プロローグ
「なに? セイラが出ていっただと?」
俺ことアルダヴァーン・フォン・ルーラオムは、父親に妹の家出を報告していた。
「はい父上。セイラは『魔族の王になる』などとうわごとのようなことを言って暴れ、そのまま窓から飛び降りてしまいました」
「な、貴様、次男でありながらなぜ止めなかった? セイラは私の大事な娘でもあるのだぞ」
「……申し訳ありません。暴れる彼女を取り押さえることが出来ませんでした。本当に。人間とは思えないほどの力で……」
「ではなんだ? セイラが悪魔にでも憑りつかれていたとでもいうのか? セイラはまだ天使の力に目覚めていないのだぞ? そんな体力も魔力もあるはずがない。役立たずなうえに嘘までつくとは、この恥知らずめが!」
「……申し訳ありません」
妹が家出して泣きたいところだが、この激しい叱責を前にしてはそういうわけにもいかない。
「セイラの気性が不安定なのはお前も知っていただろう? これはお前の監督不行き届きが招いたことだ」
すると、姉のベガが進み出てきた。
「お父様。アルダヴァーンはルーラオム家の始祖たる大天使、ルーライ様の血を受け継げなかった出来損ないです。十五になって翼を発現させることすらできなかったのですから。これを機に追い出してしまっては?」
「それもそうだな。だが私とて鬼ではない。セイラを連れ帰ってくれば許してやろう。それが叶うまでは、うちの屋敷の敷居を跨ぐことは許さん!」
そう言われ、反論する暇もなく、俺は大量の金貨とともに追い出された。