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グラシェ・デパート(2)

『グラシェ・デパート』西館・三階。

目的地にたどり着いた魏姉妹は、係員のネリネも数えたことがないと言う書物の品ぞろえに驚かされた。

ルーチェは夢中になって魔導書を物色し、珍しい言語や古い言葉で書かれた書物を次々に選び出す。


一方のイーディスは売り場を管理する書物の専門家が貫録たっぷりに座す机に向かい、許可を得て荷物入れから分厚い魔導書を取り出す。

白髪の口ひげを蓄えた人の好さそうな爺さんは、イーディスの義姉たちが書いた本を興味深そうに手に取った。


なじみ過ぎていて分からないほどだけれど、ごく薄い手袋を両手につけている。

老練の魔導師らしくあっという間に魔導書を斜め読みし、微笑みながら机に置き直した。


「こりゃ良いぞ。戦士のための魔導書といったところじゃ」

「戦士のための、ですか?」

「うむ。基礎の身体強化に始まり、分身を作り出して操る魔法や相手の力を受け流す防御魔法、気合で岩や鉄を貫き通す方法が載っておる。自由そのものの発想で新しく作られた魔法体系と見たが……どうじゃ?」


「老師の仰る通りです。魔法が苦手なわたしの為にと、義理の姉たちが作ってくれた魔法です。彼女たちの為にもきちんと覚えなければいけないのですが」

「心配めさるな、騎士殿。思いっきり難しい言葉で書いてあるが……ほれ」

老人が魔力を通すと、魔導書に使われている紙の色が変化した。


いや、違う。


すっきりと整理してつづられた複雑な文字列の背景に、魔法文字が大きく浮き上がったのだ。

オレンジ色のインクで印刷された複雑な意匠の記号が美しく映える。

「一通り詠唱文を読み込み、その上で大きく印字された記号を覚えよと書かれておる。指や武具で正確になぞり書きをすれば、魔法が成立するとさ」

「そうだったのですか。読む前に挫折ざせつしてしまっていました……」


レメディの仕事だな、とイーディスは直感する。

ニティカが気まぐれに考え出したり古い資料から翻案したりする難しい魔法式を、いかに簡単に用いるかを追求していた。


意思疎通に何の困難もない事をあわせて、とても良いコンビだと思っていたものだ。

わざわざ強い魔力に触れさせないと簡単な方法が分からないようにしていたのは……さしずめリンダとリンナの差し金だろう。

他国からやって来た双子どうし、さながら四人姉妹のように仲が良かった。


「お客人とご姉妹きょうだいが互いに慕い合う間柄であったのが、この爺にまでよくわかるようだわい。大事にされよ」

「ありがとうございます。長いこと気にかかっていたのです。頑張って勉強します」

「買い物をされる間に、わしが手引き書を作っておこう。予算はそうじゃな……五千ゴルトほどをみておいてくだされ」


「安すぎるかと思いますが」

「ご姉妹から新しき良きヒントを頂いた。その御礼と思ってくださればよい」

「では、お言葉に甘えます。こちらを」


一千ゴルト銀貨を五枚、老人に手渡す。

現金前払い、明朗会計がイーディスの目標だ。

ちなみに『ゴルト』が北大陸だけの通貨だと思っていたことは誰にも秘密。


老人はしかと銀貨を受け取って帳面に何事かを記すと、「では後ほど」と言い置いて姿を消した。


書店の入り口付近に戻るべく歩き出そうとしたイーディスは、次の瞬間の光景に驚かされた。

本棚と本棚の間から、慌てた様子で魔導師が姿を現したのだ。

またいきなり店番を頼まれたというようなことを言って、老魔導師の席に座る。


なぜか一気に興味を引かれて、ほくほく顔で書物の袋を両手に持ってこちらに歩いてくる義妹を手招きした。

優しい係員に荷物を持ってもらったルーチェがすぐに駆けつける。


義妹いもうとは魔法にとても興味がありまして。いきなりですけど、お話をお聞きしても良いですか?」

「ええ。当店、店員の知識やトークも売ってますんで。ご遠慮なくどうぞ」

イーディスが話しかけると、新しい店番の娘が愛想よく微笑んで応えた。

まずはお立会い──と大ぶりの葉っぱを三枚取り出し、優しく触れる。


次の瞬間、葉っぱが上質な紙を使ったカードに早変わりした。

『魔法について色々と/ハーブティーを添えて』

『看板娘ハーツイーズのフリートーク/おやつもあります』

『魔力、貸します/魔法についてのお悩み解決』


イーディスにとってはどこかで見たような文言が並んでいる。

ルーチェが眼を輝かせて、真ん中のカードを選んだ。

2021/1/27更新。

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