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南へ!(3)

船橋の近くでは、多数の冒険者が手分けして魔物の迎撃に当たっていた。

旅客たちの護衛として、何組かの小隊が乗船していたようだ。


「参上が遅れて申し訳ありません!」

イーディスは話が通じそうな一人に声をかける。

糸のように細い目の、いかにも魔導師といった風貌ふうぼうの青年だ。軽そうなローブが海風に揺れている。

「救援、感謝いたします。私たちは船会社に雇われた同じギルドのメンバーなのですが、もとから人員に偏りがあって前衛アタッカーが足りません。行けますか」

「了解っ!」


威勢よく答えつつ、イーディスは戦況を冷静に見る。

海の生物が巨大化したような、凶悪な形の魚類の群れに取り囲まれている。魔物の種類や名称はあとで勉強するからどうでもいいが。


まず、故国の重装騎士から教わった、魔物の注意を引きつける魔法を発動させた。

周囲の冒険者が気づき、同じ種類の魔法を重ねがけする。

意図を瞬時に理解してくれる、優れた者達だと思う。


どうやら彼らは『前衛・後衛』の考え方を重視する、戦略を重んじるギルドであるらしい。

集団で同じ仕事を請け負ったのも頷ける。


イーディスの思惑通り、凶悪そうな魚類どもの眼という眼が彼女に集まった。

魚の形をしているだけでやはり魔物。

生態を無視して肺呼吸し、空高く跳び上がって一斉に攻撃を仕掛けて来る。

機先を制して、イーディスが動いた。


手にした大弓を力いっぱいに引き絞り、放つ。

空中で分裂・飛散した魔法の矢が銃弾のような速度ではしり、魔物を貫いた。


続いて、矢の雨をかいくぐった魔物を、瞬時に持ち替えた槍で次々に撃つ。

手足の延長のように軽く振り回せる槍は、中距離武器ポールウェポンの使い手でありながら、速度と俊敏さを重んじだ六番目の義姉らしい、特注の武器であった。


騎士殿! と誰かから声が上がった。

見えている──甲冑をまとったような見た目の魚類の猛然たる突進を槍で受け、弾き飛ばす。

衝突の際に奴が吐き出した毒液を多少浴びたが、痛くも痒くもない。


海面を見下ろせば、まだまだ凶悪そうな海の生物が浮き上がってくるのが見えた。

数だけは向こうが上。

だが、これは間違いなく優位戦だ。

「舐めるな、うおども……鍛え方が違うんだよっ!」


戦術を重んじる冒険者ギルドの諸氏には申し訳ないが、最優先するべきは敵の撃滅。イーディスは再び大弓を手にすると、海へ向けて高く跳躍した。

魔力を高めれば、それを矢として撃ち放てる仕組みは、先ほどの一度で理解している。

空中で弓を力いっぱいに引き絞り、魔法の矢を放つ。

銀の閃光と化した魔力が広範囲に飛散し、浮上するそばから魔物を討った。


グォオルロロロオオ!!


ひときわ大きい唸り声を立てて、巨大な魔物が浮き上がって来た。

これまでのサメだかシャチだかよくわからん魔物たちが部下だとすれば、これが親玉だろう。

捻くれまくったクジラみたいな見かけで、湯気なんか吹いちゃったりしている。


イーディスは滑稽な姿をあざ笑うかのように、ばかでかい魔物のドタマに着地した。携行した槍を素早く持ち出し、無遠慮に何度も何度も何度も突き貫く。


痛みに耐えかねてぎゃあぎゃあ騒ぐ魔物の様子を楽しんでいるかのようであった。

もはやそれは、戦いではなかった。

もと姫騎士は槍での刺突に飽きると、今度は魔法の小箱から斧を持ち出した。

アイゼンシルト公国の鍛冶屋が特製、吸血鬼王の斧を模した特大の斧だ。


やめろぉぉ、と聞こえた。


──おれは取引に来ただけだぁ。


どうやら、魔物が話しかけてきているらしい。

命乞いではなさそうだ。興味を持ったイーディスは斧を片付け、怪物の頭の上であぐらを掻いた。

「取引?」

──そうだぁ。『邪眼』の小娘が要らんという人間がいたから、引き取りに来たんだぁ。船を襲撃して、そのどさくさでぇ……あっ!!


何かが海に投げ込まれた。

何と言うことを! という先ほどの青年の怒声が、イーディスの耳に届く。

「……その子をどうする気?」

──そりゃあおめぇ、魔力を喰らうのよぉ。近ごろァおれらも肩身が狭めぇぇ。人間もするだろ、養殖ってやつよぉ。命まで取ろうってんじゃねぇ、娘っこにも悪りぃハナシじゃねぇぇ。カネだって払ってんだぁぁ!


魔導師の青年が『浮遊』の魔法をかけたのだろう、浮き輪をつけられた小さな人影が、ゆっくりと空中を滑って来る。

2020/12/10更新。

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