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朗報

ルーチェは歓喜して、封筒の中身を取り出す。

次々に目を走らせて、十枚以上の報告書をすぐに読み終えた。


「どうだったの?」

「研究施設を壊滅したって。でもガズとデボリエは逃げたらしい。施設にいた子はほとんど救助して、今はローゼンハイム公国に預けてるみたい。たぶんだけど、シエルさんが動いてくれたんだろうね」


ガズとデボリエが逃走したとの報に接したルーチェは、どこか安心しているようだった。

子どもみたいな無邪気さと善悪の区別がつかない危うさを持った二人の魔導師は、わずかな間でも彼女の家族だった。

その愛惜あいせきの情が彼らに対するルーチェの憎悪と怒りを生み出し、『邪眼』の力を目覚めさせた。

彼らと遠く離れ、時を経て、ルーチェは彼らを許すと決めた。

今では少しだけ心配してやる余裕までも持てるようになった。


とんでもない『両親』からの自立を無事に果たした義妹を、イーディスは誰にはばかることなく抱き上げた。


『何か朗報があったという解釈で間違いないじゃろうか?』

微笑んで姉妹を見守っていたジェダが、静かに口を開いた。

「うん。わがままで勝手な両親を、冒険者のみんなにお仕置きしてもらったの」

『よかったな、ルーチェ殿。その仕置きだけで許してやれそうかな。場合によっちゃあわしが地の果てまで追い回して鉄拳制裁してくれんでもないが』

「あはは、大丈夫。ジェダ様に殴られたらきっと異世界まで飛んでっちゃうし。ラヴィエールさんもありがとう、力を貸してくれて!」


僕は何もしていませんが……と言いながら、ラヴィエールも笑みを浮かべる。

「お役に立てたのならうれしいです。報告書を拝見しても?」

「あ、はい。どうぞ」

テーブルに置きっぱなしの書類にラヴィエールが眼を通す。


報告書には、ガズとデボリエが罪に問われないために、『邪眼』についての研究結果をローゼンハイム公国のシエル公女殿下に供出したこと。

それによって暫くの間、捕縛を免れる権利を得たこと。


「ふふっ……そういうことですか。シエル殿下はおもしろい姫君ですねぇ」

そして、不死身の魔導師たちが今後、()()()()ローゼンハイム公国からの指名手配を受け続けることが記されていた。


北大陸『五大公国』の中心的な役割を果たしているローゼンハイム公国からの指名手配が半永久的に解かれない。

これは、この世界のどこに逃げても常に誰かの監視と追跡を受けるということである。


悪事を働けば即座にバレて各国の騎士団や冒険者に叩かれ、もし気まぐれにでも世の中の役に立つことを為したならばその分の名誉に浴するという特殊な環境に、不死身の魔導師たちは身を置くことになる。


「時々はわたくしの悪戯あそびの相手をするように」とこっそり二人に念を押すシエルの姿が、イーディスには見えるようだった。

永遠の暇つぶしの方法を探し求める魔導師たちと、国を治めるために大好きな悪戯を禁じられてしまったシエルとは、意外と相性がいいのかも知れない。


そして何より、あの二人のことでルーチェが思い煩い続ける必要がなくなったことが、イーディスにとっては最も喜ばしい。


追放された身で国に戻り、直接シエルに感謝を述べることはできないけれど……彼女に会いたがっていたクヴェトゥーシュに言伝ことづててもらうのがいいだろう、と思う。


「また会いたい? あの二人に」

イーディスは腕の中の義妹に優しく話しかける。

「うーん、どうだろう……あの人たちが来るなら拒まないけど。それよりお姉ちゃん、あたし気になることがあるの」

「それは?」

「ぼんやりとしか覚えてないんだけど……研究施設にいた子たちの人数が合わない気がする」


三人とか五人くらい脱走しちゃったのかな、とルーチェは気遣わしげな表情で言った。

「や、みんな『邪眼』持ってたりするから、あんまり心配してないんだけどさ」

「困ってたら助けてあげたい──もっと自分に正直になった方がいいかもよ、ルーチェ?」

「いつもは心がけてるよ、でも……なんだか言いにくくて」

「知ってる。いつも、いつも通りでいられるわけないもんね」

イーディスは困ったような微笑で頷く義妹のやわらかな金髪を、ゆっくりと撫でる。

2021/2/5更新。

2021/3/6更新。

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