第三話
よし、俺はヴァルドだ。
断片的だがヴァルドの記憶も受け継いでいるんだし問題ないだろう。
見た目に関してもシルヴィアから見てもヴァルドそのものなのだしホントにヴァルドそのものの容姿なんだろうな。
それにその方が死んだヴァルドにとっても残されたシルヴィアにとってもいい気がする。
しっかりと責任を取ってヴァルドになるんだ。
そうと決まれば作ってくれた料理を食べ尽くそう。
「うまい! おかわりだ!」
「あらあら、いい食べっぷりね。熊を丸々一匹食べちゃう気かしら?」
「ハハハハハ、そうだな。お前の作ってくれた料理ならいくらでも食べられる気がするぞ!」
「もう、あなたったら」
そして俺達夫婦は作った熊料理をすべて食べ散らかした。
ふう、さすがに腹いっぱいだ。
もう食べれん。
お腹いっぱいで眠たくなってきたな。
そういえばもう外も暗くなっている。
そろそろ寝るとしようか。
「腹もいっぱいになったしそろそろ寝ようか」
「あらもう、あなたったら気が早いんだから。でもあたしも今日はもうその気だから今夜は『寝・か・さ・な・い』ぞ☆」
し、しまった、抱く抱かないの件を全く持って忘れていた!!
ヴァルドになったからにはそこも責任をもって対処しなくてはならないのか……。
そんな『お・も・て・な・し』みたいに言われても全然そそられないぞ。
さっきは気が動転して発情してしまったがさすがに冷静に考えるとこいつはただの雌豚なんだ。
デフォルメされた可愛い豚の見た目ではなくでガチ豚、むしろ雌猪だろう。
そもそも俺にはこいつが雌なのかすら疑わしい。
いくら俺の見た目が雄豚であろうと中身は人間なんだ。
雌豚なんかに発情しないし、我慢してどうこうできる問題ではない。
すまん、ヴァルド。
俺はお前の妻を抱くことが出来なさそうだ。
幸せにしてやると誓ったばかりなのにな……。
俺はへたり込むようにベットに腰掛ける。
そして雌豚は部屋の明かりを消して俺の元へと近づいてくる。
ほのかに香るシャンプーのいい匂い、なんてのはしなくて相変わらず鋭い獣臭。
ゆっくりと近づいてくる豚面の凄まじいプレッシャー。
それに反応するようにヴァルドのリトルオークが戦闘態勢に。
な!?
馬鹿な!!
体が勝手に反応してやがる!!
これが動物の本能なのか。
なんてこった、だが前の世界でも聞いたことがある。
オークは繁殖力が強い!!!
「あらあら、あなたったら気が早いんだから。ゆっくりと『召・し・上・が・れ』」
「ああ、頂こう」
俺はオークの本能に任せ、この後めちゃくちゃセッ――
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ふう、清々しい朝だな。
だがこれでもう後戻りはできない。
シルヴィアを抱いてしまったのだ。
ヴァルドになる以外の選択肢はない。
異世界に来てわずか一日で早くもオークの妻が出来てしまった。
色々びっくりしている暇なんてなかったな。
それにしても驚いたのは相手がオークでも全然抱けたことだ。
もちろんヴァルドになったからなのだろうが……。
想像以上に良かったから今夜もシルヴィアを抱くことだろう。
そんな獣な趣味は全然なかったんだがまあいいか。
さて、働かざる者食うべからず。
オークの世界でも当然働かなくては生きていけない。
朝起きたら適当に狩に行く。
普段は一人で狩に行ったりはしないんだが昨日は特別。
一人前の証に自分と同じか自分より大きい獲物を一人で狩る風習がある。
もちろんやられてしまう奴もいるがそれはしょうがない事だ。
弱肉強食の世界だからな。
狩ってきた獲物は部位ごとに妻が解体してそれぞれ物々交換に出す。
このオークの村では意外と簡単な農業もやっていて狩ってきた獲物を野菜や穀物なんかと物々交換するんだ。
他には木材や食器類、鍛冶なんかも村でやってるから毛皮や希少部位なんかと交換する感じ。
村のオーク達もやっぱり俺とヴァルドが入れ替わっていることに誰も気が付いていない。
もちろん俺もヴァルドの記憶から口調や性格もある程度真似ているってのもあるし見た目がヴァルドそのものなのだろう。
村の生活にも馴染んでいけそうだ。
オークとして生きていくのも悪い気はしてない。
気高い妻も愛おしく感じてきたしな。
まあでもできれば人間の妻が欲しかったかな。
贅沢を言えばエルフの妻なんか出来たら最高だろう。
ヴァルドの記憶では人間と出会った記憶はなかったがエルフとは会ったことがある。
出会ったと言うよりも助けられたことがあった。
いつもより遠くに狩に出かけていた時のことだ。
仲間がやられてピンチになった時に二人のエルフに助けられたんだよな。
多分あの時の事があったからヴァルドはエルフに恩を返そうと俺をエルフと見間違えて助けたんだろう。
あの時のエルフは美男美女の二人組。
絵にかいたようなエルフだったな。
言葉が通じなかったから今となってはなぜ助けてくれたのかわからない。
そもそも助けてくれたのかもわからないな。
たまたま通りかかった時に獲物を倒したってだけなのかもしれない。
でも俺は助けられたと思ってるし、いつかは恩を返したいところだな。
さてと、ヴァビルグとヴァリガと三人で狩に来たが今日はなかなかいい獲物が取れた。
早く帰ってシルヴィアに見せてあげたいな。。
きっと大きな豚声で喜んでくれることだろう。