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そして彼らは来た(4)

自分は賭けに敗北した。

それは事実だ。ウジウジしたかったら、あとですればいいことだ。

そう考えを切り替えて、イーディスはさっそく次の行動に移った。


後の手続きを『金暁騎士団ゴールデン・ドーン』の拠点で行うこととし、ジェダが造った異空間を全員で退出した。


貸切の部屋に戻り、改めて"スキル・コレクター"との会談に臨む。

決闘で力を使い果たしたアリスがソファで眠り込んでしまっているので、半猫族キャッツアイのレンがニティカと話し合うことになった。


「さて。賭けは僕たちの勝ちってことになった訳だけど……ホントに納得してる?」

「もちろん。こちらからお願いするべきことでしたし」

「そっか。スキルがいらないって人は珍しいよ。やっぱりみんな、スキルを大事にしたいんだよな」


賭けで手に入れた豪華な賞品を前にしても、銀髪の少年は冷静さを保っている。

彼らは自分達の欲望だけでスキルを集めて回っているわけではない、というジェダの話は、やはり間違っていないようだ。


「役に立つスキルさえあれば、体や心が未熟なままでも、スキルを活かして自立できる。それは良いと思うんだ。一番いけないのは、自分のスキルの短所に目を向けないことだと僕は考える」

「わたしなら、魔法を使い過ぎちゃうこととか?」


「そうだね。ニティカの場合は、魔力と感情が暴走しやすいこと。僕らの心は繊細だから……大きな力に引っ張られて、すぐに変化してしまう。理性や感情が壊れてしまう人も多い。きみがそうなるってことじゃないけれど」

「はい……分かります。スキルを手放すには、どうしたらいいのですか」


簡単だ、とレンが微笑する。

金銀妖眼ヘテロクロミアが輝きを増し、その瞳には複雑な魔法文字が浮かび上がった。

「数え終わるまで、僕の眼を見つめていてくれればいい。一、二、三……」


少年の少し高めの声がとおを数え終わるまで、ニティカは彼の目を見つめ続けた。

レンが小さく手を叩くと、正気を取り戻したように瞬きを繰り返し、首をぶんぶんと振った。


「もう、おしまい?」

「試してごらん」


「うん……『マジック・ミサイル』」

すぐに得意な魔法を行使して、ニティカが驚きの声を上げた。

「一個の大きさが小さくなってる!」


魔力の弾丸を()()()掴んで消したレンが尋ねる。

「気分は?」

「以前ほど高揚してない、気がします。もっともっとって……頭の中で声がしてたの」

「それはこいつの仕業だね。まったくハタ迷惑な……」


レンは素早くガラスの小瓶を取り出すと、手の中で暴れ狂う小さな光を閉じ込めてしまった。

「名づけるなら、"魔蝶まちょうささやき"ってとこかな。きみは他の人より想像力が優れているから……自分で自分を操るための、小さな魔物を作り出してしまっていたんだと思うよ」


「わたしが、わたしを操るため?」

「うん。今まで色々と無理をして来たんじゃないかな。それが何なのかまでは、僕には分からないけど。とにかく、ニティカのスキルは僕が貰ったよ。"ラッキー!"」


レンはシャトゥ・ハーンと全く同じ言い方で小さく呟く。

興味を持ったイーディスが尋ねてみると、ガトゥが考えた『喜べる事があった時の合言葉』なのだという。

幸運や喜びの大きさを問わず、必ずそれを表現する。

そうすることで怒りと憎しみを忘れるべきだと、大いに諭された。

そう言って、レンがまた笑う。


魔物と戦って疲れても、何かの材料が手に入ればラッキー。

探索した場所から何も見つからなくても、全員が無事ならラッキー。

もし何もせずに飲み食いして休む日が続いても、それはそれでラッキー。

それは、幸福を間近に感じ続けるための……決して忘れないための、最強の魔法。


「じゃあ……わたしはこれから自由になれて、レメディと一緒に居られるから、"ラッキー!"」

ニティカが微笑んで、隣で静かに座っていたレメディと顔を見合わせる。

「ほら、レメディも。"ラッキー!"」

「うん──"ラッキー!"」


負けてしまったのは悔しいけれど、二人ものスーパー強い戦士と戦って、とりあえずは無事だった。

それは、双子を微笑んで見つめるイーディスにとっても、こう言い切れることである──。


「"ラッキー!"」

2021/2/12更新。

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