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金暁騎士団(1)

夜遅くまで『夜明けの道標』での会話と買い物に専心したイーディスとルーチェは、デパート南館の部屋に戻って軽い夜食を摂り、風呂に入ってゆっくりと眠った。


翌日、いよいよ『金暁騎士団ゴールデン・ドーン』に顔を出してみようということになった。

彼らと共に冒険に臨むなり、手合わせの相手を求めるなり──再び鍛錬するのならば今度は優れた他者の力を借りたいというイーディスの考えに、ルーチェが二つ返事で賛同したのだ。


金暁騎士団ゴールデン・ドーン』の本部は、デパートの敷地内にある小川を渡った先だ。

多数の店員のための居住地として残された南側の商店街の建物の中で一番目立つ建物、らしい。

例によって自分の仕事を早く片付けたというネリネが同行して、三人でお洒落な橋を渡った。


「ネリネさんのお兄さんと妹さんが所属されてるんでしたよね」

「ええ。私は除名を願い出ました」

「理由をお伺いしても?」


イーディスは慎重に、係員のプライベートに踏み込んだ。

ネリネは「ゆっくりお話がしたいのです」と微笑む。

彼女の意向を尊重して、談笑しながら美しいせせらぎを渡り終えた。


南大陸でもっとも高名な冒険者ギルドの本拠地は、三角屋根が特徴の大きな建物だ。

玄関で用件を短く伝えると、すぐに三階の一番奥の部屋へ向かうよう案内を受ける。

ドアの前でしばらく待っていると、内部から「どうぞ」と指示された。

少し緊張ぎみのネリネと共にドアを開けると、内部の空間が魔法で大きく広げられていることが分かった。

丈夫そうな造りの本棚には無数の書物が並び、額縁に入った絵画や武具が部屋じゅうに飾ってある。


部屋の中央、本棚を背にする配置の机の前の席に、小柄な少年が座っている。

「ようこそ……『金暁騎士団ゴールデン・ドーン』へ!」


花が咲くように微笑んだ少年は椅子から立ち上がると、イーディス達の前までゆっくりと進み出た。

足音の一つも立てない、極端に無駄がなく軽やかな動きだった。


一言で言って、かなりの美少年である。

肩まで伸ばして美しく整えた暗い色合いの金髪が、秋の朝日を受けて煌いている。

ダテ眼鏡の奥の紅い瞳はすべてを見通すように澄み渡り、無意識にか、こちらを観察するようにくるくると光る。


全体的にふっくらとして、女性的な顔立ちだ。

そう思わせるのは、若さを示すような瑞々しい唇にほんの少しべにが差してあるからだろうか。

「ラヴィエールと申します。当ギルドの長を務めさせて頂いております。以後、よろしく」

少年が丁寧に一礼する。


わずかな動きにも伴う魔力によって起きる小さな風に、彼の身体を柔らかく包んだ真紅のローブが揺れる。


礼儀に厳しい騎士団にいたイーディスが見ても超一流の騎士もかくやと思うほど、完璧な礼節を心得ているようだ。

魏姉妹も丁寧に名乗り、右手を気さくに差し出した少年と握手を交わす。

絹の手袋越しに伝わる体温は、少しだけ冷たく感じられた。


利き手での握手──警戒されていないことの証明。

ネリネから話が通っているのか、少年もイーディス達を信用に値すると評しているようだ。

あるいは奇襲をかけられても負けない自信が、小柄な身体に溢れているかのどちらかだ。


「本日はどのようなご依頼でしょうか?」

少年は飽くまでにこやかだ。小さく手を叩いて椅子を用意すると、三人を促した。

「笑わないでくださいね」

「もちろん」

「わたしは、スキルを身につけたいのです」

「……スキル、ですか」

「はい」

少年はイーディスの求めを少しも笑うことなく、「ふむ」と小さく呟いて目を閉じた。


「失礼な言い方になってしまいますが……それはイーディス殿が今日これまで、ご自身のスキルに関心を持って来られなかったということでしょうか?」

「その通りです。幼少より重ねに重ねた鍛錬と義妹の魔法が、わたしの旅の支えです」


「左様でしたか。でしたらまず、試験を実施するべきかと思います。あなたのスキルを判定しなければ、どうやらお話は前に進みません」

「そう思います。試験とはどのように?」

「お手間は取らせません。ただ僕にはまだ致しかねますので、助っ人を呼ばせてくださいね」


リヴィエールは再び手を叩いて、今度は人の背丈ほどある大きな姿見を持ち出した。

鏡の中には、実際の部屋とは全く違う景色と、人物が映っている。

2021/2/3更新。

2021/2/4更新。

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