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フィラデルフィア実験でテスラ・コイルがバミューダ・トライアングルの門を開き……

1940年6月、アメリカ大統領フランクリン・ルーズベルトは、国防力強化の為、科学者動員令を発令。

高名な学者から胡散臭い学者まで国家の為に学問をもって奉職する。

その中の一人が言った。

「敵から姿を消す実験をしましょう」と。

 1940年9月9日月曜日は、アメリカの祝日「労働者の日(レイバーズ・デイ)」であった。

 その翌日、アメリカ東海岸フィラデルフィア港で、将来を見据えた極秘実験が行われる。

 英独間で進行中の空戦・バトル・オブ・ブリテン。

 その戦いにおいて、ドイツ機接近を知らせるレーダーの有用性が実証されていた。

 将来アメリカも大量のレーダーを使おうと考えている。

 だが、自分が使うという事は、仮想敵国日本も使う可能性がある。

 なにせ、この機械に必要なアンテナは、日本人の名を取って八木・宇田アンテナと呼ばれるのだ。

 それだけでなく、強力なマイクロ波の発振が可能な分割陽極型マグネトロンも日本人・岡部金治郎が開発した。

 表向き、軽視しているように見える日本だが、裏では何をしているか分からない。

 実は優れた電波兵装を既に実装しているのかもしれない。


 アメリカは、レーダーから身を隠す装備を試す事とした。

 そこで天才科学者ニコラ・テスラの発明であるテスラ・コイルを使った装備を、駆逐艦DD-419 ウェインライトに設置する。

 この装置はテスラの他、ナチス党の弾圧から逃げて来たドイツ人科学者やユダヤ人科学者の協力もあった。

 空中放電により時空に断層を作り、敵の電波をあらぬ方向に送ってしまうという理論である。

 このいかがわしい装置のスイッチが入れられる。


 この時、バミューダ島沖を航行していたイギリス船は、バミューダ島上空を頂点の一つとする三角形の発光を目撃する。

 別の者はメキシコのピラミッドが異常振動しているのを確認したが、直後に電話が切れた。

 更に多くのキューバ人が、アメリカの方から飛び出す大量の光球(オーブ)を目撃した。


 暫くして海の水が急激に引いていく。

 アメリカの在った海域に向かって強烈な引き潮が発生した。

 この時、巨大な質量移動が発生し、全世界的に巨大な地震が発生する。

 断層型地震ではない、変わったタイプの地震であった為、揺れの大きさの割に長周期振動で、近い中南米は兎も角、遠い欧州や日本で地震の被害は大して出ていない。

 代わりに大量の海水の移動がきっかけとなった津波が発生し、太平洋と大西洋の対岸を襲う。

 イギリスは、アイルランド島という防波堤の為に、被害は大きいものの壊滅的被害は受けていない。

 フランスやスペインの沿岸は被害を受け、更に地中海の中にも浸入した津波が沿岸に被害を出す。

 日本や中国沿岸は甚大な被害を出した。

 ハワイも大きな被害を出したと、現地日系人からの報せが入っている。


 北米大陸が消滅して起こった最初の被害であった。




 商船の何隻かは消息を断ち、無事だった商船は「アメリカが見つからない」という報告をイギリスに送る。

 イギリス首相ウィンストン・チャーチルは当初気にも留めていなかった。

 そんな馬鹿な事が有る訳がない。

 むしろ巨大な波による被害と、ドイツ空軍の空襲への対応が一大重要事項であった。


 しかし、駐米大使館との連絡途絶、海水面の低下、相次ぐ商船からの報告に

(何かおかしい)

 と思い始めた。

 彼を動かしたのは、大西洋に展開しているイギリス艦隊、ポケット戦艦と呼ばれるドイツ装甲艦を捜索している艦隊からの報告であった。

 ニューファンドランド島が、忽然と消えたというものだ。

 更に続報で、その先のカナダそのものが見つからない。

 デボン島、コーンウォリス島は確かに存在するが、その南のサマセット島やプリンス・オブ・ウェールズ島、ビクトリア島、バンクス島から南が消えた、という詳報ももたらされる。

 消えた島々より南に延びているが、グリーンランドと近いバフィン島は残っていた。


 謎の地震と巨大津波、海水面の低下、北米大陸が消滅したと考えれば辻褄が合う。

 津波も規模こそ大きいが、海面が低下した為か被害は(後に計算したものより)小さい。


 チャーチルは急ぎ閣僚を招集し、緊急会議を開いた。




「諸君、一大事が起こったのだ」

 各大臣も何らかの事情は既に知っていた為、困惑した表情で参列していた。

「北米大陸が消えた。

 アメリカ合衆国が消滅した。

 我々が戦争する上で後ろ盾となっている国が無くなった」


 1940年5月に首相就任したチャーチルは、アメリカ大統領フランクリン・ルーズベルトに手紙を送る。

 その内容は旧式駆逐艦の貸与を要請するものだった。

 これに応え、9月にイギリスとカナダに向けてアメリカ駆逐艦が送られた。

 何隻かはイギリスに到着している。

 しかし、第一陣だけで50隻の旧式駆逐艦の貸与という約束からしたら、実に微々たるものだ。


「それだけではない。

 我々は多くの物資をアメリカから輸入しているし、工業製品の輸出も行っている。

 戦時だが経済を回す意味で、アメリカとの関係は重要だった。

 だが、その国はもう存在しない」

 チャーチルはいずれ、アメリカにも参戦して貰う予定であった。

 しかし、その目論見は崩れ去った。


「カナダ消滅も問題です。

 英連邦カナダからは、既に3個師団が送られています。

 軍事的にカナダの兵を得られないのは問題です」


「分かっておるわ!

 諸君、無くなった国の事を言って、戻って来るならそうしよう。

 だが、我々はアメリカが消滅したという前提で、これからの事を話そうじゃないか。

 諸君、我々は戦争を続けられるかね?」


 一瞬沈黙する。


「厳しくはありますが、インドやオーストラリアからの物資を使えば、ドイツとは戦えます」

 これはアンドリュー・ダンカン軍需大臣の回答である。


「いや、我々にヨーロッパの面倒を見る事は困難です。

 ドーバー海峡を守るのが精一杯です。

 どうかドイツとの宥和を」

 外務大臣を勤めるハリファックス子爵エドワード・ウッドの意見はこうだ。


「ドイツなど恐れるに足りません。

 しかし閣下。

 アメリカが消えた事で、我々は背後に巨大な敵を抱えました」

 この発言はダドリー・パウンド第一海軍卿のものだ。


「背後の敵?

 日本か?」

「左様です。

 再軍備から期間が経っていなく、大型艦と潜水艦ばかりの歪なドイツ海軍に比べ、

 あの国はバランスが良い軍備をしています。

 規模もドイツとイタリア、そしてフランスを合わせた程もありましょう」


 北米大陸が消えた事で、北大西洋と北太平洋は繋がった。

 やろうと思えば、日本の連合艦隊は直通でイギリスまで来られる。

 無論、この長大な航路を無補給で来られる艦は少ないが、可能性としては考慮せねばなるまい。


「あの国の海軍を育てたのは我が国です。

 その実力はよく知っています」

「よく知っているから、勝てるのではないか?」

 イギリスはまだ、日本海軍を甘く見ている所がある。

 チャーチルにしても、来月から就役を開始する新鋭戦艦キング・ジョージ5世級があれば、これまで世界最強と呼ばれた金剛級戦艦4隻からなる日本の第三戦隊にも勝てるし、日本の侵攻を食い止める事が出来るという思いがあった。


 これに対し、パウンド卿は残念な回答をする。

「確かに日本だけが相手なら、勝ってご覧にいれましょう。

 しかし、ドイツと日本を両方相手にするのは困難です。

 その上、地中海にはイタリア艦隊も居るのです。

 大西洋でドイツ、地中海でイタリア、その上で日本まで加わると勝算は相当に下がります」


 チャーチルは渋面でいたが、やがて

「パウンド卿の発言は正しいと考える。

 諸君、どうだろう?」

 と言った。


 閣僚たちは、一旦仕切り直す事を求める。

 アメリカ合衆国存在、英連邦カナダも存在という前提で成り立っていた戦争計画だ。

 前提が覆った日には、最初から計画を練り直さねばならない。

 だが、ドイツは待ってくれない。

 そうなると、講和した方が良い。


「日本は味方に引き入れられます」

 キングスリー・ウッド財務大臣が口を開く。

 財務大臣は、日本の弱点を知っていた。


「日本は石油資源を有していません。

 アメリカからの輸入に頼っていました。

 それで我が国もアメリカも、石油を禁輸とする事で日本のアジアに対する軍事行動を止めようとしていました。

 逆に言えば、石油を売る事で日本を味方にする事も可能でしょう」


「アメリカという日本の歯止めが無くなった以上、彼等の東南アジア進出は止められないでしょう。

 我々は香港、シンガポール、マレー、ビルマという植民地を抱えています。

 日本にそこを攻められたら、守り切れる自信は有りません。

 日本と交渉し、他の地域は兎も角、イギリス植民地は攻められないよう手を打ちましょう」

 植民地大臣ロイド男爵も日本との和を訴える。


「だが、日本の領土的野心がどのようなものか分からぬ。

 口ではOKと言って、油断した我が植民地を攻めるやもしれぬ」

 エイヴォン伯爵アンソニー・イーデン陸軍大臣は、警戒を唱える。


「日本の要求を呑めば、彼等は中国との戦争に掛かりっきりとなりましょう。

 彼等は石油さえあれば、中国との戦争を続けられます。

 そして、中国との戦争の片手間に南方を攻める事は出来ますまい」

 まだイギリスは日本を甘く見ている。

 日本はそれをやれる「非常識な思考」を持っているのだが……。


「諸君たちの意見は分かった」

 チャーチルは首相として決断する。


「中国など私にはどうでも良い。

 アメリカと歩調を合わせていただけだ。

 日本は仮にも我が国と同盟を結んでいた国で、同じように君主を戴く立憲国家だ。

 それに、あの国は馬鹿正直な部分がある。

 同盟を結べば、裏切る事は無いだろう」


 日英同盟路線を取ると決断した。


「ですが、日本は既にドイツの同盟国です。

 参戦義務を負っていないだけで、ドイツを裏切るとも思えません」

 かつて陸軍次官を務めた事もあるクレメント・アトリー王璽尚書が不安を口にする。


「だから工作が必要だ。

 駐日大使館に連絡しろ。

 日本をドイツから引き離せ。

 全力で外交攻勢に打って出ろ。

 石油も中国もくれてやれ。

 アメリカが居ない以上、日本を敵に回してはならない。

 万が一、インドにも日本の攻撃が波及した日には……」


 一同は理解した。

 イギリスの破滅である。

 かくしてチャーチルの命は、東京の大使館に伝えられたのだった。

21時も更新します。

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[良い点] そういえばそんな都市伝説あったな、消えたの駆逐艦1隻だけだけど。 確か映画にもなったやつ。 [気になる点] ほんとアメリカはどこへ行ったのか?一応無事ならその辺のスピンオフも読んでみたい。…
[気になる点] この発想は無かった。 しかし、米帝はどこ行った? サツマン朝みたいに異世界に覇を唱えているのだろうか。
[一言] 日本対英国直接対決… 大陸間戦争とは言えないよななんなんだろ
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