インド洋作戦
【イギリス東洋艦隊 主力艦配備状況】
現有戦力(司令官 サー・ブルース・フレーザー大将)
空母 5:アーク・ロイヤル、ヴィクトリアス、インドミダブル、フォーミダブル、ハーミズ
戦艦 5:リヴェンジ、ロイヤル・サブリン、ラミリーズ、レゾリューション、ウォースパイト
増派部隊(司令官 フィリップ・ヴィアン少将)
空母 3:インプラカブル、インディファティガブル、ユニコーン
戦艦 1:アンソン、
巡洋戦艦1 :フッド
(本国回航中)
巡洋戦艦 1:レナウン
日本軍の快進撃は留まる事を知らないようだ。
ついにシンガポールも陥落。
多数のインド人兵士が捕虜となる。
日本は、このインド人兵士を再編成し、インド侵攻の為の軍を作っている。
スバス・チャンドラ・ボースというインド解放戦線の指揮官が、自由インド仮政府を立てて、この兵士たちをインド国民軍として戦力に組み込んでいく。
日本は、イギリスから見たら占領者として余りに異質である。
ベンガル湾のアンダマン諸島とニコバル諸島と占領すると、これをボースの自由インド仮政府に提供。
晴れて自由インド仮政府は領土持ちの国家という体制を整えた。
現在日本海軍は、占領したペナン島を拠点とし、このアンダマン諸島とニコバル諸島の辺りまでを支配している。
その先、イギリス海軍の拠点の一つセイロン島を攻撃する。
セイロン島コロンボ及びトリンコマリーには、イギリス東洋艦隊主力が駐留している。
空母5隻、戦艦5隻という強力な戦力である。
更に援軍の派遣も決まっていた。
英国の誇り・巡洋戦艦「フッド」を旗艦とし、空母3、戦艦1、巡洋艦、駆逐艦多数という部隊である。
この部隊出撃の報は、ドイツ情報機関より日本に送られた。
現在インド洋にいる空母「イラストリアス」級は搭載機数48機と少ない。
軽空母「龍驤」と同程度である。
70機以上搭載可能な日本の「赤城」「加賀」「翔鶴」「瑞鶴」に近い搭載機数なのは、旧式の「アークロイヤル」となる。
「イラストリアス」級は防御力重視である。
飛行甲板に装甲を張っている為、トップヘビーとならないよう格納庫は一段である。
アークロイヤルは装甲甲板ではない為、トップヘビーを気にしない甲板の高さな為、二段式格納庫となっている。
故に搭載機数が多い。
この「イラストリアス」級を改良し、トップヘビーとならないように二段式格納庫を実現し、搭載機数を80機まで増やしたのが増援される「インプラカブル」級であった。
「インプラカブル」と「インディファティガブル」の2隻が到着すると、インド洋におけるイギリス軍戦力は一気に増強される。
空母「ユニコーン」は、本来は艦隊随伴型航空機補修艦であり、攻撃力よりも後方での活躍を期待されている。
ドイツからそういった数々の情報がもたらされた時、その新型空母到着前に現在インド洋に展開中の艦隊を叩いた方が良い、叩いて欲しい、というドイツからの意見も込みであった。
日本としても、インド侵攻を始めとした「西亜打通作戦」に際し、強力なイギリス艦隊は邪魔である。
持てる全空母戦力、巡洋艦戦力をもってセイロン島を攻撃する事とした。
更にイギリス海軍はセイロン島だけでなく、ベンガルのチッタゴンにも基地を持っている事も分かる。
侵攻の露払いとしてインド洋のイギリス海軍を撃破しておきたい。
ドイツからはイギリス海軍の様々な情報が入って来る。
また、インド解放戦線もイギリス東洋艦隊の基地の情報を次々と送って来る。
海軍はインド洋におけるイギリス艦隊の様子を質・量ともによく知るようになった。
「敵を知り、己を知らば百戦危うからず。
ここまで情報があるなら、万が一にも負ける事は無い」
「まだ敵戦力が分断されている内に叩くべし。
合流されたら厄介な事になる。
勝てないとは言わないが、わざわざ敵の集結を待つ事もないだろう」
こうしてセイロンとベンガル攻撃が決まる。
これも露払い的な要素が大きく、本命は来年以降に予定されているインド侵攻作戦であった。
故に、本命の作戦の為に主力の戦艦部隊は温存する。
……何度も戦艦部隊を動かす程には燃料が無いのも事実なのだが。
さて、イギリス東洋艦隊司令官ブルース・フレーザー大将は、チャーチルの意図を理解していた。
イギリス海軍省の中でも
「R型戦艦(リヴェンジ、ロイヤル・サブリン、ラミリーズ、レゾリューション)は債権ではなく債務である。
重荷に過ぎない。
この戦艦で戦おうなんて考えてはいけない」
と言われていた。
マレー沖海戦やマリアナ沖海戦の結果を見ても、日本海軍は強い。
イギリス東洋艦隊は、数こそあるが、その内容はお寒いものだ。
だが、艦隊がそこに在った事に意味がある。
こうして日本軍の釣り出しにも成功した。
「我が艦隊は、損害を出さない内にセイロン島を放棄し、ボンベイまで撤退する」
フレーザー大将の指令に、多くの者は反対した。
地の利を生かして戦えば良いだろう。
基地航空隊の支援も得られる。
だがフレーザーは言った。
「諸君たちは、我々が大西洋や地中海で沈めまくったドイツ海軍と同程度に、日本海軍を見ているのか?
無論、私も戦って負けるとは思っていない。
しかし私に課せられているのは、そんな一戦場での勝利ではない。
戦争全体での勝利である」
つまり、イギリスの方針としてインド洋まで日本海軍を釣り出して、好き放題に暴れさせて石油消耗を早めるのが目的なのだ。
情報が逐一報告されている?
そうさせていたのだ。
確かに戦わずして逃げる形になり、大英帝国の威信は傷つくかもしれない。
だがそんなの1年か2年の話だ。
極東に在る日本の軍を、遥かインド洋まで引っ張り出す事が出来た時点で、戦略的には勝利と言えた。
ならば個々の勝敗はどうでも良い。
来るべき反攻作戦に備え、兵力を温存しておくべきなのだ。
「ですが、それでは易々とベンガル湾を日本に明け渡す事になります。
我々の商船部隊は通行出来なくなるでしょう」
「日本の方もな」
「は?」
「忘れたか?
我々にはセイロン島とベンガル以外にも、もう一ヶ所拠点がある事を」
「しかし、あそこは大した設備もありません。
秘密基地的なものじゃないですか」
「それで十分だ。
いや、そうであるべきだ。
見つかってはならない。
だから目を引いてしまう、大規模な艦隊や構造物は不要だ」
戦隊司令官や艦長たちは、まだ色々言いたい事は有ったが、司令部の方で先を見通した方針を立てていて変える気が無いなら従うのみ。
第一航空艦隊の小沢治三郎中将の元に、英艦隊が続々と出港しているという報が入る。
奇襲は失敗したようだ。
「古村君、どうも我々の情報が漏れているようだね」
小沢中将は古村啓蔵参謀長にボヤく。
「ええ。
本国では新聞報道で『印度洋ノ英艦隊撃滅ニ向カフ』なんて出ていました。
作戦がこんな簡単に市井に広まるとは由々しき事です」
「弛んでいるのかな?」
「ここ最近の帝国海軍はおかしいと思います。
確かに自分も艦隊が維持されて嬉しくは思います。
しかし、艦隊維持の為になりふり構わずに山本長官暗殺を行ったり、
手柄を焦って拙速な行動を採ったり、
それでいて戦力温存の為にこの作戦も戦艦部隊は後方で待機です。
海軍の存在を誇示する為に、戦果は誇張して発表し、作戦は発動前から成功したも同然に伝える。
弛んでいるというより、何かおかしいのです」
「焦っているのかもしれないな。
アメリカ合衆国が消滅した今、海軍は敵を見失ってしまった。
だから無理にでも敵を作っている。
無理だからこそ、無理を押し通す為に無茶苦茶な事をする。
困ったものだね」
「そうですね。
しかし、こんな話は兵たちには聞かせられませんな」
「全くだ」
昨今の海軍のあり様についての話は終え、実務の話に移る。
敵艦隊を軍港内で襲う計画は頓挫した。
となると、敵はこちらを攻撃しに向かって来ているだろう。
敵にも空母が5隻いる。
情報によれば、12機しか搭載していない「ハーミズ」は無視出来るとしても、残る4隻で200機近い艦載機を有しているから侮れない。
空母の攻撃力は、マレー沖海戦で自らが証明してみせた。
逆をやられたら笑えない。
索敵機を飛ばし、敵の接近に警戒する。
更に先に敵を見つけて攻撃隊を出す。
こうして「赤城」「加賀」「蒼龍」「飛龍」「翔鶴」「瑞鶴」「龍驤」の7隻は戦闘態勢に入り、巡洋艦「利根」「筑摩」他全巡洋艦からは索敵機が発進する。
敵艦隊の進出予想海域を隈なく捜索する。
だが見つからない。
敵を見つけないと、こちらが先にやられる可能性がある。
慎重な小沢提督は、何度も念入りに索敵を行った。
見つからない筈である。
小沢艦隊司令部では、イギリス艦隊が「攻撃に来る」事を前提に哨戒海域を設定していた。
実際にはイギリス艦隊は「退避」していた為、哨戒網の遥か遠方に居たのだった。
慎重な小沢提督は、そんな事は分からないから、ついに空母からも航続距離の長い索敵機を発進させる。
この着艦が邪魔になって、攻撃隊を発進させられないリスクを恐れていたのだが、居るべき敵を見つけられない方が余程恐ろしい。
こうして索敵距離を延ばした結果、チッタゴンを出てインド亜大陸沿いにボンベイに向かっている空母「ハーミズ」と数隻の巡洋艦部隊を発見した。
「他は居ないのか?」
「他は居ません」
「コロンボの近辺は」
「全く居ません」
小沢は悩む。
だが、副司令官格の山口多聞中将から
「マズ発見シタ艦隊ノ攻撃ヲスベシ」
という意見が届き、小沢はそれを受け容れた。
こうしてチッタゴン駐留艦隊は、優勢な日本の機動部隊からの攻撃を受け、駆逐艦数隻を残して海底に消えた。
駆逐艦には
『生存者ヲ救助サレヨ』
というメッセージボードを投下し、見逃してやった。
小沢が攻撃を躊躇した理由。
攻撃を受ければ敵はそれを報告する。
つまり、小沢艦隊の存在が知られる。
そうなると反撃が来る事が予想される。
果たしてコロンボやトリンコマリーから多数の爆撃機が発進した。
小沢艦隊はスコールの中に隠れつつ、予め防空で出撃させていた零戦によってこれを迎撃する。
だが1隻、索敵機の収容を行っていた空母「龍驤」が、雨雲の外に残っていた。
零戦による防空を突破した1機が爆弾を投下する。
それが艦首付近に命中し、龍驤は「中破」した。
だが「龍驤」の災難は続く。
イギリスのブリストル ボーファイターTF攻撃機が魚雷を投下。
元々軽量化した設計により脆弱性が指摘されていた「龍驤」の艦首付近に魚雷が命中し、沈没はしなかったものの、前進困難となってしまった。
浸水を防ぎながら「龍驤」は後進で戦場を離脱する。
(そして後進での航海や、他艦による牽引で暗礁に艦底を擦ったりして、帰港時には「本国でないと修理出来ない」状態となり、臨時の艦首を付けて日本送りとなる)
「龍驤」は被害を受けたが、この空戦でセイロン島の航空戦力はほぼ壊滅した。
そして今度は小沢艦隊から攻撃隊がセイロン島に向かう。
ここにいるスピットファイア戦闘機も、ヨーロッパでドイツ相手に戦っているグリフォンエンジン搭載型ではない。
あんな調整の面倒なエンジンは、植民地では扱い切れないのかもしれない。
マーリンエンジン搭載型のスピットファイアも優秀な機体なのだが、日本の零戦隊は、機体以上に搭乗員の技量が人外過ぎた。
こうして敵の妨害を排除し、悠々とコロンボ、トリンコマリーを空襲で破壊する。
破壊を確認すると、小沢艦隊はチッタゴンに向かった。
ここも優勢な航空戦力で破壊し、新たな基地としたペナン島に向けて小沢艦隊は進路を変えた。
「見つからなかったようだな」
ここはアッドゥ環礁。
そこのイギリス海軍秘密基地には、多数の潜水艦が隠蔽されている。
「我々の任務は、決してこの基地を知られる事なく、
インド洋やマラッカ海峡、更には太平洋まで進出して通商破壊を行う事だ。
海軍省からの指示は、タンカーを最優先で狙え、との事だ。
諸君、狼を狩る必要は無い。
ウサギ狩りを始めるぞ」
日本艦隊は禍根を残していた。
おまけ:
イギリス潜水艦
・S級(水中排水量 935トン):62隻建造
・T級(水中排水量1,560トン):53隻建造
・U級(水中排水量 730トン):49隻建造
さらに太平洋方面で使用する為
・アンフィオン級(水中排水量1,620トン):46隻(予定)
を準備中。
なお日本海軍
・巡潜乙型(水中排水量3,654トン):20隻建造
・呂六十型(水中排水量1,301トン): 9隻建造
基本的に英独よりも大型。




