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バッドラック・レディ!?(1)

船はひたすらに進む。

釣り上げた鯛を使った豪勢な会食に船長など船のスタッフまで駆けつけて来たのを見た時はどうしようかと思ったイーディスだったが、船を自動的に航行させる仕組みがあるとの説明を受けて胸をなでおろした。


夕刻になり会食も終盤になると、あまりに魚がおいしかったせいなのか、各国セレブの皆さまから“もっと釣って欲しい”とのリクエストが来た。

無下に断るのは気が引けたので、イーディス達はもう一度、今度は船の右側に立って釣り糸を垂れてみた。


「なんだか、すまないね。もっとゆっくり旅をしたかったんだろうに」

「大丈夫です。魚釣り楽しいです、ヤサブローさん!」

ご機嫌なルーチェが、手ごろな大きさの魚を釣り上げながら若者の言葉に答える。

会食の間に聞いた、彼の名前の発音が面白かったようだ。


釣り人達の機嫌が良いのも当然──入れ食いであった。


楽しそうに釣りに興じる様子を見て、貴族達のうち何人かが自らの席を離れ、ヤサブローから釣り道具を買って船べりに並んだ。


貴族達は、すぐに釣り遊びに夢中になった。

だが一人だけ、どうにも楽しめていそうにない老婦人が目立たない場所に居るのを、ルーチェが見てとった。

なぜか凶悪そうな暴れうおばかり釣り上げてしまい、そのたびに『爽海亭そうかいてい』のメンバーに魚を仕留めてもらっている。


釣り道具をヤサブローに預けたイーディスは、義妹と共に老婦人の元へ駆け寄る。

「どうなさいましたか」

「見ての通りよ、お嬢さん……なんだか、気味が悪かったり力が強かったり、変な魚しか釣れないのよ……」

「なるほど。不思議ですね」

やっぱりダメなのかしら、と老婦人がため息をつく。

イーディスが事情を聞きだしたことには、これまでの人生でも悪い事の方が多かったという。

家は貧しくて両親は不仲、兄弟姉妹は優秀なのに自分だけがダメな人間。

四十歳過ぎまで地道にお金を貯め続けて夢の旅行に来てみたものの、魔物は出るし船酔いするし、と散々。

「ああ、やっぱり何をやってもダメなのかしら!」


イーディスは老婦人が愚痴を吐き終わるまで辛抱強く待った。一言も口を挟まず、彼女がもう一度深くため息をつくまで待った。


「……そこまで不運でいらっしゃるのには、何かきっかけがあるのではないでしょうか」

「きっかけ、ですか? 特に思い当たらないのだけど」

老婦人は考え込む間にも魚を釣り上げる。

鎧みたいな鱗の中型の魚や、タコ。ウツボにイカ。カニやウニまでいるのはどういう訳なのだろうか?


ルーチェと二人して舟をこぎながら見た魚類図鑑から飛び出して来るかのように、どう見てもおいしそうじゃない奴らばかりが、老婦人の針にかかって引き上げられてゆく。


平気な顔して凶悪そうな魚類を仕留めつつ、イーディスは彼女の長考を待った。

「二十年ほど前に、これを行商人から買ったくらいしか思いつかないわ」

と呟きながら、老婦人がつけていた首飾りを外す。


「失礼」

イーディスが触れると、首飾りは黒い波動を強く発した。素早く握り込み、数秒耐える。

魔力の放出が収まるのを待ち、手を開いた。


「まぁっ!?」

老婦人が驚きの声を上げた。首飾りの中央を飾っていた黒い宝石が、美しい薄紫色に輝いていたからだ。

「たぶん、ですけど。これは……運を操る魔導具マジック・アイテムです」

「運を? どういうことかしら」

少し待ちましょう、とイーディスが微笑む。

釣りのコーチ役を引き受けていたヤサブローを伴って、ルーチェが戻って来たのだ。


「ヤサブローさん、この連中はどうなんでしょう? 食べられますか」

若者は海の生物をひと目見るなり、黙って例の刃物を取り出した。


イーディスが槍で仕留めたイカを掴むと、何のためらいもなくさばいてみせた。

食べられるかを尋ねたルーチェに一切れ食べさせる。

「おいしいっ! 好みは分かれるかも知れないけど、食感もいいし、少しだけ甘みもあります!」

「揚げる、焼く、炒める、干す。いくらでも食べ方があるぜ。他の生き物どももそうだ。ありがたく食うに値する。ま、見かけは確かにきれいとは言えんし、食べる文化が無きゃ、わかんなくて当たり前だけどよ」


俺はちょっと知ってるだけだ、と若者がドヤ顔で言う。

2020/12/28更新。

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