金暁騎士団(6)
イーディスの無茶な依頼は、快く受諾された。
『金暁騎士団』に在籍している百人ほどの優秀な人員を相手に、短期集中型の特訓が組まれた。
この日の朝のうちに連続で十人との手合せを終えたイーディスは、昼食休憩がてら詳しくジェダの話を聞きたがった。
昨日のネリネの話を聞いてから、どうにも違和感がぬぐえずにいたのだ。
ジェダは"スキル・コレクター"の位置を探るだけでは飽き足らず、今朝がた本人と接触を図ったという。
中立の立場で事情を探って分かったことを、何も隠すことなく述懐してくれた。
まず、相手は単独でなく、それぞれに役割を持った五人で編成された小隊であること。
『邪眼』についての研究と実験を行っていた施設から、"用済み"あるいは"役立たず"として放逐された子ども達の集まりであること。
これにはルーチェが「やっぱり」と深くため息をついた。
「だから、他の人のスキルが欲しかったのかな?」
『うむ。旅の始まりは羨望と欲望と憤怒に満ち満ちておったとのことじゃった。五人は怒りに狂っていた』
「今は違うってこと?」
『最初に戦った半猫族のガトゥという魔法戦士に懇々と言い聞かされたそうじゃよ──怒ったり他人を羨んでばかり居ずに、自立する努力でもしたらどうか? とな』
"スキル・コレクター"達は、かなりのショックだったと口を揃えた。
ガトゥらしい言い様だ。
『邪眼』の子ども達が束になってかかっても敵わない力で圧倒し、それから明るく諭したに違いない。
旅の始めに彼女と出会えたことは、子ども達にとって大変に幸運なことだっただろう。
『それからは自分たちなりに『両親』から解放され自立するための方法を考えたという。思考と議論を重ねるうちに、次々に邪眼の力に目覚めた──さながら冒険者の小隊のように、五人はそれぞれの役割を自覚し獲得した』
ジェダは話し疲れてか、炭酸水で喉を潤した。
魏姉妹がそろって聞く姿勢を崩さないのを見て、改めて肺に風を入れる。
『様々なスキルを持つ者たちと戦ううちに、五人は所有者の身体と心に過剰な負担を強いるスキルが存在していることに気づいた。そして、それぞれの能力を活かしてスキルを収集する仕組みを作り上げた』
「なるほど……わたしは今のところ、スキルの反作用みたいなものを自覚していないんですが」
『うむ。イーディス殿とルーチェ殿は心と体が十二分に鍛えられていて、スキルとのバランスが抜群に整っておるからな。今回は腕試しとして戦ってみたいそうじゃ』
「う、腕試しって……」
『納得せよという方が難しいじゃろうけどな。少なくとも、"スキル・コレクター"が見境なく他者を傷つけていたわけではないとわかった。彼女たちとルーチェ殿には深き縁のあることじゃし……二人にとっても好事と言えるのではないかね?』
ひとつ息をついた『翡翠の魔王』は、それまで全く手を付けていなかった『金暁騎士団』特製の弁当を食べ始めた。
はるか昔に肉体を失い、鏡の中の部屋で過ごす彼女も、魔力で実体化している間は人並みに(食べる量は人並み以上)お腹がすくらしい。
「あの、ジェダ様……」
ジェダが鶏肉のステーキをぺろりと平らげ、ジャガイモのサラダを片付けたところで、ルーチェが質問した。
『何を知りたいかな、ルーチェ殿?』
「五人はスキルを集めて、それからどうするとかって言ってましたか?」
『おお、そうじゃ! 話しそびれておったわいな。"スキル・コレクター"には、スキルを奪い取る事が出来る者と、反作用や過剰な負荷を抑えるため、宝石のごとく磨き上げる技を持つ者が揃った──惜しむべきはスキルを元の持ち主に返す方法を持った者が欠けていることじゃ。これは決定的な落ち度だと、彼らの長にあたる人物が嘆いておった』
"スキル・コレクター"は、他者のスキルを収集するだけではなく、できる限りそのスキルの短所を減殺して、もとの持ち主に返すという流れを作り上げたかったのだろう。
最後の仕上げの一手が、どうしても欠けたままなのだ。
ゆえに、他者のスキルを奪い、集めるだけに留まってしまっている──彼らにしてみれば、これほど不名誉で嘆かわしいことも少ない。
2021/2/7更新。