グラシェ・デパート(6)
「なんじゃこりゃっ!?」
目覚めのくちづけにしては強引で、豪快だった。
スパイスたっぷりの炭酸飲料を口にしたイーディスは、一発で怠惰と眠りの誘惑を断ち切った。
「ディッシュ・コラル地方の学生が御用達、眠気覚ましの特製ドリンクです。一般のお客さまにも一定の需要がございます」
「そ、そうですか……なかなかの味でした」
香辛料の刺激もさることながら、炭酸の強いこと強いこと。
まだ身体が放電しているかのようだ。「ご飯を食べ終わるまでは昼寝をしなくて済みそうです」
「では、当店自慢の料理を味わっていただけそうですね。こちら、昼食のメニューです」
最高級の紙で作られたメニュー表には、色鮮やかな写真が豊かに用いられている。
見かけでは分からないようになっているけれど、この店はどうやら高級店のようだ。
どれを見てもおいしそうな料理だらけ。
イーディスは戦士の肉体が求めるままに、選択式になっている肉料理と魚料理を一度に注文した。
数分と待たずに用意されたランチを自ら受け取りに行こうとしたが、係員が先に動いたのでおとなしく待つことにする。
多数の料理の皿が載った大理石のプレートが運ばれて来た。
輝くような豪華な料理を目の前にしても、鍛え上げた精神力が揺らぐことはない。
色々な料理を少しずつ注文した食いしん坊のルーチェと、結構な体力を消費しているはずのネリネの用意が整うまで、イーディスは先ほどの炭酸飲料を飲みながら待った。
慣れるとなかなかの味であった。
軽い身のこなしで料理を丁寧に運んでくれた係員の「料理の説明をするより、お召し上がりいただいた方がうれしいです」という有り難い言葉を受けて、魏姉妹はさっそく食前の挨拶をした。
イーディスはまず、大きな鶏のもも肉をこんがりと焼いたローストチキンにナイフを入れた。
ざっくりと大きく斬った肉を、できるだけ品よく口に運ぶ。
淀みなく正確に動作するのが一番早いのだと教えてくれたのは、第六公女グレイティルであった。
そう言えば、第六公女も狩りを能くする女性だ。
貴族のお上品な食事では量が全然足りなかったイーディスら成長期の義妹達のために、自ら投槍や斧槍で仕留めた鶏や猪の料理をご馳走してくれていた。
いまイーディスが相対する『剛力鶏』のローストは、グレイティルの味付けに比べるとかなり濃い。
ルーチェが食べている黄金色のパンと合うのではないかと考えて義妹にすすめると、やはりおいしそうに喜んで食べる。
子どもから大人まで楽しめるように味を調節できる、とはネリネの短い解説だが……。
「あの、ネリネさん。わたしって幾つに見えてますか?」
「そうですね……十五・六歳ほどでいらっしゃるのかなと思っておりましたが」
騎士ならば礼節を重んじ、年齢に関係なく厳粛に振る舞うべきだ。
作法の先生だったロズヴェル老師は常にそう言って、イーディスを厳しく指導した。
おかげで、というべきか、そのせいで、と言うべきか。
戦士として実力を堂々と示し始めた十四歳頃になると、鍛え上げた美しい肉体とあいまって、イーディスは立派な騎士──実年齢以上の大人として見られることが多かったのだ。
係員の見立ては、イーディスが思っていた通りに歳相応である。
実は程よく辛い食べ物や味付けの濃い食べ物が好きで、味覚が子どもに近い彼女はそのことだけでも嬉しくなってしまっている。
食べる速度と量も増えるというものだ。
ちょっとだけ今さらな気もするけれど、ちゃんと十代の少女として見てもらえている!
係員の許しを得て追加で注文するうちに、四人掛けのテーブルが料理で一杯になってしまった。
彼女たちの名誉のために記しておくと、優秀であればあるほど、戦士も魔導師も区別なく腹が減るものなのだ。
確かに人間が食べる量としては少なくないが、魔族の中でも大食いが多い半龍人や魔人族ともなると、魏姉妹が注文した量の三倍から五倍は平気で平らげてしまう。
かつて北大陸の大食い大会を荒らし回った魔人族の大食漢に比べれば、二人の食べる量なんぞかわいいもんである。
三人のテーブルに並べられた数々の皿は案の定、他の客の注目を集めちゃったりなんかしているわけだが……イーディス達にしてみれば、このくらいで驚かれては困ると言ったところだ。
良く味わっておいしい料理を食べ、明るく話をする。
食べる時の姿勢やマナーにもこだわらなくていい、何とも幸せな昼食。
2021/1/30更新。




