表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
116/128

動き出す連合国、焦る日本

ヨーロッパでは、ちょっとでも数字が見られる人間からすれば、食糧難が間もなく訪れるのは確実と分かる状態になっている。

そこにドイツから

「食糧調達は自己責任で行うべし。

 ベルリンからの命令を待つ必要無し(一切協力しないぞ)。

 必要であれば、非常の手段に出ても構わない」

という通達が届く。

非常の手段とは、自国民を淘汰する事である。

あえて通達や命令はしていないが、

「身体障害者、知的障碍、性的少数者、犯罪者とその家族、生産能力の低い者、親から独立しない子供は駆除しても良いのではないか」

と暗に匂わせていた。


「非常の手段だと?

 よろしい!

 ドイツがそうなら、我々も非常の手段を取る!」

流石に自国民を減らすような暗示をされたヴィシー政権のペタン主席は、「非常」の手段に出た。


「総統!

 大変です!

 フランスが! ペタンの野郎が、スペインに降伏しました!」

本気で戦ったら強い方が弱い方に降伏という、常に非ざる行為であった。

 イギリスは情報戦において、日本どころか、ソ連やドイツにも優越する。

 緬甸方面軍からの増援要請と、その返答は全て傍受し、暗号解読の結果行動が筒抜けとなっていた。

 如何に船団護衛の隊形が理に適っていないとはいえ、日本では最強級の対潜部隊が護衛につく事も分かった。

 日本の貧弱な対潜能力に対し、それでも潜水艦部隊をぶつけても良い。

 だがイギリスとて無限の生産能力を持ってはいない。

 消耗は嫌なものだ。

 相手が対潜能力を持つ小型艦なら、あえて潜水艦で勝負せず、水上艦艇や航空攻撃で対処すれば良い。

 日本の遊びのように、(ストーン)には(ペーパー)を、(ペーパー)には(シザー)を、(シザー)には(ストーン)を当てれば良いのだ。


 イギリス軍情報部と海軍は相談し、更に外務省も巻き込んで作戦を立てる。

 そしてセイロン島を放棄し、ボンベイまで撤退していたイギリス東洋艦隊が動き出した。


 空母6隻から成るイギリス機動部隊は、旗艦・巡洋戦艦「フッド」に率いられてセイロン島に戻る。

 セイロン島にはまだ日本軍の侵攻は無く、空襲を受けた後は放置されていた。

 残余の基地守備隊が港湾を修復し、軍港として使用可能としている。

 チャーチルの「ジョンブル魂を発揮せよ」演説で、海軍軍人も奮い立っていた。

 ただし、司令官であるフレーザー大将は冷静である。

 国の大戦略に沿った作戦行動をし、無駄な事はしてはならない。


「諸君に我が艦隊の行動について説明する」

 フレーザー提督の説明に、将兵は少々不満な表情になる。

 しかし、現実としてインド洋にいる日本海軍第二艦隊及び第一航空艦隊と対抗可能な部隊は、このイギリス東洋艦隊しか無く、しかも足の遅いR級戦艦はボンベイに捨てていった「機動部隊」という形でしか互角にやり合えない。

「彼等を釣り出す為にも、我々はこれより損害無く、各地の日本軍に打撃を与え続ける必要がある。

 ドレイク提督の如く、神出鬼没に日本軍を翻弄しようではないか」

 ネルソン提督以外にも数多いイギリスの海の将帥。

 その中でも有名であり、海賊としての活躍も知られる男の名を出され、艦隊の兵士たちはやるべき事は確実に理解した。


 現在、第二艦隊も第一航空艦隊もシンガポールやペナン島に停泊している。

 実は海軍では、セイロン島占領作戦が持ち上がっていた。

 ボンベイまで撤退したイギリス東洋艦隊を叩くには、近くに拠点が必要である。

 一撃を加える事だけが目的なら現状でも攻撃可能だが、アラビア海からアフリカ沿岸までの海域で制海権を奪う為には、セイロン島を攻略したい。

「それは流石に戦線を拡大し過ぎではないだろうか?」

 と、これには陸軍だけでなく海軍内部からも慎重論が出ている。

 第二艦隊司令長官栗田建夫中将、第一航空艦隊司令長官小沢治三郎中将も反対であった。

 だが、彼等とて海軍軍人、敵を叩くなとは言っていない。

 イギリス東洋艦隊を誘き出して、インド洋の東側、ベンガル湾で決戦する事には賛成している。

 その為、セイロン島攻略であれ、コロンボを攻撃して東洋艦隊を釣り出す作戦であれ、対応出来るように一旦根拠地に戻って補給と整備を行っていたのだった。


 そんな彼等にイギリス軍襲来の方が届く。

 アンダマン諸島のインド国民軍が、イギリス機から空襲を受けたのだった。

 これを皮切りに、ラングーンへ移動中の商船が空母から発進したと思われる航空隊の攻撃を受けて沈没。

 アキャブやコックスバザールといった第28軍及びインド国民軍の物資集積場所も襲撃を受ける。

 チッタゴン方面で活動していた日本海軍の小艦艇も空襲によって損害を受ける。

 それぞれで見れば小さな損害なのだが、「ベンガル湾の制海権はいまだ日本のものに非ず」という事実を提示され、黙って見過ごすわけにもいかない。

 特に輸送船を沈められた事で、陸軍の方も

「インド洋全域を安全圏にし、敵艦隊の跋扈を抑えて欲しい。

 必要とあらば、セイロン島攻略の為の兵力も出し惜しまない」

 と意見を変えた。


「これは我々を誘い出す罠ではないか?

 我々が英艦隊を釣り出したいのと同様、英艦隊の方にも我々を引っ張り出したい理由があるのではないか?」

 慎重居士な栗田中将が不安を口にする。

 小沢中将も同様の不安を感じていた。

 しかし、第一航空艦隊副司令官の山口多聞中将が

「英艦隊が呼んでいると言うなら、行けば良いのではないか?

 我々も決戦を望み、彼もそれを望む。

 私は行って良いと思うね」

 と、敢えて挑発に乗るべきだと言い出した。

「山口中将、敵には何らからの意図が有って、我々はそれに乗せられたら拙いのではないかね?」

 小沢中将の質問に山口は

「無論それも考えております。

 しかし、ずっと港内で次の作戦まで待機し続ける、なんて訳にもいかんでしょう。

 味方が攻撃を受けておるのです。

 イギリスさんの意図は、挑発に乗ってみないと見えません。

 放置していれば傷が拡がります。

 どんな意図が有るのか、さっさと対応してみても良いのではないですかね」

 そう答えた。

 確かに、明らかに居ると分かっている敵艦隊を前に手をこまねいていると、臆病者との誹りを受けるだろう。

 現場部隊は本国の雑音等無視すれば良いが、海軍省の方はそうもいかないだろう。

「いずれにせよ、連合艦隊司令部からの命令を待って行動する。

 現場の判断だけで勝手な事は出来ない。

 山口中将の意見にも一理あるし、恐らく本国からは敵艦隊を叩けと言って来るだろう。

 第一航空艦隊は戦闘態勢で待機とする。

 栗田中将は如何されます?」

「第二艦隊としても、敵艦隊との決戦に否やはありません」

 こうして現場は戦闘態勢に入る。




 その東南アジアから遥か遠く、モスクワで日本は驚愕すべき通達を受けていた。

 モロトフ外相に呼び出された佐藤尚武駐ソ大使は、日ソ中立条約の更新をしないと宣告される。

「貴国は、自動更新される中立条約ですが、あえて延長後の更なる関係強化に向けての交渉について、日本に準備しておくように言って来たではないですか?

 確かに、満了まで1年を切ったら自動延長、だからそれ以前に通告すれば打ち切り可能です。

 しかし、我々は貴国が友好を望んでいるものと信じていたのですぞ!」

 モロトフは哀願する佐藤大使に対し、冷たく言い放つ。

「一体いつから……破棄プロセスを履行しないと錯覚していた?」

 佐藤大使は愕然とする。

 つまり、「延長後の手続きの準備をしておいて下さい」という言葉をかけて来た時点から、彼等は密かに破棄のタイミングを計っていたという事なのだ。

 その言葉をかけられた時期、日本は北進か南進か、対英戦か中立維持かで国の方針を決めようとしていた。

 ソ連が友好を望んでいる、信じない者も多く居たが、外務省は信じたかった。

 それにすっかり騙されたのだ。


 だがモロトフは、最後の揺さぶりをかける。

「なあに、中立条約の有効期限は来年までです。

 貴国が強いと知れたら、改めての交渉も有り得ますな。

 我が国は正直、イギリスと貴国を天秤にかけておりますので。

 貴国の勝利を願っていますよ」


 モロトフは

(これでチャーチルとの約束は果たした)

 と内心ほくそ笑む。

 戦争の事はスターリンと赤軍に任せれば良い。

 ソ連外務省としては、破棄の手続きを進めつつ、すぐに関東軍がソ連を攻撃させないよう日本を誘導すれば良い。

 ソ連にとってイギリスも潜在的な敵なのだから、焦って日本が総攻撃に出て、共倒れになってくれたら万々歳だ。

 相手を思いっきりぶん殴っておいて、手当の為のハンカチを差し出し、まだ愛情が残っているように錯覚させる家庭内暴力(ドメスティックバイオレンス)旦那のようなやり様は、ソ連の得意なものであった。

 佐藤大使は慌てて本国に報告を入れ、更に余計な一文も付け加える。

『対英戦での劇的な勝利が有れば、ソ連は再度の条約締結に前向きとなるだろう』


 東京では政府が混乱していた。

 ソ連の意図は対日戦なのか、それともイギリスからの働き掛けに答えただけか、または単なる条件交渉なのか?

 最後の「自分に有利になるよう、揺さぶりを掛けて来ただけだ」という意見は、外務省が強硬に言って来ている。

 東條は流石にそれには乗らないが、仮にソ連が対日戦を仕掛けるのが目的なら、今は最悪の状況なのである。

 関東軍は兵力を割いて南方作戦を支援している。

 支那派遣軍が総力を挙げて四川に侵攻。

 蔣介石を打ち破る完全勝利をするが、それで戦争は終わらなかった。

 蔣介石が行方不明となり、統制が取れなくなった彼の軍は、散発的に各地で蜂起を始めた。

 蒋介石が軟禁していた張学良、楊虎城、かつて蔣介石と戦った事もある李宗仁、更に蔣介石の子の蔣経国がバラバラに割拠した。

 これに毛沢東の中国共産党軍も加わり、支那派遣軍はこれら全てへの対応で軍を分散させ、中国各地に向かっている。

 その上、蔣介石が行方不明でも蔣介石軍はまだ戦い続けている。

 日本の第33軍と戦っている衛立煌の部隊がそれである。

 南方に兵を割いた関東軍、中国各地で分散して戦っている支那派遣軍、そして現在インド侵攻中の緬甸方面軍やニューギニア戦線の第八方面軍を纏めている南方軍(総司令官は寺内寿一大将)、これらを対ソ戦対応に引き戻すのは至難の業である。

 ここに来て、ソ連の脅威を「無いものと思い込んで」、南方に全振りしていた日本の脆さが浮き彫りになった。


 だが日本の首脳部が採ったのは

「現状のまま戦争を継続せよ」

 というものであった。

 まず、今更引き返せない。

 だったら、目の前のイギリス軍を撃破してから戻るべきである。

 下手に引き返させると、背後のイギリス軍から攻撃を食らう可能性もあった。

 既にインパールの後詰めに向かった緬甸方面軍の、新しい予備選力となる部隊も出港した。

 海軍は東洋艦隊撃滅の準備に入っている。

 そして、中途半端な態勢でソ連に対したならば、藪をつついて蛇を出す事にもなりかねない。

 イギリスを叩きのめせば、ソ連とて考えを変えるかもしれない。

 政治家としてはバランスを取ってやり繰りしている東條は、外務省からの「まだソ連との交渉は可能性がある」、陸軍の「すぐには配置転換は不可能」、海軍の「既に出撃態勢は整っている」、そして国民の「ここまで我慢したのだから、あと一撃で英国を倒せるではないか!」という声に抗し切れず、惰性的な戦争指導をせざるを得なかった。


 そしてコレヒドールのマッカーサー軍司令部。

 脱出を拒み、ここに籠っていた彼は、真珠湾から派遣された潜水艦からの連絡員により重要な情報を得る。

「間もなく反撃が始まる。

 閣下がここに籠っていたのは正解だった。

 このままここを維持して欲しい。

 そう長い事では無いだろう」


 連合軍の反撃が始まる。

おまけ:

支那派遣軍総司令部にて

「山東で伊達順之介が再蜂起したぞ!」

「放っておけ。

 どうせ支那が群雄割拠したから、血が騒いだんだろうが、

 あいつに従う兵力なんかもう無いぞ」

かつては日本・満州・中華民国全方位で喧嘩を売った風雲児の力も落ちたものであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] まえがきwwwwww まぁ、スペイン王家はブルボンですしおすし。
[良い点] 大日本帝国が頭大日本帝国してる…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ