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さらにドタバタな日々(12)

「それでね、ちょっとお願いがあるんだけどぉ」

映像の中のレンカが、まるですぐ傍にいるかのように見つめて来る。

「イーディスちゃんから冒険者さんを何人か、紹介してくれないかなー、なんて」

実にレンカらしい、大胆なお願いである。

魔法や異世界の技術も用いての大規模な試験に取り組みたいらしい。

義姉夫妻はローゼンハイムの誰よりも農業に詳しいが、そうなるとどうしても人手が足りないのだと半泣きで訴える。


イーディスは笑い出すのを堪えて映像の続きを見る。ああレンカ義姉様、そんな事を言い出してしまっては……。


「ええーっ? 私もお願いしたいことがあったのにー」

「それなら我らにも依頼したきことの五十や百はあるんだがなぁ……」

シャルロットは半笑いで文句を言い始めるし、リンダとリンカは厚い紙束を取り出してくれたりする。

予想通りだ。


「もう……何ですか皆して。だめですよ、義妹いもうとにばかり頼っては」

どうやらイーディスの味方はハイネだけらしい。ツッコミ役のグリセルダやコルテンフォルレが不在なだけで、どうしてこうもまとまりが消え失せてしまうのだろうか。


「とにかく、こちらのことは気にしなくても大丈夫だからね。あなたの代わりは出来ないけど、シエルを支えて国を動かす覚悟だけは、私達も持ってるから」

夏が来たらみんなで遊びに行くからね、と微笑んだハイネに姉妹達が一斉に頷いて、映像が終わった。


劇場を包み込んでいた淡い霧が徐々に晴れてゆく。

映画館の制服に身を包んだランスロットが再び姿を見せた。

「お楽しみいただけましたでしょうか?」と気取って一礼する。


「もちろん。義姉様達の顔を久しぶりに見たわ。ありがとうランスロット」

「そのお言葉こそ何よりの喜びです。今宵は温泉街にお泊りになっては如何かと存じますが」

イーディスは義妹と顔を見合わせて頷き合い、豪華な造りの椅子を若干惜しみつつ立ち上がった。


──。

食事なしで入浴と宿泊だけ出来るコースなんかあるんだろうか、と他所事よそごとを思いながら台地の麓にある原生林を通り抜けた。


開拓ゲームが無事に終了したためか、魔物などは出現せず、原生林そのものも以前より短くなっていた。

飛び出す絵本みたいな魔法の仕掛けで原生林の中央に出現した温泉旅館と商店街は、イーディス達との約束通り、その場で営業を続けている。


「いらっしゃいませ」

旅館の玄関で出迎えたニキータに懸案事項を尋ねてみると、どんな利用の仕方でも構わないというようなことを笑顔で確約してくれた。

大いに安堵したイーディスとルーチェが指定された部屋へ向かうと、


『やあ、ご両人。お元気そうで何よりじゃ』

どれだけの魔力を消費して鏡の中から抜け出したのか、"翡翠の魔王"ジェダが手酌酒てじゃくざけを楽しみながら待っていた。


「ジェダ様は息災であられましたか」

『うむ。可愛い玄孫らの一人が婚約して、嬉しいやら寂しいやらの感慨はあるが──まぁ、座ってゆっくり話そうではないか』

美酒を喰らって上機嫌な美しい魔王の隣に、二人とも遠慮なく座った。

畳の香りと座り心地がたまらない。


『晩メシは?』

「済ませました」

『そうか……やはり先に予定を聞いておくべきじゃったな』


ジェダは少し残念そうにしつつも、開拓ゲームの感想を聞きたいと話を切り出した。

クヴェトゥーシュやソフィアとの強い繋がりがあるらしく、今回の企画の後援もしていたと言う。


ゲームそのものに長く触れていたり、イーディスのように強靭な意志と体力を持っていれば別だが──と丁寧に前置きしたルーチェが、「全体的に難易度が少し高いかも知れません」と思うところを述べる。

「少なくとも、挑戦者の実力を見極めた上で舞台を用意する必要があると考えます」


『ふむ。となると、魔王が勇者に試練や苦境を与える感覚で舞台を作るのは控えた方がよさそうじゃな。今後は小さな舞台を用意することとしよう。他には何かあるじゃろうか』

「ゲームの流れを事前に知りたいと思うプレイヤーが多いかも知れないです。あたし達は予定が変わったり、イベントが次々に舞い込んだりする仕様を楽しめますけど……」


『そうではない挑戦者も多かろう、というわけじゃな。それにしてもルーチェ殿は体験型のゲームに造詣ぞうけいが深いようじゃが?』

ジェダが杯を傾ける手を止めて、小さな助言者に尋ねる。

2021/3/24更新。

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