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追放前夜(2)

「退屈、なんてことはなかったですよ。お姉様がたや、周りのみんなが……わたくしの悪戯を許してくださっていましたから」

「……姉上の顔にはそんなに思っていることが分かりやすく出るのでしょうか、シエル?」


「あら、今頃お気づきになるなんて。だから社交界デビューなんかより、イーディスお姉様には騎士を目指させたんだと思いますよ、お父様は」

「うぅ、反論できません……そう言えば一番上のシャルロット姉様とカードをしても、一度も勝ったことがないわ」

「わたくしは、そういうイーディスお姉様の正直なところが大好きよ。どうか、そのままで」


「うん……なんだか、別れてしまうようね?」

「わたくしの方が、過剰に感傷的になっているのです。もう、大好きな悪戯を辞めないといけない。この『邪眼エビル・アイ』が生み出す衝動を、まったく別の手段で解消しなければならなくなると思うと……堪らない。でも、お父様のおっしゃることは絶対です。……きっと、わたくしに公国くにを譲ると公的にお決めになったのだわ」


強大な力を生み出す『邪眼』には、副作用のようなものがある。

発現するしない、また発現する方向性は人それぞれにあるのだが──シエラザートの場合は、破壊的な衝動とそれを実現できる強大な魔力だった。


イーディスは今年で十五歳、公王家十六姉妹の中ではシエラザートと最も歳が近い。

そのため妹姫から色々と頼まれたり頼られたりできる、上のお姉様たちが言うにはとても羨ましい立場だったのだが……。


「お姉様、覚えていらっしゃる? わたくしがランスロットを壊してしまった時のこと」

「勿論よ。初めて二人でお城のお針子さんに頼みに行って、きれいに治してもらったわね」


シエルが心のうちの破壊衝動と魔力を制御できるようになるまでは、お抱えの魔法医師や召喚師と一緒になって、イーディスも努力を重ねた。

その甲斐かいあって、破壊衝動を最小限度の被害で食い止める手段──『シエラザートのどっきり大作戦』が生み出されたのだった。


要は、皆が笑って済ませられる程度の悪戯ということになるのだが、それまでが大変だった。


特にシエルが五歳の時、泣きながら「ランスロットをこわしてしまったの!!」と跳び付いて来た小さな事件は、未だに姉姫の心に強く残っている。

大きな大きなクマのぬいぐるみであるランスロットの首の傷跡を隠すために、姉姫は故国から公国の王宮に来る際に持たされた、赤いスカーフを貸してもあげた。


「その時にいただいたスカーフ、うれしかったわ。もう巻いておけなくなってしまったけど、わたくしの秘密基地に飾ってあるのよ」

「え? じゃあ、ランスロットは?」

「どこかに貰われて行ったの。夢に出てきて、“武者修行に出まする、姫”なんて言われたら──引き留めるわたくしの方が悪い子になってしまうもの」


ランスロットはシエルの力に間近で触れるうちに、きっと彼自身の意志と魂を自覚してしまったのだ。

シエルもそれを見送ったのだと言う。何と健気な妹姫だろう!


「やさしいシエル。かわいいシエル。悪戯っ子のシエル。国のあるじになんてならなくてよければ、このイーディスがどこか遠くに連れ去ってしまったものを」


そうすることはできない。

姉姫にも妹姫にも、分かってしまっていることだ。


「大好きなお姉様。わたくしは、あなたと共にどこか遠くへ行きたい。でも、できない。だからと言うわけではないのですけれど、一つ頼まれてもらえないかと思うのです」


大きく丸っこくて可愛らしい両目を見開いて、シエルが姉姫を見つめる。

『邪眼』の力に頼ることなく、本当の想いを伝えようとしている。

応えなければ騎士の名折れと言うものだ。ランスロットに負けてはいられない。

「万難排してお受けします、シエラザート姫。わたしは未だ騎士見習いに過ぎぬ不肖の姉ですが……それでも、あなたの最初の家臣と思われよ」


「では、イーディスお姉様。ちょっと追放されてみてくださらない?」

「……はい?」

2020/11/13更新。

2020/11/16更新。

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