追放冒険者系妹(1)
「はぁ、セイラ、どこに行ってしまったんだ……」
俺ことアルダヴァーン・フォン・ルーラオムは、大きなため息をついた。
血を分けた実の妹、セイラが出ていってから5年が経った。
当時まだ十二歳だったセイラは、急に「第三の眼が……」とか、「邪神の託宣が……」とか言い出して、挙句の果てには「魔族の王になる」と宣言して家出してしまった。
「そろそろ戻って来てくれないと寂しくて死んでしまいそうだ……」
などと言いながら買い出し先から帰っていると、一人の少女が行き倒れているのに気付いた。
まさか、セイラ? 年の頃も同じくらいだ。
そう思って歩み寄るが、全然違う顔だった。
そもそもセイラの髪はスカイブルー。緋色の髪のこの少女とは別人に決まっている。そんなことも分からないほど錯乱してしまっていたのか。我ながらヤバイ精神状態だったな。
「あの、大丈夫ですか?」
「う……あの、なにか食べ物を……もう三日も不眠不休で、しかも何も食べてないのです……」
声の感じからして、かなり喉が渇いているようだ。
「とりあえずこの水を飲みな。おっと、いきなり大量に食事をとるのは控えた方がいい」
パンにかぶりつこうとした少女を制し、市場で買ってきた水の入った革袋を渡すと、少女は一気に飲み干した。
「まぁここじゃなんだし、俺の家に来ないか?」
「い、いいんですか?」
「あぁ、別に一人増えるくらいじゃ、家計には響かないし」
そうして、曲りなりにも侯爵家の一員である俺の自宅に招待した。
少女は、建物の豪華さに驚いているようだった。
「さて、どうして行き倒れていたのか、聞かせてもらえないかい?」
「はい……」
話を聞いてみると、どうやら彼女は天涯孤独の身で、唯一雇ってくれた冒険者ギルドも追放されてしまったらしい。名はエリカ・フォン・イーゼルベルクというそうだ。
イーゼルベルク家といえば、最近没落した貴族か。そこの令嬢といったところなのだろう。
「でもなんで追放なんて……」
「私、剣も魔法も不得手で、唯一《占星術》というスキルを持っているのが取り柄だったんです。けど、遠い未来の抽象的なことしか予言できないので、一週間で解雇されてしまったのです」
確かに、占いができるだけの冒険者ではやっていけそうにないな。
「ちなみに、俺の妹が家出中なんだが、戻ってくるか占ってくれないか?」
「はい……」
彼女がスキルを発動させると、各星座の紋章があしらわれた魔法陣が浮かび上がった。