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港町にて(1)

長くなってしまった食事が終わるまで、グリセルダはちゃんと待っていてくれた。

立ち話も疲れるし、と言うことで半ば強引に案内されたのは、複雑に入り組んだ港町の路地の奥。

なんでもグリセルダはこの大陸の各所に『住めればいい』程度の作りの拠点を持っていて、案内してくれたのはそんな数ある拠点の一つなのだそうだ。


「さてと」

古い漁師小屋を買い取って移築したという小さな建物には、浴室と居間の二部屋しかない。

その小さな居間で、気に入っているという椅子に腰かけたグリセルダが指を小さく鳴らす。

適当そのものといった姿はどこへやら、口調や態度とギャップありすぎ(失礼)の、彼女の真の姿があらわになった。


何と言っても目立つのは、光の当たる角度によって微妙に色が変わって見える、深い蒼の瞳だ。

『邪眼』ほどの凶悪さはないが、『何かの特殊な力を持っていても不思議はなさそうだお』とレメディから聞いたことがある。


そして、背が高い。

以前の肉体──長身だった頃のイーディスと比べても、少し小さいくらいだ。

その長身の背中まで伸ばした銀髪は公王家十六姉妹の中でも群を抜いて美しく、相変わらず枝毛の一つだってありはしなかった。


次に、武術をくするにしては細身である。

イーディスのように鍛えて強くするまでもなく、必要な筋肉が最初からそろっているかのように機能的で、しかも彫刻みたいに豊かで美しい肉体が、これまたテキトーそのものの半そで半ズボンの奥に隠れている。

──のを、たまに一緒に風呂を浴びていたイーディスは知っている。


「どうしたんだい、イーディス。義姉ねえちゃんの顔とか身体なんか見慣れてるだろうよ?」

「いえ……まあその、そうなのですが。相変わらずお美しいなと」

「まあ暫く会ってなかったし? 思いっきりシスコンなイーディスちゃんとしては見とれて当然だわな、ふふん!」

「ねっ、義姉様ねえさまっ! あんまりからかわないでくださいと何度言えばっ!?」


イーディスは怒った口調で反撃を試みてみた。

『思いっきりシスコン』と言う言葉は、否定したくても出来ないけれど。


義妹の狼狽ろうばいなど知らんと言いたげに、グリセルダが席を離れた。

「どれ」などと言いつつ背を屈めると、いきなりルーチェを抱え上げる。「わっわっ!」

完全に不意をつかれて腕の中で慌てるのの頭を優しく撫でて落ち着かせると、また席に戻って少女を膝の上に座らせた。


「あんた、名前は?」

「る、ルーチェと申します」

「ルーチェか。いい名だね。いくつだい?」

「十三歳、くらいかと」

「シエルより一歳いっこ上くらいか。イーディスと仲良くしてくれてるみたいで嬉しいよ」

「は……はい」

「旅は楽しいかい?」

「はい。イーディスお姉ちゃんのおかげで」


グリセルダは満足そうに微笑んで頷いた。質問タイムは終わりらしい。

ルーチェをイーディスの傍に座らせると、自らもその場にしゃがみこんだ。


「で、これからどうすんの」

レンカ義姉様が『困ったらグリセルダが飛んで行くから』と仰っていたのを、イーディスは思い出す。

事情はすべてご存知だろうから、尋ねられたことに応えることにした。

「はい、しばらくは大陸を観光して、それから『スタークラッカー諸島』に行ってみようかと思います」


「そっかそっか。冒険者ギルドは? ……ああ、今さら誰かの依頼とか命令で動くのも面倒臭いよなぁ」

「よくお分かりで」

「何年姉妹をやってたと思うんだい」

「それもそうですね……やっぱり、お義姉様ねえさまには敵いません」

「まぁね。コルティ義姉様からのお小遣いは? ご依頼を受けた手前、あんたのことが色々と気になってね──許しとくれよ」


「ありがとうございます。一千万ほどを、自分の為に使おうかと」

「あとは困ってる人のために……、ってとこか。あんたは昔から欲がないからなー」

「はい。もう一千万も使ってしまいましたけれど」


もはや何でもお見通し状態である。

イーディスは照れ隠しに頭を掻くしかない。


「あんたらしいと思うよ。ルーチェ、欲しい物は全部、義姉ちゃんに頼みなね? お金で手に入る物なら、どんどん買いそろえた方がいい」


「は、はい……」

2021/1/12更新。

2021/1/13更新。

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