金暁騎士団(5)
「だけど僕らは、そんな理不尽な決まりごとに従ってでもスキルを使う。スキルとは分かりやすい個性の表れだからだ……」
自らのスキルに無自覚で無関心だったイーディスとは決定的に異なる考え方だが、ずっとスキルを磨いてきただろうラヴィエールにすれば当然の考え方だろう。
理解することは難しくない、とイーディスは思う。
異世界の釣り人ヤサブローのように。
決闘が大好きなフリカデレ伯爵のように。
無敵の力を奪われても、残った技能で楽しく金を稼いでいるガトゥのように。
スキルを持って生まれ、それを磨くことに力を注いでいる人々にとって、スキルとは個性の一部なのだ。
けれど……。
ネリネのようにスキルの反作用で身体を壊したり心を病んでしまった人たちも、イーディスが知らないだけで、世界にはたくさんいるのだろう。
現に『ガーヴィッジ・カンパニー』に所属の芸人たちは、有用なスキルを持っていながらそれを活用できずにいる。
輝くような個性を象徴するスキルと、自らの心身との折り合いをつけられずに苦しむ、なんてことが許されていいのだろうか?
ジェダが鏡の中に戻る前に、質問しておくべきだった──スキルとは一体、何なのだと。
楽しい人生を謳歌するために、逆境を生き抜くために存在するものなのではないのか、と。
「先ほどの仰りようだと、ネリネ殿は……」
暫く考え込んでいたラヴィエールが、重く言葉を発した。
「スキルを奪われたことを、悪く思っていないということですか?」
「はい。身体の動きを補う方法はたくさんありますし、身体が満足に動かなくても楽しく生きている人を、私は尊敬します。でも、充分にできていたことができなくなることは、あまりにつらい……だから私は、そうならずに済んで良かったと思っています」
名前も知らないあの人物に感謝を伝えたいくらいだけどそんな方法は知りません、とネリネが苦笑する。
ついに黙っていられなくなったイーディスの心を読み取ったかのように、彼女の義妹が微笑んで頷いた。
「でしたら、わたしが伝えます。その人に……ちょうどこれから、会えそうなところなの」
「え!? イーディス殿、それは……!?」
「まさか、狙われているのですか!? "スキル・コレクター"に!」
二人が二人とも、取り乱した調子で確認を求めて来る。
が、もと姫騎士は、大したことないとでも言うように軽く頷いた。
「誰かに狙われるのには慣れっこです、わたしはバリバリの前衛ですよ。便利なスキルを持ってるのも分かったし、なんとかなりますって」
「何とかってあなた……!?」
「大丈夫。わたしの考え方は以前から少しばかり変なんですよ、ラヴィエール殿。『彼』か『彼女』か知らないけど、相手の目的が飽くまでも『スキル』である限りは……。もし戦って負けちゃったって、わたしの強さの全部までは奪えないの」
「しかし!」
「今はちょっとだけ休んじゃってますけど、身体と心を鍛え直しさえすれば……善戦できると思うんですよね、」
少し口幅ったい言葉を使いたくなって、そんな自分に苦笑する。
相手を安堵させたり励ましたりできるだけではない、口にしてしまえば自らが後に退けなくなる類の言葉だ。騎士でもまして勇者でもない身には、重い言葉だ。
でも、言わずに居られない。
すぐに表現しないと気が済まないのだ。
「どんな相手と戦っても、ね」
心底あきれた、と言いたげに、『金暁騎士団』団長が首を何度も横に振る。
すぐに落ち着きを取り戻した彼は、また真剣に問いかけて来る。
「では、その戦いの準備の為もあって、当ギルドにお越しになったと」
「ばい。お話が早くて助かります。できれば、こちらの皆様に戦い方を講義して頂きたいのですが。これから依頼すれば、請け負って頂けたりしますかね」
ラヴィエールは大いに苦笑したが、
「もちろん出来ますよ。でも授業料の予算はいかほどですか? 僕らは高価いですよ~?」
とノリよく請け合ってくれた。
「前払いなら全財産、しめて二百万ゴルト!」
明朗会計をモットーとするもと姫騎士が、快活に声を上げた。
2021/2/5更新。