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平穏(2)

「だって、あたし、いろんな人に迷惑かけてばっかり」

「そうかな? ルーチェの言ういろんな人って何人?」


「数の問題なの?」

「いいから、ちょっと数えてみようよ。『爽海亭』の二十人と?」

「お姉ちゃんと……ええと」

「あのクジラみたいな魔物は数に入れません。というわけであんたが迷惑かけたのはしめて二十と一人いちにん、ふふふっ、まだまだ甘いぜ!」


「甘いって……」

「わたしなんか、家族親族が三十人くらいでしょ、騎士団の知り合いやらが二千人弱。あと故国の国民臣民総勢五万人! これだけの人数に迷惑かけまくって家出してきてやったもんね~」


「一体何をやらかしたわけ?」

「大事な試合で無様に負けて、皆の期待を裏切って、国を出て来ちゃいました。どーだ参ったか」

「いや、だからそういう問題じゃあ……はぁ」


ルーチェは何かを諦めたようなため息をついた。

「……ま、確かに数の問題じゃないんだけどさ」

ちょっとの間、なぜか自分の椅子の上でふんぞり返っていたイーディスが、ゲラゲラ笑いを収めて言う。


「誰か、他人や親しい人に全く迷惑をかけずに生きられる人がいると思って? あ、この場合『勇者』とか『魔王』みたいな化け物どもは除いて考える事として」


「……いない、かも。でも、だからってさぁ──あたしが他人に迷惑かけまくっていい理由にはなんないワケじゃん? 自分の魔力も制御できないんなら、そりゃ要らないと思われても仕方ないなーなんて思っちゃうわけですよ、お姉ちゃん」


「……なら、今度はルーチェの話を聞かせて」

「うん。あたしは、ガズとデボリエだっけ? あいつらに引き取られたの。かなりの金銭が発生してたんだろうな、何となく、両親がうれしそうだったのをよく覚えてる」


他人の話を聞く時には一切言葉を挟まない、会話の時の義姉の傾向をよく分かって来たらしく、ルーチェはためらうことなく言葉を続ける。

淡々と、感情と事実を切り離す作業をするように。


「で、実験だとかで『邪眼』を移植されて、長いこと経過観察をしてた──他の子ども達と同じように。あたしには魔物を召喚したり造形したりする能力が発現したみたいで、二人はそれを利用する手段を考え出した。あたしは単なる人買いだと思ったんだけど、新しい暇つぶしを考えるのに必死なんだとか言ってたわね」


ルーチェは黙ってうなずく義姉に飲み物を要求し、炭酸ジュースで喉を潤してさらに続ける。


「ダンジョンと冒険を題材にしたテーマ・パークよ。最初は二人とも楽しそうだった。お給料ももらえてたし、あたしも結構、悪い気はしてなかったんだ。でも、ある時から、あたしの『邪眼』は急激に力を増した。龍族ドラゴンだの魔人まじん族だのって、段々あいつらの手に負えない魔物を召喚するようになっちゃった。あたし自身にも止められない“力”だった。それで二人があたしをどうにか手放そうとして、あの騒動になった。何もこんな楽しい旅をするための船を使って捨てに来ることなかったのにね」


そう思わないお姉ちゃん!?

と派手に話を結んで、二敗目の炭酸飲料を一気に呷ると、これまた派手にグラスをテーブルに叩きつけた。


運のいいグラス、運のいいテーブルだった。


「それは……あの二人が全面的に悪いよ」

「だよね。でも、あたしも良くなかったと思う。自分で“力”を何とかしようって気が一切なかったんだもの、どうしようもないと思い込んで、何もしなかった。あいつらに楽しみを提供し続けてやる義理なんかなかったって思ってるけど、それでも。お姉ちゃんを間近で見てると余計にそう思っちまう」


「どうして? わたしは至って普通の……まあ国内最強とか言われてたから普通とは言えないか」

「うん。見ず知らずの子どものためにドラゴンに一人で立ち向かうなんて、誰にでもできる事じゃないよ」

「あの時はちょっと、頭に血が上ってた。冷静じゃなかったからね。子どもを捨てるような人間に腹も立ってたし、戦いたくてうずうずしてたし……半分はまぁ八つ当たりよ。一匹だけなら何とかなると思っちゃったんだ」


その考え方が素敵に非常識なのですと指摘されて、イーディスは苦笑する。

2020/12/28更新。

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