表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

85/151

鍛錬(3)

「さてと。次はあたしの番だね、お姉ちゃん」

鍛錬と呼ぶにはあまりにも激しい戦いを終えたイーディスを、ルーチェが気力に満ちた表情で出迎える。

『グラシェ・デパート』で買い求めた大きなソファを魔法の小箱から引っ張り出し、訓練場の隅っこに置いた。

イーディスはゆっくりと歩いて三人掛けのソファにたどり着くと、情けなく背もたれにもたれて義妹を見守る。

叱る者は誰もいない。厳しいだけの養父も、さらに厳しい実父もいない。


きみがルーチェか。いつもイーディスちゃんの傍にいてくれて、ありがとうナ」

「はい。でも、当たり前のことなんです。今じゃあたしだって、お姉ちゃんが居ないとダメなんだから……」

「ホントにかわいいナ。私は魔法が得意じゃナいから、さらに助っ人を呼んであるんだよ」

グレイティルが音高く指を鳴らす。


ルーチェのための特別な講師はすぐに姿を現した。

一人は漆黒、一人は真紅のローブに身を包んでいる。どちらも小柄だ。

外見で見分けるには……金髪に髪飾りをつけているかどうか、を見るしかなさそうである。


「やっほー、初めまして。一応いちおーローゼンハイム公国の公女やってます。レメディだお~」

「同じく第十四公女のニティカです。あまり時間はとれないけど、よろしくねルーチェさん」

若き魔導師見習いは丁寧に一礼すると、にっこりと微笑んで双子を見つめた。


「すっげえ魔力。こりゃあ試合は難しいかな~? なんつって」

「わたしから参りましょうか」

ニティカが親指と人差し指を打ち合わせると、空中に蒼い球体がいくつも出現した。

「『マジック・ミサイル』……行けっ!」


ルーチェは負けじと同じ魔法を行使し、過たず球体をすべて撃ち落とした。

レメディが高く跳躍しているのも見逃していない。周囲に結界を展開して、空中から放たれた鋭い羽根を防ぐ。

「うはははっ、完璧に見切られてら! 教えることなんかないんじゃないか、ニティカ!?」

「呼ばれた以上はそうでもないでしょう! それに、わたし達にも勉強になるハズ!」


双子は見事に役割を分担している。レメディは近距離格闘、ニティカは遠距離射撃。

イーディスをまねて二人をまとめて吹っ飛ばすには、隙の大きな攻撃魔法を用いる必要がある。

義姉のような剛力は欠片も持っていない。


「考えなさい、あたし……!」

ルーチェは身体強化の魔法を使い、集中力を高める。

ニティカが撃つ魔力の弾丸の軌道がはっきりと見えた。先ほどまで読んでいたラウロ直筆の魔導書を克明に思い浮かべる。いきなりの応用編だが、行けるか……!?


「『いざことわりを狂わさん、きょとはじつじつとはきょ。汝ら蒙昧もうまいの霧に迷うがよい……』」

魔法の発動に常に用いられるはずの、魔法の正式名称は書かれていなかった。

『詠唱が終わったら魔力を載せて何か投げろ』という記述の多かったことと言ったら──あの海賊野郎、照れ臭さを捨てきれなかったと見える。

オリジナル魔法の名づけは一番楽しい作業なのにっ!


「うーん……『ミラージュ・ナイツ』っ!」

仕方ないので適当に命名して魔力を開放すると同時に、大量に買っておいた宝石の研磨くずをばら撒いた。

ルーチェの小さな姿が、分裂でも起こしたかのように多数、現れた。


「うはっ、ルーちゃんが何人も!?」

「えーと確か……『ゲイル・リッパー』っ! からの『マジック・ミサイル』!」

純粋に魔力が高いのは、やはりニティカの方だ。

詠唱を短縮したうえで連続的に魔法を発動するとは!

幻影が解かれて降り注ぐ宝石の欠片を避けて、双子が再び空中に浮かんだ。


ってかルーちゃんって誰よ、とよそごとを考えたのも一瞬。ルーチェはすぐに次の展開に入った。

魔法の小箱から多数のクロスボウを出現させると、魔力で命令を発して一斉射撃させる。

「うははっ! 魔導師カッコ物理! ってことでレメディ行きます!」


レメディがニティカを守るように前に出た。

「『腕はくろがね知は鋼、切り刻めよや、アイアン・ウィル』!」

ものすごい早口で唱え終わると、彼女の小さな手から長大な鋼の刃がいくつも出現した。

瞬く間にクロスボウの矢を斬り落とし、ついでとばかりにルーチェへと殺到する。

2021/2/8更新。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ