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風の城にて(2)

ストレス解消のはずが、却って困ったことになってしまった。

ヴィントブルク国王の使者がそれからすぐにやって来て、用意が整ったら城まで参じるよう通達を残して帰って行った。


「はぁぁーもう、なーんでこんなことになるのかしら……!」

イーディスはボサボサの髪を掻きむしりながら言う。

王だの王族だのにはしばらく関わりたくなかったのに……宿の受付のお姉さんの言葉が、厄介事を避けるヒントだったのに……!


『そう悲観することもあるまい。おぬしは素地があるんじゃ、きちんと用意をすれば決して他の貴人らに後れを取ることはないわい』

「うぅ……ほ、本当ですかぁ?」

『わしを信じよ。カネは?』

「あります……」

『五大公国』で共有することを目的としてこしらえた金貨の袋が、魔法の小箱の中にどっさり入っているのを、起きてすぐに発見した。


間違いなくレンカ姫の仕業だ。

十四人のローゼンハイム公女たちからの餞別せんべつを、こっそり荷物の中に紛れ込ませていたのだ。


お金は『五大公国』のうち一番の金持ち国家に嫁いだ二番目の姉コルテンフォルレからで、その額たっぷり五千万ゴルト。

幸運あれと願ってつけられた『黄金のます』の名の通り、政略結婚おみあいからのセレブ婚を果たした彼女らしい気遣いであった。

何せ、節約を心がければ一生働かなくても暮らせる大金だ。


『五千万か……充分は充分じゃが、派手には遊べんなァ。よし、友のよしみじゃ──諸々ひっくるめて五万にまけてやる』

半龍人がまた八重歯を見せて笑う。

「少し話しただけなのに……お友達になってくださるのですか」

『だめかえ?』


「とんでもない! ありがとうございます」

礼を言ってぺこりと頭を下げ、ようやく大事なことに気が付く。

「あの、お名前をお聞きしたいのですが」

『おお……そうじゃそうじゃ。わしはソフィア、おぬしは?』


「イーディスと申します。よろしくお願い致します、ソフィア様」

『ふははっ、こそばゆいのぅ。さっそく行動に移るか』


ところがイーディスは、このありがたい提案に難色を示した。

ソフィアは目を丸くして、国王の招きが嫌かと尋ねる。


「嫌と言うわけではないのですが……すぐにお伺いしなくてもいいのでしょう?」

『まあ、わしから言えば何とでもなるじゃろうけど』

「でしたらもう少しだけ、ゆっくりしたいです。今までが忙しすぎたのね、きっと」


『ふっ……憧れのスローライフというやつか? よかろう。おのれの意志を通そうとする者が、わしは好きじゃ。ちと待て』

ソフィアはさきほどから勝手に酒の用意を整えて吞んでいたが、やおら椅子から立ち上がると、指笛を空高らかに響かせた。


遠くから、大きな影が空を滑って近づいてくる。

巨大な帆船であった。


盾にも横にも大きい。城だと言われても信じてしまえそうだった。

木造の船体には三本ものマストが立ち、堂々と張られた大きな帆が、ヴィントブルクに吹き渡る風を受けて力強くはためいている。


「うわぁ……すごいすごいっ!」

『ははは。わしら龍族からすれば、この空は海原と同じようなものさ。来るがよい、イーディスよ』


船の縁から自動的に下りて来た長いはしごを、ソフィアが先立って登る。

靴音を響かせながら甲板を歩き、船体内部へ続くハッチを軽く持ち上げた。どうやら鋼鉄製らしいが、とてもそうは見えない。

半龍人の例に漏れず、高い腕力を持ち合わせているようだ。

ソフィアという名前しか知らないが、却って一体どういう人物なのか、妄想もとい空想がはかどりそうだ。


ワクワクしながら階段を降りる。

「建物にすると何階建てになるんでしょうか……そこらのお城より大きいですよね?」

『一階の高さにもよるじゃろうけど、だいたい十階建てくらいかのぅ』


「すごいなぁ……」

『行先からの許可さえ下りりゃあ異世界まで行ける豪華客船じゃからな、こいつぁ』


「異世界に行けるの?」

『行くか』


「今はまだ。この世界を、わたしは知りませんから」

『そうか。なら、準備をしっかり整えてからじゃな。この世界での冒険を楽しめるよう、わしが助力しよう』


「ありがとうございます!」

『よいよい──それより、着いたぞ』

2020/11/24更新。

2020/12/10更新。

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