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南欧戦線

フランス、ヴィシー政府の国民は厳しい状況に置かれていた。

国土の分割、ドイツの徴発、植民地との交通途絶、そして凄まじい寒冷化によってフランス国民の生活は極貧状態となっている。

北米大陸が消滅した1940年9月から、食糧の配給制度が開始される。

しかし次第に配給量は減少し、農業生産も壊滅状態、フランス国民のカロリー摂取量は西欧で最低であった。

西欧の中では……。

東欧は、記録自体が残らない。

記録する人すら、生き残っていない……。

 ドイツによるイタリア侵攻は順調であった。

 少数の部隊による頑強な抵抗を受ける事はあるが、全体としては楽勝の部類である。

 イタリアは古代ローマの時代から道路が整備されていて、ソ連侵攻時のような泥に足を取られて停滞といった事が起こらない。

 電撃作戦であっさりと後方に浸透出来る。

 一ヶ月も経たない内にローマを落とし、最南端のレッジョ・カラブリアにまで侵攻出来た。

 この速さに、援軍を求められたイギリス軍は全く間に合わない。

 まだ動員の最中であった。

 かつてフランスで戦ったイギリス海外派遣軍(BEF)はダンケルクからの撤退後に解散している。

 改めてBEFを編制している。

 他の即応部隊は、エジプトとインドに展開していた。

 イギリスの動員も遅くは無い。

 速やかに兵が集まって、船に乗って南欧に移動していた。

 ドイツ軍が速過ぎるのである。


 だが、この辺はチャーチルも折り込み済みであった。

 最初からイタリア本土での抗戦は考えていない。

 シチリア島に避難しろとムソリーニに伝えていた。

 そして、僅かな距離で有りながら、海を挟む事でドイツ軍の足は止まる。

 戦車や砲は船で輸送しないとならないが、海峡にイタリア海軍の新型戦艦「ヴィットリオ・ヴェネト」と「リットリオ」が展開していて、渡海を許さない。


 元々イタリア海軍は、ドイツ海軍よりもバランスが良い。

 大型艦と潜水艦主体で、補助艦の足りないドイツ海軍に比べ、数も機能も整っていた。

 ヒトラーは空軍による攻撃を考えるが、ここで海軍が反論する。

 ドイツ海軍にも戦艦「ビスマルク」と「ティルピッツ」が有る。

 この両艦を地中海に突入させ、イタリア戦艦を撃沈してみせると言うのだ。

 空母「グラーフ・ツェッペリン」の運用で、ゲーリングの意見を聞いて海軍から空軍に管轄を移した借りもあった為、ヒトラーは海軍の進言を承諾した。


 ドイツ軍はイタリア半島南端にまで達し、首都や主要都市を制圧していたが、それでも全土を占領した訳ではない。

 イタリア半島をブーツに見立てると、踵側、土踏まずの位置に主要軍港タラントがある。

 向こう脛部分にナポリが在り、イタリアの政府機関がシチリアに逃げた事もあって、ティレニア海方面には主力部隊が展開したが、踵側、アドリア海方面は手薄であった。

 その為、ブーツのヒールにあたるサレント半島のイタリア軍は頑強な抵抗を続けていて、まだ持ち堪えている。

 タラントも健在だ。

 軍艦は空襲を避けて出払っているが、陸軍がこの地を必死に守っている。

 また、シチリア島同様ティレニア海を挟んだサルディーニャ島もイタリア国旗を掲げ続けている。

 更にローマとナポリの中間付近に位置する山岳要塞モンテ・カッシーノにもイタリア軍が籠っていた。

 イタリア軍は中央の統一指揮を解除し、各地自分たちの判断で抗戦せよと命令した。

 これが正解であった。

 統制には従わず、自分勝手な行動を取る癖がある軍隊だが、逆に自由裁量を与えられると生き生きとする。

 中央の命令で「最後まで戦え」と言われると反発する癖に、自分たちの判断に任されると「最後の最後まで戦って死んでやる」と苛烈な決断をする。

 主要部を占領していながら、各地で個別に抵抗し続けるイタリア軍に、ドイツ軍は思わぬ苦戦を強いられていた。


 一方、ギリシャ方面は全て制圧が完了している。

 ここは空挺作戦で、海を隔てたクレタ島まで占領出来た。

 大した兵力が居なかった事もあり、また占領地を守備していたイタリア軍もやる気が無く、さっさと降伏する。

 ドイツ軍はバルカン半島の穀倉地帯を抑える事に成功した。

……収穫量はかなり下がっているが、それでもドイツ北部に比べればかなりマシである。




 ドイツ軍が攻め込んだイタリア半島と異なり、ヴィシー・フランス軍が攻め込んだイベリア半島では、スペイン軍が防戦に成功している。

 フランス軍は攻め込めてもいない。

 国境付近のピレネー山脈で足止めを食らっていた。

 フランス軍が弱いのではない。

 フランス軍にやる気が無かったのだ。

 ドイツ軍の先兵となって戦いたくはない。

 普通にスペインに移住させて貰えたらそれで良い。

 スペイン政府が頑なに拒んだ為、軍事作戦に出たが、戦って死ぬくらいなら脱走兵となってスペイン国内に潜伏するとか、捕虜になって捕虜収容所に容れられる事を望んだ。

 更に亡命政府である自由フランスの軍が到着すると、武器を持ったままその陣営に逃げ込んで、そのままかつての味方に銃を向ける。

 もっとも、銃を向けはするが、放つのは弾丸ではなく

「お前らも早く降伏して、こっちに来い」

 という言葉であり、それが非常に効果的な攻撃となった。

 攻撃した部隊は全滅する。

 死傷者0、全員投降という形で。


 スペインのフランコ総統も頭を抱える。

 不法入国の民なら、銃で脅して追い返す事も出来る。

 しかし、降伏して捕虜となった兵士を殺害するのは国際法違反である。

 それを分かってフランス人はすぐに捕虜となる。

 指揮官等は

「私の階級はこれだ。

 階級に相応しい処遇を要求する」

 と堂々と言って来て、ワインとご馳走と美女を要求する図々しさだ。


 まあ、スペインには手が有った。

 それは影響力のあるラテンアメリカ諸国に送り込む事である。

 気候変動の影響を受けていない南半球にあるこれらの国に、フランス人も移住する事を歓迎した。

 また、自由フランスの支配下にある海外フランス領に赴く者もいた。



 だがこれらの移民は、イギリスが警戒していた事態に陥る。

 戦争をクソ真面目に遂行するドイツ軍が出した潜水艦による攻撃であった。

 イタリア、イギリスと同盟して抵抗するスペインは、今やドイツの敵である。

 スペインから出港した船舶は、大西洋上でドイツの潜水艦による雷撃を受け、移民となるフランス人捕虜共々海に沈む。

 スペイン人の犠牲は少ないが、折角捕虜となり、南半球に移送されるフランス兵は、希望半ばにしてドイツ軍に殺されていく。

 何万人もの投降フランス兵が大西洋で死んでいった。

 スペイン及びポルトガル沖では、サメを含んだ漁獲量が増え続けた。

 何を食って魚がそんなに増えたかは…………。


 スペインがピレネー山脈で頑張っている為、ポルトガルは平穏無事であった。

 だが、見境の無いドイツの潜水艦による攻撃は、ポルトガルの船にも及ぶ。

 スペイン、ポルトガル両国はドイツよりも弱体な海軍であった為、イギリスにドイツ潜水艦の駆除を依頼する。

 ドイツもそれは分かっているから、イギリスに対して先制攻撃に出ていた。


 ジェット気流の上流、イギリス上空。

 空襲をかけるドイツ空軍機は、高出力のジェット機ばかりで確かに気流に負けない。

 しかし、燃費は最悪である。

 戦闘機は短時間しかイギリス上空に滞在出来ない。

 戦闘機が引き返すと、爆撃機はイギリス戦闘機の餌食となる。

 イギリス戦闘機はいまだレシプロ機で、ドイツのジェット戦闘機相手には分が悪い。

 上空の気流に負けない、超高出力エンジンを使っている為、トルクが半端ではない。

 操縦性がピーキー過ぎて、安定した飛行の戦闘機相手には操縦を失敗するパイロットが多発する。

 だが、爆撃機が相手なら落ち着いて行動し、多数の戦果を挙げていた。

 イギリス海軍はスコットランド北部のスカパフローに艦隊を置いた為、ドイツの航続距離が短い戦術爆撃機では攻撃し切れない。

 本土爆撃では迎撃をされる。

 第二次英国の戦いバトル・オブ・ブリテンは、戦闘機の性能はドイツ軍の方が遥かに上なのに、爆撃機の被害は拡大し続ける有り様となり、空軍司令官ゲーリング国家元帥はヒトラーに怒られ続ける事になる。


 一方、地中海方面ではドイツ空軍圧倒的有利な状況になっていた。

 イタリア空軍、マッキMC.205Vヴェルトロ戦闘機の性能は高い。

 だが最高速度で200km/hも上のドイツ空軍メッサーシュミットMe262ジェット戦闘機には歯が立たない。

 そして温暖な空を短距離飛行する為、ドイツ軍各種爆撃機は制空権を確保された中、猛威を振るい続ける。

 それはイギリス空軍が防衛にあたるマルタ島も同様だ。

 かつての優秀戦闘機も、世代が違うジェット機相手ではただ餌食となるだけである。

 苦戦の時期が続く。


 そして、ジブラルタルとセウタを強硬突破し、ドイツ戦艦「ビスマルク」と「ティルピッツ」が地中海に突入した。

 陽動作戦として巡洋戦艦「シャルンホルスト」と「グナイゼナウ」が大西洋での通商破壊作戦に出ていた。

 イギリス本国艦隊は、ドイツ巡洋戦艦部隊を追撃する形で釣り出される。


 こうして上手くイギリスを出し抜いたと思っていたドイツ海軍だったが、実はこれ自体がイギリスの罠であった。

 イギリスは暗号解読から、強力な戦艦2隻が地中海に回り、イタリアを破るべく決戦を挑むつもりであると知っていた。

 撃破する計画を立てていたが、その中で

「広い大西洋で追いかけっこをするより、

 わざわざ地中海という限定海域に入りたいと言ってるのだから、入れてやろう。

 地中海で戦う方が我々には楽だ」

 という意見が出た為、それを採用する。

 イギリスにしたら、地中海突入を諦めて、大西洋で活動でもされる方が厄介なのだ。

 強力な戦艦は地中海に入れて、蓋をしてしまえば怖くも何ともない。

 こうして裏をかいたつもりのドイツ戦艦部隊は、罠の中におびき寄せられた。


 アレキサンドリアに居たイギリス地中海艦隊が、ドイツ戦艦隊殲滅の為に出撃する。

 そのイギリス地中海艦隊司令官以上に闘志を燃やしていた男がいた。

 イタリア統領ベニト・ムソリーニである。

「裏切り者のドイツ人に、目に物見せてやろう!

 我々の海軍の真の力を世界に示そうではないか!

 『ヴィットリオ・ヴェネト』級戦艦全艦に出撃を命じよ!」


 戦艦対戦艦の対戦が始まる。

次話は18時にアップします。

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