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さらにドタバタな日々(6)

大海賊の雷鳴のような笑い声を聞きつけて、イーディスが速足で浜辺まで戻って来た。

ラルヴァーンに関する話をルーチェ達から聞く時間も取れなかった彼女は大いに驚いたが、因縁の深い大海賊が転生を果たして戻って来たことを喜んだ。


「本当に人間だったのね」

「まぁな。鏡見てたまげたぜ」

住居の卓に並べた多数の料理を囲み、四人は歓談を楽しむ。

中でも、かつてラルヴァーンが目指したという雪と氷に覆われた宝の島の話が、三人の興味を最も強く惹いた。


「……まあ、しっかり自慢話しといて言うこっちゃねぇかも知れねぇけど……嬢ちゃん達が心配するほど、冒険にえるこたぁねぇと思うぜ」

「え?」

「よく探せよなー。この辺の島ぁ全部、洞窟やら遺跡だらけだわ」

「分かるなら、どうして探検しようとか思わないの?」

「おれ達の領分は世界中の海、今さらおかに上がるまでもねぇよ。欲張りすぎてまたクジラになっても敵わんしな。はははっ!」


また豪快に笑った海賊は昼食をたらふく食べ終えると、気まぐれでも起こしたように、

「嬢ちゃん達、おれの海賊団に来ねぇか。待遇とメシは保証してやるぜ?」

と誘って来る。

これからは剣を振るう機会が減るだろうと考えているらしく、アリスは特に迷っていたようだったが、三人とも丁重に断った。


「まあ、そうだろうな」

「うん。まだ遊び足りないからさ。先のことは思いっきり遊んでから考えるよ」


「それがいいや、好きなだけ遊びなよ。……あんまりしたことねぇから分からねぇんだが、恩返しってのはこんなもんでいいのかねぇ」

照れ臭そうに頭を掻く大海賊に、イーディスは思いつきを提案してみることにした。


「じゃあ、定期便でいろんな魚を届けてよ」

「いくら出せる?」

「月に一万ゴルト」

「わかった。毎月一回でいいよな」

「うん。話が早くて助かるよ」

「海の男はいちいち迷わねぇの。これからはご贔屓ひいきに願いますぜ?」

サー=ラルヴァーンは似合いもしないウィンクなどして見せると、さっさと転移魔法を使ってどこかへ去って行った。


かと思ったのだが、若干慌てた様子で戻って来た。

「なぁなぁ、ヤサブローって奴ぁ知り合いかよ。あと、ラウロとか言う奴も。伝言預かってんだけどさぁ」

「アンタ意外と世話焼きなのね……二人とも知り合いよ。伝言って?」

「そのうち顔見せに来るとさ。でかい土産があるとかないとか言ってたぜ──んじゃ、今度こそけぇるか。またな」


大海賊は明るく破顔して、再び姿を消した。

「ホント陽気なやつ……」

「うん。ヤサブローさん達が来るのも楽しみだね」

二人のことをよく知らないアリスのために、イーディスとルーチェは昼の休憩時間を喜んで消費した。


──。

午後からは、新しい住居を見ると言うアリスに付き合って、大海賊が突貫工事でこしらえた海中の建造物を内見した。

魔法のレンガを円柱状に積み上げて丸い屋根を作り、分厚いカーテンで円の中心を仕切っただけの簡単な構造だ。


「本当によかったんですの? 台地を開発するって言ったって、簡単じゃないでしょうに」

「ランスロット達にかかれば二日くらいよ。もう開拓のプロだわね。会社でも立ち上げてみようかな」

などと話しつつ、海上のドームから順に、海底の部屋まで見て回る。

六つに仕切られた住居には、既に"スキル・コレクター"達が入居を済ませていて、それぞれの部屋で遅めの昼食を楽しんでいた。


海上の層を使っているスィルヴァは自室をさっそく空け、海側のユズリハの部屋に入っていた。

小さな声で、「寝かせてあげてくださいね」と言い、自らの唇に人差し指を当てる。

「お昼ご飯を頂いてから昼寝をしているんですが、うなされていましてね。世話を焼きに来たんです」


大きなベッドで寝息を立てる幼子の頭をスィルヴァが優しく撫でると、彼女のスキルで姿を得たものか、人の顔を持つ不気味な魚が飛び出して来た。

ものすごい形相でわけの分からない言葉を発して怒鳴るものだから、眠るユズリハが耐えかねたように寝返りを打った。

「……」

古の王女がその尻尾を掴んで持ち上げても、魚はぎゃんぎゃんわめくのをやめない。


イーディスが黙ったまま魔物を受け取り、部屋の窓を小さく開けて、指で弾いた。

はるか遠くまで吹っ飛んだ不気味な魔物に、見たこともない奇抜な姿の魔族がもりで狙いを定める様子までを見届けて、姫騎士は窓をぴしゃりと閉めた。

2021/3/18更新。

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