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風の城の王

巨大船の中の街で一夜の宿をとったイーディスは、例によって泥のように眠った。

どうやらクセになってしまったようだが、その分、目覚めは快適。

ソフィアに許可を得て甲板に上がり、ヴィントブルクの壮麗そうれいな眺めと朝の空気を楽しんでいる。

重い鎧を着なくて済むのだと思うと、はち切れてしまいそうなほどの解放感がイーディスの心を躍らせた。

これから冒険者になろうが傭兵になろうが、はたまた文筆家になろうが構わないのだ。


さあ、何をしようかしら?


と、イーディスは甲板を歩き回って考える。

何をしたらいいのかわからなくて泣きそうになる必要はもう、ないのだ。

カツカツと木の床を叩く自分の靴音すら心地よく聞こえた。


『ご機嫌じゃのぅ、イーディスよ』

階段を昇って来たソフィアが右手を挙げる。

「もちろんです、ソフィア様!」


朝メシでも食わんか、と言いつつ甲板の一点を半龍人ドラグーンが踏むと、がちゃがちゃと派手な音を立てて、二人用のテーブルと椅子が姿を現した。

「わお!」

『魔法と機械技術からくりの粋を集めた。造るのにはそりゃあ苦労したがのぅ。今は造ってよかったと思っておるよ』


椅子に座ってすぐに魔法で食事の用意を整えると、早速サンドイッチにぱくつき始める。

イーディスはこの機会を間違いなくとらえて、ソフィアから様々の話を聞き出した。


かつて『風使い』の異名をとった魔導師ソフィアは、ヴィントブルク建国王の落胤らくいんであった。

身体が極端に弱く何年も生きられまいとの診断が下ったことから、王位継承権も与えられなかった。


ヒマにあかして魔法を学び、龍族の言語を習得した彼女の前に、ある時、深く傷ついた龍が舞い降りた。

龍はわが身を傷つけるほど力が有り余ってしまい、自分ではどうしようもないと嘆いていたらしい。


『一方、わしは“わが身に力あれよや”と願っておった。言うてみるもんじゃよな』


ソフィアは龍の血を飲んで半龍人ドラグーンとなり、風を操り嵐を呼ぶ力を手に入れた。

荒れ狂って国民を困らせていたヴィントブルクの冬の嵐をその力で治めた後は、冒険者の活動をしながら、助言者として祖国を見守って来たのだと言う。


『誰が呼んだか“風使い”、ってなもんよ──わしの冒険談に、ある事ないこと加筆しまくった小説やら芝居が出回っちまって、こそばゆいったらないわい……』

「でも、悪い気はしていない」

『ま、そうじゃな。さて、今日は何をして遊ぶ?』


「お城にお邪魔しようかと思います。お待たせするのも申し訳ないですし」

『うむ、よかろう』

ソフィアが指を鳴らすと、巨大な船がすぐに空を滑るように走り始める。

数分で小高い丘の上まで到着した。


『現国王にはうまく話をつけてあるが、一人で大丈夫か』

「心配です」

『では、わしも行こうかのぅ』


イーディスがソフィアとともに船を降りると、船は瞬く間に上昇して空に消えた。


眼前には、あまり大きくはないが豪勢な城が広がっている。

しゃれた造りの門をくぐり、玄関ロビーから玉座の間へと案内された。


「おおっ、貴公が本年の優勝者か! 待ちわびたぞ!」

小太りの国王が、玉座から立ち上がって迎えてくれた。


「はい、カール国王陛下。参上が遅れました事、どうかお許しくださいませ」

「構わん構わん、国民の娯楽になればと思うて始めた、余の道楽である。どこかで会ったことがあるだろうか?」


「よくお見掛けしておりました」

イーディスは少し迷ったが、元々はローゼンハイム公国の王宮に居たことを話した。隠していても仕方ないし、良いことがなかったわけでは決してない。


「おお、そうであったか。ではイーディス殿もグリセルダ殿と同じ道を歩まれるのだな」

「陛下は義姉上あねうえをお気に入りでしたね」

「というより、余が武術の教えをうておったのだよ。そりゃあ、できれば嫁いでほしかったが……彼女が国を出る前に彼女を打ち負かすと言う約束を、余が果たせなかったのでな」


年齢は下だったが良い教師だった、と語る国王の眼に、後悔は感じられなかった。

2020/12/1更新。

2020/12/2更新。

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