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金暁騎士団(3)

イーディスのスキルの判定が終わると、ジェダが今度はルーチェの手を優しく触れた。

『他に類を見ぬ速度による魔法の熟達。魔物の召喚・使役。新しい魔物の創造もできるのか。すごいな』

「えへへー。ありがとう、お姉さん!」


『ははは、二百歳超のばばをお姉さんと呼んでくれようとは。婆の喜びはさておき……ルーチェ殿のスキルを名付けて、"魔軍まぐんの指揮者"とでも呼びたいところじゃな』

「魔物の軍団ってことだよね。ちゃんと操れるのかな?」


『技術を習熟させれば何の問題もなくできるようになる。それよりも激情や衝動に決して流されず、力をコントロールすることを心がけるがよい。そなたの義姉上あねうえが、さながら船のいかりのごとく支え続けてくれるじゃろう』


「わかりました、ありがとう! 今日はゆっくりできるの?」

『うむ。これほど館に魔力が満ち満ちておれば……数日は滞在できそうじゃ』

「じゃあ、ちょっと後で相談したいんだけど──」


ルーチェはラヴィエールとネリネに願うような視線を送った。

二人が共にしっかりと頷いたので、「よろしくお願い致します、ジェダ様」

快活に微笑んで、深く一礼した。


『よいよい。田舎のばーちゃんだとでも思って何でも話しておくれ。ラヴィもネリネ殿も、イーディス殿も。わしに心を開いてくれる人々を、べてわしは好きじゃ』

「じゃあ、じゃあ……ジェダ様は一体、何者なの?」


この場の誰もが──おそらく孫かひ孫か玄孫やしゃごのラヴィエールでさえ知らず、一番気になっていたことを、ルーチェが遠慮しながら尋ねた。

ジェダは微笑みながら、長い黒髪をひとつに結んでいた金色の髪紐をほどく。

さぁっとわずかな音がして、その髪が深緑に染まった。

一瞬の間の出来事であった。

わしの名はジェダ』


続いて片眼鏡をはずし、両手の指輪を数個、取り去る。

赤い瞳もまた深緑に染まり、妖しく輝いた。

『……"翡翠ひすいの魔王"ジェダじゃ。わが"解析と判断の魔眼"に見通せぬ物なし、ってな──コレ昔の決め台詞なんじゃが、今思えばちとカッコつけすぎじゃなぁ。ははははは!』


この場にいる四人が四人とも呆気あっけにとられて何も言えないことを察したのか、ジェダは再び鏡の中から出て来た時の姿に戻った。

『調子乗ってしもーたわいな。皆、あい済まぬ』


「いえ、お祖母ばあ様。僕は昔からお祖母ばあちゃんっ子だったでしょう? 貴女のことをもっと知りたい、そうしたらもっと好きになれるって思っていたんですよ」

ラヴィエールがいち早く、凍り付いたような空気から脱出した。


『そうじゃったか、ラヴィや──わしのかわいい玄孫やしゃご。詳しく話す機会を持つべきじゃったな』

「はい……また、珍しい魔法を教えてくださいね」

高祖母こうそぼの前ではどこにでもいる少年に戻ってしまうらしいラヴィエールを、イーディスは頭を整理しながら眺めていた。

ここにもまた、家族の深い愛情が存在している。


「ジェダ様のご家族は、何人いらっしゃるのですか」

『そうさな……色々な世界を渡り歩き、養子を数多く育てた。ほとんどの者とは血縁がないが、集めれば二百人はおるのではないかと思う』


「今から増えたりしても大丈夫ですか?」

『無論じゃ。どうしたね、イーディス殿』

「いいえ……」


ある場所に百人近くいて、これから出奔して来るはずの子ども達のことを知らせてみようと思って言いかけた瞬間、それがまだどうなるか分からない案件だったことを思い出す。

向こうから連絡が来るのを楽しみに待つつもりだったが、思い切ってこちらから確認してみることにした。


「ラヴィエール殿、北大陸の『爽海亭そうかいてい』との連絡手段をお持ちでしょうか」

「はい。大きな作戦があるとのことでしたので、あちらにメンバーを五人、派遣しています。すぐに連絡を取りましょう」

「ありがとうございます」


ラヴィエールは着席しているテーブルを指で数回ほど叩き、「ああ、いたいた。ちょっと待ってね……」

真っ白な封筒を出現させた。


「こちらが……ええと、『不死身の魔導師をちょっとだけお仕置きしちゃうぞ作戦』の報告書になります。大変にお待たせしてしまったことをお詫びしておいてくれとのことでした」

コメディ漫画に出て来そうな作戦名は、おそらく『爽海亭そうかいてい』のアシュリーが発案したのだろう。


「待たせただなんて……依頼してから一ヶ月も経ってないです。すごいです!」

依頼者としてラヴィエールから封筒を受け取ったルーチェが、はしゃいだ声を上げる。

2021/2/4更新。

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