さらにドタバタな日々(4)
希望に溢れる朝がやって来た。
ギムレット山が崩落した後の台地には、午前中の時間をめいっぱい使った公平な話し合いの結果、飲食店を併設した映画館と広い敷地の動物園を建設することになった。
遊園地を建て損ねたリミュ=アはまったく気にした様子もなく、「まあ近くの島に作るよ~」と笑っていた。クヴェットと話し合って計画を進めているのだそうだ。
忙しくて未だにゆっくり話す機会を持てていないと言う体たらくだが、開拓者たちの間に争いが起きないよう働きかけてくれたり、島の探検を有志と共に続けてくれていたりと、実に健気な人物であることが十二分にうかがえる。
今も「ボーナスみたいなもんなんだから休んどくといいにゃ!」と二人を押し切って、台地の開発の先頭に立ってくれている。
おかげでこうして浜辺に座り込み、久しぶりに姉妹だけで話ができている、というわけ。
「本当、あたし達ってラッキーだよね」
「ずーっと幸せで楽しいもんね」
二人とも、これまで楽しいことばかりで生きてきたわけではないから──だからこそ、この島が誰にとっても楽しい場所になるよう工夫して開拓を進めたつもりだった。
いつの間にか仲間が集い、人が増え、その誰もが自分達の目標に共感し共鳴して、ごく平和的に強力に事業を推し進めてくれた。
彼ら彼女らの協力がなければ──そうでなくても、もし人間関係のトラブルが頻発していたら、もっともっと苦労を強いられていたはずだ。
「ねえ」
「ん?」
「ホントに、ここの領主とか王様にならなくていいの?」
「うん。全然、なりたいと思わない。実父養父を見てたからかな。ルーチェは?」
「全然だよ。シエルみたいに頑張ってる人を見ると見習いたくなるけど……あたしは、あたし自身を変えられないだろうから」
ルーチェはいつの間にか、シエルに対して敬称を用いなくなっている。
傍にいる本人に呼びかけるみたいに発音するから、相応に好意を持ってくれているのだろう。
可愛い義妹たちの仲がいいらしいと分かるのは、義姉としても実に良い気分である。
穏やかな微笑みを浮かべて海を眺めていたルーチェが、ふと何かに気づいた。
「お姉ちゃん、"スキル・コレクター"の皆が帰って来るよ」
「誰が来るかまで分かるようになったのね」
「うん。いろんな魔法を覚えてるうちに。──来たっ!」
浜辺の空間が静かに、だが大きく歪む。
そして、彼らは再び来た。
「お久しぶりです──と言っても、二日しか経っていませんけど」
アリス=クルーガーはちょっと気取って浅く一礼したが、
『嘘、よくないぞ、アリス』
とシャトゥ・ハーンに指摘されて絶句してしまう。
「素直に言えばいいのに」とか「まあ分からんでもないけど」とか、仲間達が口々に言うのに押されてか、「あ……あのっ、イーディスさんっ!」
と声を上げた。
「はい?」
「……そのっ、お店の準備、全部できててっ。その、わたくしも──自分で言うのは変ですけど、けっこう頑張ったので……ほ、褒めてくださいっ!」
アリスの表情ときたら、何と可愛らしくて懸命なことだろう。
強気な剣士に許しを得てから、イーディスは彼女の軽い身体を抱え上げた。
「私のスキルを使えばお店はすぐに作れたのに、無理はさせないと仰って……」
アリスは仲間たちと合流してからわずか一日で、おしゃれで実用的な外観や内装を作り上げたのだとスィルヴァも言う。
確かに大した頑張りだ。
「そ、それは皆がちゃんと設計図とかを作ってくれてたからで……ぅぅ」
アリスはもう何も言えなくなって、真っ赤になった顔を仲間達から背けてしまった。
褒められることに慣れていないようだ。
イーディスはアリスの栗色の髪を優しく撫でた。
「他の人が褒めてくれる時は素直に受け取った方がいいと思うよ」
「だって……わたくし、戦う以外では皆の役に立てないですし」
「それでもいいの。出来ることで力を尽くしていれば、必ず誰かが見ててくれるから。ね?」
「……うん。ありがとう」
お店の建物を魔法で持って来てあるから見せたい、とまだ赤面しながら言うアリスを浜辺に降ろし、彼女が何事かを呟くのを楽しみに待つ。
2021/3/17更新。




