グラシェ・デパート(4)
「いらっしゃいませ」
ネリネの案内を受けたイーディス達が次に丁寧な出迎えを受けたのは、東館の一階。
服飾を専門に扱う店でだった。
西館二階の駄菓子屋にも立ち寄り、旅行の間じゅう食べていられそうな種類と量のお菓子を買い込んだ後である。
デパートを構成する多数の店の配置に、規則性はまったくと言っていいほどない。
ネリネの話によれば、かつての商店街での売れ行き順とか扱っている品物の順番とかいろいろ模索したうえで、現在の自由気ままな配置に落ち着いたということだった。
色々ツッコミどころはありそうだけど、とりあえず納得しておくことにした。
なんたって、今は大陸随一のデパートに来ている!
細かいことを気にしている時間があったら買い物する方がいいに決まっている。
というわけで、自身も丁寧に着飾った男性係員の案内で、魏姉妹は普段着を買い求めることにした。
日常生活と戦闘状態との区別がつきにくいことを考えると、普段から気取った服を着るのは難しい。
まずはテオと名乗ったおしゃれ男子に見立ての腕前を見せてもらう。
四階ほどある東館の建物は、ほぼすべてが防具類を含めた服飾関連の店だ。
テオは東館の各店から様々な衣装を借り受けつつ、二人にぴったりのコーディネートを模索する。
イーディスには太腿のあたりまでの長さの白いコートに紫のシャツ、スカートはこれまた白。
「シンプルな方が似合うと思うんです」とのこと。
普段着よりも防具にこだわっていたものだから、やっぱりお洒落のことはまだよく分かってない。
服なんて着られればいいとか思わずに、もっとちゃんと興味を持っておくべきだった。
一方の係員は調子が出てきたのか、白を基調とした幾つかの組み合わせや春夏用の衣装、バカンス用のちょっと大胆な水着まで次々と選んでくれた。
試着する間、ネリネとルーチェからクレームが出なかったので、どうやら勧められるままに買うしかないみたいだ。
「なんだか僕、勝手に調子に乗っちゃって……すみません」
「いえ、わたしもお洒落に無頓着すぎました。義妹の服もぜひ選んでいただきたいです。とびきり可愛い普段着と、魔導師向けの軽い戦闘服みたいなのを」
「お任せください」
テオはイーディスの分の会計を終えると、うきうきした足取りで子供向けの服飾店に向かった。
その店の係員と相談した結果か、イーディスが求めたとおりの衣装を両手いっぱいに抱えて戻って来る。
「かわいいのがいっぱいあって嬉しいけど……これ全部着るの……?」
義姉の着替えを楽しく見ていたルーチェだったが、持って来られた衣服の多さに少し戸惑っているようだ。
きっと全部よく似合うから、とネリネに励まされて、ようやく試着室に入った。
シエルも結構な衣装持ちで毎日違う服を着ている事なんぞ思い出したりしながら、イーディスは義妹の着替えを楽しく見守った。
明るいグレーの子供用コートに赤いスカートの組み合わせはかっこよく決まったし、本人が好きな青色を贅沢に用いたローブを身にまとえば、一気に魔導師らしい雰囲気に様変わりする。
内心で愚かな人買い達を嘲笑したくなるほど(そうする意味がないのでしないが)、ルーチェは可愛くてきれいだ。
自慢の妹だ。
「こっ、これは……あたしには可愛すぎるのでは」
フリルつきの薄紫のワンピースの順番が来た時には、自分の美貌に自覚がないらしいルーチェが改めて戸惑いを見せた。
異世界の技術で緻密に作られた白いレースのタイツが“可愛すぎる”印象を持った原因かもしれなかった。
「絶対かわいいって! 着てみてよ、ルーチェ」
「うぅっ……何でそんなに楽しそうなの?」
「わたしがあなたのお姉ちゃんだから、です」
「んも~。そういうこと言う時ってちょっとは照れるもんだけどなぁ」
ルーチェは苦笑いを浮かべたまま、テオのとっておきコーディネートを身に着けた。
照れ臭そうに姿見を確認して、「まぁ、普段着ならこのくらい可愛いくてもいいかな」なんて懸命に照れ隠しに走る。
女の子っていくらでも可愛くなれるんだなー、などと考えてから、すぐに自分も女の子だったと思い出すイーディスである。
2021/1/28更新。