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そして彼らは来た(6)

「ユズリハ、すまない。ハーン秘密、あった」

「大丈夫よ、ハーン。みんなにも教えてくれる?」

「わかった」


シャトゥ・ハーンが手招きすると、レンとルドルフがすぐに近寄って来た。

「なーに、ハーン。難しい顔しちゃって。深刻な話?」

「ハーン、隠し事あった」

「そっか。アリス起こす?」


石の戦士が誰にも言えなかったという秘密のことなどまったく気に留めていないかのように、ルドルフが優しく微笑む。

賭けで手に入れた真っ赤なリボンがよく似合う、妖魔族の美少年である。

「寝かせてやる。いま話す、いい?」


一斉に頷く"スキル・コレクター"達に追従して、イーディス達も息を吞んだ。


「我が王ヴィクター。妃グラゥシュラム。この大陸、買った。百年、昔」

"豊穣ほうじょうの魔王"ヴィクターと"豊穣王ほうじょうおうの剣"グラゥシュラムのことだ。

現在の"ディッシュ・コラル"を作り上げた夫婦だ。


「王と妃、御子、生まれる……まで、貧しかった。王、身体、病んだ。違う世界、から、逃げて、きた」

懸命な片言で石の戦士が話すことを、誰も口を挟まずに聞く。


王と妃は、かつての戦いで荒れ果て、手つかずであった島に隠れ住んだ。

やがて子をなし、魔物を狩りに狩った金でどうにか育てた。


長じた御子スィルヴァは、彼らの願いに応えるように、様々なものを両親に与えた。


御子の息は枯れ木を芽吹かせた。

御子の足は荒野の岩石を砕き、絹のような手触りの土に変えた。


王妃の古びた剣を御子みこが鍛え直した。

剣は大木を一刀のもとに切り裂き、あらゆる魔物を一撃で撃砕げきさいする魔剣となった。


「御子、五つの頃、彫刻、彫った。ハーン生まれた」

御子に生命を吹き込まれた石の戦士は、王妃と共に魔物を狩り、野獣猛獣を仕留め、領土となるべき土地を開拓していった。


御子の手が濁った水に触れれば、たちまち澄んだ泉に変わった。

雷鳴を操って嵐を鎮め、風を吹かせて、ハーンが力強くひらく田畑を守った。


その地で異世界の勇者と戦い、敗北した魔王の魂に肉体を"与え"て、彼の魔軍まぐんを再び召喚し、父王ヴィクターの配下とした。

魔軍の力を得て開拓は非常に速い速度で進むようになり、金銀宝石の鉱脈が発見され、巨大に連なる活火山として荒れ狂っていたギムレット山脈の業火ごうか埋火うずみびのごとく手なずけられ、麓に温泉がわき出した。


やがて周囲の島から人間や魔族が集まり、開拓しながら生活を共にするようになると、御子は突然、「これで父上の『国』ができました」と断言した。


御子スィルヴァは、十数年にわたる開拓の日々に疲れ果て、"与える"力を失ってしまったのだ。

彼女はふるさとの島の地底深くに青水晶の塔を建てると、そこで長き眠りに就いた。


王ヴィクターと王妃グラゥシュラムは彼らの『国』たる島をよく守り、極めて勤勉に働き、魔軍と共に荒れ果てた島を再興した。

そして"豊穣の魔王"は、子の恩に報いるべく動き始めた。


開拓と冒険で彼らが持つに至った金銀財宝を、その大事業の為に駆使した。

かつての戦いのために疲弊し、資源を巡って小競り合いを続けていた南大陸の小さな国々を、まとめて買い上げたのだ。


争いのもととなる『国』の概念を少しずつ打破し、広大な大陸をしてひとつの国とさせた。

この地に住まう人々を"南大陸人みなみたいりくびと"と名付け、民族や種族に差をつけることなく接した。

全ての者に豊かさが行き渡るよう金銀財宝を不公平なく配分し、職業と雇用を生み出した。

長い時間をかけて、荒廃した文化文明を再生させた。


こうして彼らは、喜びと楽しさにあふれる土地を作り出した。


「これが、シャトゥ・ハーンの昔語り。我が王と王妃、の……御子。スィルヴァ殿下、を、以って。他に、"与える"者、なし」


シャトゥ・ハーンは口を噤んで目を閉じた。

ルドルフが彼に話しかける。

「ハーンの話、全部覚えたよ。初めて聞くことばかりだった」


「王ヴィクター、ハーンに秘密、守れ、命じた。皆に隠して、いた。本当、に……すまない」

「気にしなくていいって。書き留めた紙、アリスにも見せていい?」


頷いたハーンは、目の前にした料理の皿に再び挑み始めた。

2021/2/15更新。

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