真意
「金属を……それは例えば、鋼鉄とかで思い通りに造形できたり?」
「うん。砂鉄を集めて、絵を描くのが好きだお。銀細工とか金細工とかも……コルティ義姉さまにお小遣いをもらった時は、材料費でほとんど吹っ飛ばしちゃうんだお」
「いい技能だと思うけどなァ。っていうかレメディさん達は、絶対に王様の警護をしなきゃいけないの?」
「もうすぐ近衛騎士団の最終試験だお。合格できなきゃ王籍から追放だお。王宮とか王様を守るとかどうでもいい」
「じゃあ、どうして頑張るの?」
「追放されてニティカと離れるなんて嫌……絶対に嫌。二人ならヒントを与えてくれるかもってグレイティル義姉さまが仰った。だから来たの。あなたに魔法を教えに来たなんて、ただの口実」
「なーるほどね」
「嘘ついてて、ごめんなさい」
「いいよ、魔法で勝負するのとか初めてで楽しかったし。それより、二人が思い通りにできる方法を考えようよ」
ここまで本音を話せたのは初めてかもしれないと呟いて、レメディが小さく微笑する。
王宮に入った時期がわずか一ヶ月早いだけでイーディスの義姉ということになってしまい、度量の大きい彼女に愚痴を聞いてもらうことさえ難しかったとニティカも言う。
「何もできなかった分、今からでも二人のために動きたいわね。とりあえずもっと模擬戦して鍛える?」
「……選択肢は二つあると思うの。お姉ちゃん」
イーディスが続きを促すと、ルーチェは慎重に言葉を選び始めた。
「ひとつは、ロズヴェル卿の思い通りに、近衛騎士団に入って働くこと」
「もう一つは?」
「……試験に失敗して、自由になること。レメディだけじゃない、ニティカも一緒に」
「それも考えました」とニティカが言葉を挟んだ。
「でもダメ……魔法を使うと、わたし、はしゃいじゃって……手加減できなくなっちゃう。ぜいたくな悩みだって、分かってるけど」
「ニティカはスキルを見てもらったこと、ある?」
「あります。自分で魔法を作り出せて、それと、どんな魔法でも使えるんだって。二人ぶんの才能が偏っちゃったんだろうって、王宮の"鑑定士"が言ってたわ」
「むー、随分はっきり言われたわね……」
多少とも苛立った口ぶりで、ルーチェが言う。
腕を組んで、次善策を自らに催促するように目を閉じた。
やがて意を決し、蒼い瞳を見開く。
「お姉ちゃん!」
「は、はいっ!?」
「今すぐに"スキル・コレクター"が来たら! しっかり遊んであげられますか!?」
「全力を尽くしますっ!」
「よろしいっ! 明日、戦えるようにジェダ様に頼みましょう!」
ニティカがスキルを使うことを自力でコントロールできないというのなら、いっそスキルの方を使えなくしてしまえばいい。
ルーチェは考えた挙句、ちょいと危なっかしい結論を導き出した。
近衛騎士団の試験とやらに落ちれば、二人とも王宮にいられなくなる。
いや、居なくて済む。
お小遣いをもらったり住居を提供してもらったりはできなくなるし、豊かな生活も没収されてしまう。
でもそれは一時的なことだ、とルーチェは考えた。
いちばん間近で、イーディスを見ていたからだ。
義姉の心の強さはちょっと特別なのかもしれないけど、そもそもレメディ達だって王宮にいるのがあまり好きではないようだし。
結局のところロズヴェル卿が欲しいのは、無償で働いてくれる警備兵だ。
人口五万人余りの国を二千人で防衛し続けようなんて考えの持ち主だ、防衛費をできるだけ削って他に回したいと思っていても何も不思議ではない。
既に三人の公女に公王の警護を任せているのだから、無理にこの二人を近衛騎士団の一員に仕立て上げる必要はないはずなのだ。
ならば、なぜ二人の存在を、力を必要とするのか?
二人が厳しい試練を乗り越え、さらに厳しい試験に合格した暁には、公国の為に健気に立ち働く双子の可憐な戦姫が誕生する。
国民臣民はさぞかし褒め称え、二人の若き騎士叙勲者を喜んで迎えるだろう。
その二人の教育と鍛錬を一手に引き受けた名誉で、エルゼンリッター公爵家は更なる立場とカネを手に入れる事が出来る。
さしづめこのような考えなのではないだろうか、ロズヴェル閣下は。
どこが第一乃騎士なのよ、と吐き捨てたい衝動に、ルーチェは懸命に堪える。
2021/2/10更新。