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開拓(3)

ドーム型の建物は非常に強い結界が守っており。ひと晩ゆっくりと眠る間に、義姉妹は一度も目を覚まさなかった。

翌朝早くから、さっそく開拓を始めることにした。

主催者側が仕掛ける"イベント"をこなしながらの作業となるため、ある程度は計画的に進める必要がある。


島にだけ吹きすさぶ嵐を治めるまでは、一日に三回、突風と稲妻が開拓を阻むことになっている。

嵐の主は天然の要塞であるギムレット山にんでいて、その龍をいきなり倒して開拓を楽にするなーんて攻略方法をることはできなくなっている。


幸い、嵐が発生する時刻は確定しているため、その間はドーム内に引きこもって休むことにし、周囲の開拓を積極的に進めることにした。


さて、住居を一歩でも出ると、そこが岩に囲まれた浜辺であることが分かった。

イーディス達は航海の間に島に流れ着いた旅人、という設定らしい。

「あたし達って船に縁があるよね」

「そうだね……旅の始まりも船だったなぁ」


始めは一人で美しい南大陸と島々を楽しむつもりだったのが、どういう巡り合わせか。

今度は自分だけの島を手に入れる算段ときた。


南大陸の豊穣王ほうじょうおうヴィクターが再興した後の島の地図によれば、ここは非常に美しい浜辺であったとのこと。


そこでまずは、暴れ者の龍によって破壊され荒らされた浜辺を切り開くことにした。

ルーチェが久々に銀の鎧の魔物を目覚めさせ、周囲の岩を海中に投げ入れさせた。

岩の下はさらに頑丈そうな岩盤であり、美しい砂など少しも見当たらない。


イーディスは直感に従って動いた。

周囲に散乱していた木の枝で編んだロープと剛力でもって、海中の岩をひとつ引き上げたのだ。

鋼の手甲を金槌かなづちの代わりにして岩をしたたか殴りつけ、真っ二つに割る。

鉄を多分に含んだ鉱石であることが分かった。


イーディスは歓喜した。

思った通りだ。

クヴェットが昔話の中で言っていたではないか。


豊穣王ヴィクターの子スィルヴァはおそらく、この島の元の姿を知っていた。

自らが持って生まれた生命力を"与えるスキル"で惜しみなく分け与えて、島が元の姿に戻るのを手助けした。


ここは元から豊かな資源があり、金銀財宝が眠る土地だったのだ。

上手く家臣を動かして次々と発見を重ね、楽しく開拓を進めて行けば、クヴェットは理想的な国の王として君臨することができたはずだった。


彼女は彼女が選ばなかった選択肢に、すぐに気が付いたに違いない。

だからこそ、ヴィクター達に大きな助力を行ったのだろう。


クヴェットはパーシヴァルとの戦いの中で力をぎょすることを覚え、彼に恋したことで理性と感情とを取り戻した。

商いを通じて他者に様々な物を分け与える喜びを知り、ついにはかつての思い人の孫娘と共に在る現在にたどり着いた。


「ルーチェ、この島すごいよ。きっとお宝の山だよ」

「うん。普通だったら理性とか吹っ飛んでるだろうね……さすが"もと魔王"、ヤバいゲームを仕掛けてくれたもんだよ」


厳しいだけだった実父や養父にはできるだけ感謝とかしたくないと思っているイーディスだが、身体と精神力をしっかりと鍛えて来た日々が無駄ではなかったと……。

たった一度の敗北で無下に否定されるほど価値のないものではなかったのだと、大声で言い散らかしてやりたい気分で一杯だった。


こんな素敵な島を独り占めも出来るんだぞ、と叫びたい気分だった。


海岸の探索を後回しにして、あたりの岩を全て住居に運び入れた。

数百個の岩は、その全てが有用な鉱石であり、肥沃な土や美しい砂のもととなる物質であり、また龍の魔力で変化した宝石の原石であった。


一度目の嵐が到来する時刻が近づいたこともあって、二人は住居内で行う作業に夢中になった。

ルーチェが『邪眼』でもって操る『創造の炎』を安定させて恒常的に使うための釜を、島の岩石から取り出した純銀と魔法鉱物を用いて作り上げた。

この一手が、開拓を有利に導くことになった。


素材とイメージ図を放り込めば、釜が喜んで火を焚き、二人が望んだとおりの物品を作り上げてくれるようになった。

斧やくわ、スコップや金槌を作っては住居内に設けた大きな棚に整理する時間を過ごした。


一日三度の嵐は、二人を少しも脅かすことなく、あっという間に過ぎて行った。

2021/2/18更新。

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