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困難と解決(1)

とりあえず貸し付けた三百万ゴルトを持って小舟で去るラウロと別れ、イーディス達は客船に戻った。

給仕の少年がすぐにやって来て、船長が呼んでいる旨を伝えてきた。

船の一階まで降りて船長室に入ると、中年の船長が頭を抱えていた。


「どうなさいましたか」

「あー、来てくれたか。さっきの襲撃は芝居みたいなもんだったって『爽海亭』の連中に聞いたんだけどよ、間違いねぇか?」

「はい。上演した者から船の修理費も預かっています」

「なら楽しい芝居だったってことにしてやろう。雇われ者だが俺だって海の男だ」

「ありがとうございます、船長」


ただなー、とボヤいて、船長は煙草をふかした。

「どんだけ急いでも日程に遅れちまいそうなんだよな。ウチの会社は時間厳守が原則、遅れると給料減らされちまうんだ……俺はいいけどスタッフが気の毒でよ」


やたらと遠回しな言い方だが、彼は何か良い提案はないかと言っている。

凄腕の冒険者として認識してくれているらしいことは嬉しいが、幾ら何でもできることとできないことってのがあるわけで……。


一、イーディスが船を引っ張る。

「ぜってぇ無理だろ、あんたが壊れちまうじゃねぇか」


二、動力源の限界まで加速する。

「最新型なのは良いけど繊細なヤツでな、無茶が利かねぇらしい」


三、目的地を変更してしまう。

「それこそ会社から大目玉だ。参っちまうなぁ」


「やはり、ダメですか……」

提案が通るはずもない事は、提案したイーディス自身がよく分かっている──バカだなあ、わたしって、と思わなくもない。

いつも最良の判断ができるわけではなく、最良の提案を考え出せるわけでもないのだ。


「や、無茶なこと言ってんのは俺の方だ。悪かった」

「いえ、そんな……」


恐縮しあう大人達をよそに、ルーチェは先ほどからひたすら考えごとをしている。

やがて何かを決意したように、「よしっ!」と声を上げて手を打った。

「どうしたの、ルーチェ?」

「お姉ちゃんも手伝って。船長さん、甲板の人払いをお願いします」


言うが早いか転移魔法を使ったルーチェを追って、イーディスも船長室を出た。

階段を駆け上がり、三階の甲板へとたどり着く。


ルーチェは、誰もいなくなった甲板の中央で、魔力を練り上げているようだ。

極度に集中しているらしいことを感じ取ったイーディスは、強い魔力に引き寄せられてくる魔物を撃退することにした。


数えて十五体目を蹴とばしたところで、ルーチェが魔力を解放した。

炎の色と熱をたたえた球体が、少女の目前で燃え上がっている。

橙から赤へ、美しいグラデーション。


『創造の釜』の火だ──四番目の義姉ネージュが実験しているのを、イーディスは一度だけ見たことがある。

ネージュは動物が好きだが、野生を奪ってしまうことやいずれ別れねばならないことが嫌で堪らないという少々わがままな性質を持っている。

そこで彼女は、自ら作り出した魔物を飼いならすことにした。

父たるローゼンハイム公王に大借金し、アイゼンシルトの吸血鬼王に頼んで、特注の釜をこしらえてもらった。


素材を溶かして魔力と混ぜ合わせ、まだ存在していない魔物を作り出す──名付けて『創造の釜』。

ネージュは自ら考案した魔導具を使いこなすまでに何度も失敗し、何度も発注を繰り返して借金を増やして行った。


それがどうだ。

ルーチェは己の魔力だけを使って、その魔導具と同じ炎を練り上げてしまったではないか。

これが、彼女の『邪眼』が持つもう一つの力なのだろう。


「お姉ちゃん、何かちょうだい! 先に材料あつめるの忘れてた!」

イーディスは慌てて魔法の小箱を探り、銀の鎧の破片を詰めた袋を取り出した。

無遠慮に取り出し、無造作にポイポイと魔法の炎の中に投げ込んで行く。


チートな貴公子に破壊された鎧の欠片が、あっという間に溶けて炎と混ざり合った。

ルーチェは両手を魔力で覆うと、銀色の熱の塊をこね始める。

その美しく勇壮な原型を知っているかのように、打ち砕かれる前の鎧を完全に再現して見せたのは、わずか数秒後のことだった。

作り手が仕上げに小さな鎧を叩くと、宙に浮きあがった鎧は瞬く間に巨大な姿に変化した。


鎧の魔物は腕を空に掲げてガッツ・ポーズなどして見せる。

イーディスは驚くやら呆れるやら、どうしていいか分からなくなってきていた。

2021/1/6更新。

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