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マレー沖海戦

アメリカ合衆国カラーコード戦争計画

・ホワイト計画:アメリカ合衆国国内における内乱(共産主義者蜂起)対応

・レッド計画:イギリスおよびカナダとの戦争想定

・クリムゾン計画:カナダ侵攻のみに限定

・オレンジ計画:対日戦争想定

・グレイ計画:中央アメリカ諸国及び西インド諸島諸国想定

・パープル計画:南アメリカ諸国を想定

・バイオレット計画:同じく南アメリカ諸国を想定

・グリーン計画:メキシコ侵攻計画

・ゴールド計画:フランスおよびカリブ海のフランス領を想定

・ブラック計画:ドイツとの戦争対応

・インディゴ計画:アイスランド侵攻計画

・ブラウン計画:フィリピンの暴動鎮圧

・イエロー計画:中国での戦争について(対中国ではない)

・オリーブ計画:スペインとの戦争計画

・シルバー計画:イタリアとの戦争計画

・エメラルド計画:レッド計画と関連したアイルランド侵攻を扱う

・タン計画:キューバへの介入計画

・シトロン計画:ブラジルとの戦争計画

・レモン計画:ポルトガルとの戦争計画

・レッド・オレンジ計画:イギリスと日本の二国同時の戦争を想定


……仮想敵国多過ぎ。

 1944年10月29日、イギリスの最後通牒に対する回答期限の前々日。

 日本は逆に

「大日本帝国は大英帝国に対し以下の要求をする。

 一、馬来、緬甸、印度の解放

 一、亜細亜地域からの軍備撤廃

 一、禁輸措置の速やかな撤回

 以上の要求を呑まざる時は宣戦布告をするものなり」

 という逆最後通牒を突き付けた。

 回答期限は10月31日と僅かに二日しかなく、その日までの回答があれば日本もイギリスの最後通牒に応じ蘭印からの撤退を行うとあったが、イギリス政府は

「戦争を始めるにあたり、体裁を整えただけだな」

 と判断した。


「日本はドイツ同様奇襲攻撃が得意だ。

 回答期限明けの11月1日に攻撃を仕掛けて来るだろう。

 警戒に当たれ」

 シンガポール、香港は戦闘態勢に入る……


……その最中に日本軍の攻撃を受けた。


 日本軍は日本時間10月31日の0時をもって期限切れとして戦争を仕掛けた。

 普通は日本から9時間遅れのグリニッジ標準時10月31日23時59分59秒まで粘るものだが、さっさと戦争に移ったのは諦めが早いというか、最初から交渉なんてする気が無かったというか……。


 イギリス東洋艦隊は、流石にセレター軍港内で何もせずに沈められるようなのんびりした行動はしていない。

 彼等は1日早々に日本が仕掛けて来ると、読み間違えこそしたが、それでも回答期限切れと同時に間髪入れずマレーに上陸しようとしているであろう日本軍に、先制攻撃を加えるべくセレター軍港を出港済みであった。

 上空にはスピットファイア戦闘機や長距離支援のボーファイター戦闘機によるエアカバーがある。


 だが、足りなかった。

 40機も上空で護衛を行えば大丈夫だろうという甘さを、120機以上の戦爆連合が吹き飛ばす。

 日本の第一航空艦隊、空母6隻から発進した艦載機隊がイギリス艦隊に襲い掛かる。




 シンガポール攻撃前、日本海軍は悩んでいた。

「英国の新型戦艦『プリンス・オブ・ウェールズ』と『ハウ』は、同じ36サンチ砲でも『金剛』級よりも新型だ。

 更に巡洋戦艦も2隻いる。

 さしもの第三戦隊でも苦戦が予想される……」


「艦隊が国よりも優先、海軍があるから日本が成り立つ」

 というトンチキな思想の者が居る海軍だが、戦術的な視点は優秀であった。

 苦戦と言葉を選んでいるが、正直

「旧式の『金剛』級では勝てない。

 他の戦艦では追いつけない。

 最新鋭の『大和』級でないと勝てない」

 という認識である。

 だが、「大和」と「武蔵」は出せない。

 イギリスに続いて宣戦布告して来た新合衆国の戦闘艦隊を迎撃せねばならないからだ。


 アメリカ合衆国はカラーコード戦争計画というものを練っていた。

 1920年代に策定されたもので、

 対日戦は「オレンジ」というコードである。

 このオレンジ計画によると、ハワイのアメリカ艦隊はフィリピンを救援する為に日本近海まで侵攻する。

 この海域で制海権を確保すべく、日本海軍と艦隊決戦に挑むというものだった。

 この作戦計画は様々技術進歩や情勢の変化により時代遅れとなってしまう。

 そこで1936年にオレンジ計画は改訂される。

 直接日本近海で艦隊決戦を挑むのではなく、まずフィリピンにアメリカ艦隊を回航する。

 フィリピンに進出する事で、日本と資源地帯である東南アジアを分断し、日本を弱体化させる。

 その上でフィリピンから沖縄、そして日本本土と艦隊を進め、最終的には艦隊決戦で日本を敗北させるというものとなった。


 日本海軍は改訂前のオレンジ計画に対応すべく、漸減邀撃という作戦計画を立案した。

 ハワイを出撃したアメリカ艦隊を、南方海域で段階的に攻撃を仕掛けて減らし、数の減った敵と日本近海で最終決戦に至るというものである。

 日露戦争で考えられた七段構え迎撃を、日本海を戦場としていたものから太平洋版に焼き直したものと言える。

 日本より国力の大きいアメリカ合衆国は、主力艦である戦艦の数で日本に優越する事は確実である為、アメリカ合衆国が太平洋・大西洋に艦隊を分散するであろう事も想定し、対米7割という戦力保持を「国が破産してでも維持しろ」となったのはこの為である。

 それくらいの数が無いと、優勢なアメリカ艦隊での決戦に勝てないと考えたのだ。

 軍縮条約で対米7割は維持出来ず、6割程度と主力艦も補助艦も決められた為、航続距離の長い陸上攻撃機や飛行艇を「空飛ぶ水雷艇」として使う事を考えたのも、この漸減邀撃に則ったものであった。

 艦隊による段階的迎撃が出来ないなら、航空兵力を使おうというもの。

 日本海軍は徹頭徹尾、漸減邀撃の為の組織であったと言える。


 この漸減邀撃を考えた参謀が「国力とか色んな事を考えれば、決戦思考自体が時代遅れだ」と考え直したり、山本五十六や井上成美が航空兵力を主軸とした全く新しい用兵構想を考えたりもしたが、今彼等はこの世に居ない。

 日本には、ただハワイを出撃して日本近海なりフィリピンなりに来寇する艦隊を迎撃するのに特化した戦力のみが残っていた。

 故に、シンガポールに強力な戦艦部隊を置いて、米英で日本を牽制するというイギリスの戦略は真っ当であった。

 日本海軍の艦隊は、米英両方を同時に相手にして戦うようにはなっていない。

 決戦用の「大和」「武蔵」の他、数少ない16インチ砲戦艦「長門」「陸奥」、更には夜戦の主力と成り得る「金剛」級4隻から成る第三戦隊も、現在の新合衆国艦隊との決戦前に消耗させたくない。

 漸減邀撃という方針が、対英戦に縛りを掛ける。

 更に陸軍は、長年ソ連とシベリアで戦う事を想定して来た。

 対イギリス戦は想定していない。

 マレー侵攻だと言っても、それに使える長距離支援戦闘機を持っていなかった。

(キ43はお蔵入りとなった)

 掛け声だけ「英国を亜細亜から追い出せ」と勇ましいものの、所詮は野の声、若手将校の叫び。

 陸軍も海軍も対英戦の準備は出来ていなかった。

 それなのに、この対英戦を望む声に引き摺られてズルズルと……。


「こういう時の為に機動部隊を使います」

 暗殺された山本五十六が、連合艦隊司令長官として無理を押し通して編制した第一航空艦隊、その司令長官である小沢治三郎と副司令の山口多聞が主張する。

 空母を集中させたこの艦隊が、空からシンガポール及びイギリス東洋艦隊を攻撃する。

「空からのみの攻撃で敵を叩くなど、前代未聞だ。

 停泊中の戦艦ならいけるだろうが、もしも既に敵艦隊が軍港を出ていたら、作戦行動中の戦艦を航空兵力で沈める事など出来ないだろう」

 これが当時の常識である。

 イギリスのブレスト空襲も、停泊しているドイツ軍の駆逐艦や輸送船を沈め、港湾を破壊したものだ。

 逆にドイツ軍空母によるスカ・パフロー攻撃計画は、艦載機発艦中を狙われて空母を沈められ、失敗に終わった。


「他に方法がありますか?」

 結局は小沢と山口の意見以外に建設的な案も無く、

「空母も漸減邀撃に必要だから、消耗させない限り作戦を承認する」

 と決まった。




 このような経緯の後、第一航空艦隊の索敵機がセレター軍港を出撃する東洋艦隊を確認し、

「やりますか?

 やりますよね?」

 という山口多聞の戦意もあって小沢治三郎は「作戦行動中の敵艦隊」に向けての攻撃隊発艦を命じた。

 空母単独で、しかも対潜警戒もしていなかったドイツと違い、敵潜水艦に狙われる事もないまま攻撃隊は全機イギリス東洋艦隊に向かう。

 イギリスとしても、日本の機動部隊の位置は想像より遥かに外側だった。

 イギリスは戦略としては日本の長所・欠点を全て見切っていたが、戦術面では見誤っている。

 彼等は日米戦を見据えていた日本海軍の航空機が、長大な航続距離を持っている事を甘く見ていた。

 更に空母の運用能力についても。

「40機もスピットファイアやボーファイターをエアカバーにつけていれば、日本の双発爆撃機による洋上攻撃も防げるだろう」

 ドイツ相手なら十分なのだが、相手が違う。

 日本の艦載機は鈍重な大型もしくは中型の双発機ではなく、軽快な小型単発機。

 更に格闘戦に自信を持つスピットファイアを更に上回る、巴戦なら世界最強級の零式艦上戦闘機が護衛として着いて来ていた。

 スピットファイアも、最新のグリフォンエンジン搭載型は東洋には来ていない。

 性能的には十分脅威ではあるが、それでも旧式のマーリンエンジン搭載型のみである。

 そしてイギリスは日本海軍航空隊のチートじみた熟練度を知らない。

 ドイツ機相手に自信を持って戦えた格闘戦で、スピットファイアはバタバタと叩き落とされた。

 ヨーロッパの空同様、一撃離脱戦法に徹していれば良かったかもしれないが、そうもいかない。

 高温多湿の東南アジアで使う為、高高度用チューンはされていないのだ。

 更に湿気対策や、ビルマ方面の不整地での使用も考えた脚の強化等で、鈍重化した機体はヨーロッパでの性能をそのまま発揮出来ない。

 そんな機体で、初めて遭遇する人外が操る日本機と格闘戦に入ったのが不運であった。


 こうして上空護衛機を排除した日本の攻撃隊は、戦艦・巡洋戦艦4隻に四方八方から襲い掛かる。

 イギリス艦も「ポンポン砲」という40mmの大口径機関砲を撃ちまくり、必死の対空戦闘を行うものの、多少の撃墜はあるが多数の攻撃機の前には焼け石に水だ。

 対空砲を危険とみた急降下爆撃機である二式艦爆が、信じられない程の高精度でそれらを潰していく。

 そして三式艦上攻撃機が魚雷を命中させていく。

 イギリス海軍は、作戦行動中の主力艦3隻を撃沈される屈辱を味わう。

 生き残った「レナウン」も、余りの炎上から「撃沈確実」と見られて見逃されたに過ぎない。

 どうにか夜までに攻撃範囲外に脱出し、必死のダメージコントロールでペナン島までたどり着くも、最早本国まで回航して修理しなければ戦闘不能であった。


 イギリス軍は、東洋艦隊が空襲を受けている報を受け、周辺基地から爆撃機を報復の為に日本艦隊に向けて出撃させる。

 ただ、日本機の来た方位から艦隊位置を推測したものの、それは彼等の想定を遥かに超えた距離に居た。

 日本艦隊発見までの間に、ブレニム爆撃機はわずか2機だけになっていて、他は「会敵出来ず」として引き返している。


「まさかこんな位置にいるとは……」

「どうする?」

「決まっている、一発殴りつけてやらんとな」

「そう来なくては!」

 2機の爆撃機は日本の機動部隊の上空から爆弾を投下する。

 日本艦隊は、爆弾が海面に当たって爆発するまで、敵機の接近を知らなかった。

 油断であっただろう。

 慌てて迎撃機を上げるも、ブレニム爆撃機は逃げ去る事に成功する。

 こうした甘さを見せつつも、マレー沖海戦は日本の圧勝に終わった。




 イギリス東洋艦隊の戦艦部隊壊滅の詳報を、ペナン島に到着した「レナウン」乗員からの報告として知らされたチャーチルは

「今次世界大戦における、もっとも衝撃的な報告だ……」

 と愕然とした。

 その後、議会でも

「我が海軍始って以来の、悲しむべき事件が起こった」

 とスピーチをする。

 だがチャーチルは一戦場の事で、大局を見誤ってはいなかった。

「……悲しむべき事件が起こった。

 だが、忘れてはならない。

 連合王国は既に日本に勝っているのだ。

 我々の愛した『プリンス・オブ・ウェールズ』と『ハウ』は失われた。

 これから先、香港やシンガポールも危うくなるだろう。

 それでも日本は戦争に勝つ事は出来ない。

 数年持つ事無く、日本は干上がるのだ。

 一回の敗戦を引きずる事無く、古のローマのファビウスのように戦い続けよう」


 第二次ポエニ戦争でカルタゴの名将・ハンニバルを苦しめたローマのクィントゥス・ファビウス・マクシムス。

 その戦い方は、敵の消耗を待つ持久戦であった。

おまけ:

この頃、海軍では

「年式を航空機の名称としない方が良いのではないか?

 年々発展する航空機の技術から、年式が分かるといつ頃のものが使われているか逆算されかねない。

 情報秘匿の意味からも、年式が分からないものにしよう」

という意見が出て、命名規則が変わる事となった。

二式艦爆は「彗星」、三式艦攻は「天山」と改称される。

零式艦戦は?

「後継機『烈風』が出来るのだから、あれは今更変えても意味ないだろう」

「で、その『烈風』はいつ完成するのだ?」

「…………」

「おい!」

とりあえず、零戦は零戦のままであった。

(烈風は完成はしたが、要求を遥かに下回る性能で、三菱の

「自社製エンジン積ませて下さい」

 という要求を呑んだ改良作業中)

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― 新着の感想 ―
[良い点] ズルズルと威勢のいい声に引きづられる日本。 対して英国は強力なリーダーシップのもと大局を見据えて戦える。 米国という究極の駒が無いこの戦いがどんな結末を迎えるのか楽しみです。
[一言] 史実でも、マレー部隊は先走ってますね。 ゼロの魔力がなくとも、技術導入されているなら、日本対英語圏なら勝てばせずとも負けなそうだが、独ソがどの辺で介入するかだな
[一言] 結局、日本がボロカスにやられて終わりそうだな。
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