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停泊(1)

イーディス達の考えを聞き届けて予定表に何事かを書き込んだ女性スタッフは、ごゆっくりおくつろぎくださいと一礼して客室を去って行った。

「お買い物とかしなくてよかったの? 家族にお土産とか……」


「大丈夫。わたしより、よっぽど外国旅行とかしてる人達だし。さすがにこのあたりの島国の隅々にまで血縁関係が広がってるとまでは思えないけど、地元の品物を手に入れる手段なら幾らでもあると思うし」

「そうなんだ。じゃあ、二人で“ぐーたら”しちゃおうか」

ルーチェがにっこりと頬を緩ませた。


「うん。ぐーたらに飽きたら勉強とかもできるからね。っていうか多分、わたしがルーチェに魔法を教わることになると思うけどさ」

「魔法、苦手なの?」

「身体強化くらいはできるけど、そのくらい。生まれた家の家系には武術と魔法どっちもできる天才が多いんだ──でも、わたしはそうじゃなかったみたい」

「お姉ちゃんが、強いのにやたらと謙遜したがるのはどうしてかなと思ってた。今、理由わかっちゃった。二組もいる家族がみんなそんな感じなんだったら……まあ、しょうがないわな」


「子どもでも武術とか魔法ができて当たり前? みたいなところがあったからね。皮肉でも自慢でも何でもなくて、本当にそんな環境だった。わたしは本当は、頑張っても頑張らなくてもよかったんだと今でも時々思う」


「でも、あたしにとっては一番頼れるのはお姉ちゃんだから。忘れないでね」

「わたしはルーチェの傍にいる──あなたが、もういいって言うまでは」

「うん!」


ご機嫌な義妹を優しく抱え上げたイーディスは、気になっていた船の二階部分へ行ってみることにした。

客船の二階は丸ごと遊興施設になっている。

利用客とすれ違うことすら面倒だった旅の初日と今とでは、状況も気分も随分違う。


異世界から来た釣り人・ヤサブローが開いた会食で、客船の乗客のほとんどと顔を合わせた。

それほど抵抗感なく、彼ら彼女らと話すことも出来た。

自由な旅行と遊びとを求めて客船に乗ったのは、自分も貴族達も変わらないのだ。それが理解できたからこその気楽さがある。


「実は、あたしも気になってたんだー、カジノ! ガズはカードの達人だから、久しぶりに一緒に遊べるかと思ってたんだよ」

「そうなんだ……」

ガズとデボリエに色々な期待をしていて、それを裏切られてしまったのだろう。

だからルーチェは激昂げっこうして、他の人々に対しても殺意を持ってしまったのだ。


あの二人のことを『どうでもいい』と言い切れた今でもカジノに行っていなかった理由も、聞いてみた。

「どっからどう見ても普通の子どもだからね。あたしがカジノをうろついてちゃ、遊びどころじゃなくなっちゃうお客さんもいるでしょ?」

「で、人が減ってる今ならチャンスと」

「そういうことです~。さあ、参りましょう」


一番上のシャルロット姉様はカード遊びを通じて知り合った、グリューンエヴェネンの第四王子──当然、お忍びで遊びに来ていた──と夫婦になった。

美貌と能力を併せ持ちながら決しておごらず、常に冷静で、時には厳しい判断も迷わず行える。

そんな長姉をも魅了するのが、カードを始めとする『遊び』の世界だ。


いちばん縁遠いと思っていたその世界に、イーディスはわくわくしながら足を踏み入れた。

真っ赤なじゅうたんが敷き詰められた、ものすごい広さの一室だ。

壁や仕切りの全くない空間には様々なゲームの卓が整然と並んでいる。

おしゃれなスーツを着こなしたディーラーの男女が、わずかに船内に残った客の遊び相手を丁寧にこなしている様子が見てとれた。


『楽しめる金額に抑えて思いっきり遊ぶのよ』というシャルロット姉様の教えを守って、二人合わせて三万ゴルト分まで遊ぶとげんに決めた。

入口近くのカウンターで金額分のコインを買い求めて、まずはポーカーを選んだ。

三度遊んで見事に三連敗。三千ゴルトの負けを楽しみ、義妹が楽しそうに遊ぶのをおもしろく眺めた。


ルーチェは義姉の負けを取り返し、さらには軍資金を二倍に増やした。

義妹にカードで勝負を挑むのだけはやめておこうと、イーディスは誓った。

2020/12/30更新。

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