徐々に戦闘力は低下していく。

 無理も無い。

 上部構造は両軍の戦艦とも滅茶苦茶に破壊されていた。

 大破に近い中破。

 両軍の戦艦は、共に航行と主砲砲撃に問題は無いが、副砲や対空砲、艦橋と測距装置等が破損してこれ以上は戦えそうにない。

 夕暮れも近い事もあり、リュッチェンスは撤退を選択した。

 任務はメッシーナ海峡を守るイタリア艦隊の撃破。

 しばらくイタリア戦艦4隻は、修理の為に軍港に引き返さざるを得ない。

 2倍の敵を相手に完全撃破。

 撃沈こそさせていないが、当分行動不能に追い込めた。

 ドイツ側の損傷も大きいが、任務を果たせたからこれで十分である。

 イギリス艦隊がやって来ない内に、夜陰に紛れてジブラルタル海峡を突破し、フランスのブレスト港にまで戻ろう。


 そんなリュッチェンスを絶望が襲う。

 退路にイタリア戦艦が現れた。

 艦形から見て「ヴィットリオ・ヴェネト」級が2隻。


「馬鹿な!

 さっき浮かぶ鉄屑に変えた筈だ。

 何故無傷になって、我々の進路の前に立ちはだかっているのだ?

 我々は催眠術でも掛けられたのか?」


 リュッチェンスの呟きを、ベルガミーニは直接聞いてなどいない。

 だが、今の時間にそうボヤいている事は予想がついていた。

 彼は聞いている筈も無い敵将に向けて言った。


「一体いつから……

 『ヴィットリオ・ヴェネト』級3番艦と4番艦、

 『インペロ』と『ローマ』が居ないと錯覚していた?」


 サルデーニャ島警備から駆け付けて来た2隻の新鋭戦艦と多数の巡洋艦及び駆逐艦隊。

 卑怯と言われようが知った事か。

 敵が勝手に誤認していただけなのだ。

 数を頼んだ嬲り殺しが始まる……。

久々に「戦艦放浪記」なノリで書けました!

次話は9月14日17時にアップします。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] リットリオ級の舷側は表面硬化280㎜+セメント250㎜+均質70㎜のアセンブリであります 均質部分を破壊した砲弾の被帽をセメントの抵抗でポロリさせ、貫徹力が激減したところを280㎜で防…
[良い点] 濃厚な艦隊戦を味わえました!続きが楽しみ! 戦艦はなかなか沈まない。 確実に撃沈させる戦力を一気に叩き込む国の方がおかしいのかもしれない。 [気になる点] イタリア新造戦艦乗組員の訓練で…
[一言] つーか仮にイタリアに予備艦隊が居なくて、そのまま逃げられるとしても普通に出口封鎖してるだろイギリス海軍が…
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