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胸キュン大変身!!

身体が軽い、と、目覚めてすぐに思った。


視界が戻ると、マリウスが大きな姿見を持って来た。

冷たく細い義手にエスコートされて施術台から降り、姿見の前に立つ。


「こ、これが……わたし!? え、え、えぇ~!?」

「とんでもない大声を出せるお嬢さんだとは聞いたけど……本当にすごいワね」

「あ、す、すみません。つい」

「大丈夫よン。とりあえず、早く服を着た方がいいと思うワ」


頭が驚きを優先してしまっていたようだ。

よくよく見るまでもなく、姿見に映る別人のような自分は、またも下着一枚だ。

ちょっと恥ずかしいけれど、ついでだから一挙に新しい肉体を観察してやろうという好奇心が勝った。


まず筋肉。


大きく強かった肩の筋肉や、シエルの腕よりも太かった(比べてみたことがあった)太腿ふとももも、落ちた──というより、身体の内側に引っ込んだような感覚がある。

魔法の施術で体を作り変えたと言っても、何かを削ぎ落してしまったわけではないようだ。そのための、あの腕輪であり足輪だったのだろう。


それから、明らかに上背うわぜいが縮んでいる。


イーディスは女の子としては大柄で、筋力を手に入れてからは重い装甲でも動き回れたし、大型剣グレート・ソードも余裕で振り回していた。

それがどうだ──彼女が食べてしまいたいくらいに可愛く思っていたシエルや、ひときわ小柄なレンカ姉様より多少高い程度の身長と、全体的にほっそりした体つきに変化しているではないか。


筋肉と同化して大きな数字が出ていたスリーサイズは、巻き尺を借りて計ったところ少し小さくなっており、実際の見え方も小柄と言える体格とよく釣り合って見える。


肌の色が薄くなった。これは思ってもみなかったことだ。

健康的な小麦色の素肌が気に入っていたし、肌色の話題は色々と繊細なところがあるから、義姉たちとの違いについては特に深く考えて来なかった。


「どう、新しい身体は?」

自分の身体を見ては驚き、腰のあたりまで美しく伸びた黒髪をいてみたり、その場で回ったり肩を動かしてみたりしていたイーディスの様子を(たぶん笑顔で)見守っていたマリウスが、明るく声をかけた。


「いい感じです。肌の色が変わったのが不思議なのと……慣れるのに時間がかかりそう? かな」

「あー、やっぱ気になるかァ。新しい身体をつくる時は、お客さんの心に問いかけるからネェ……思わぬ変化をすることがあるのヨ」


「なるほど……」

義姉たちのほとんどは白い肌の人が住む国から養子に来た。

近くで触れ合ううちに、“違い”を意識していたのかも知れなかった。

「きめ細かくてきれいな肌です。気に入りました」


マリウスは「よかったワ」と言って、腕輪と足輪を差し出してくる。

身につけると、身体に“力”がみなぎって来るのが分かった。


『胸キュン大変身』とはつまり、一般的に言う“かわいい”外見を得て、それまで蓄え磨いた“力”を装身具アクセサリーでコントロールできるようにする施術なのだろう。

十一番目の姉がよく読んでいた漫画の、変身ヒーローみたいだ。


「変身ヒーローかァ。その解釈で間違いないと思うワ。腕輪にも足輪にも、張り裂けそうなくらい“力”が集まってる。どんだけ重い装備つけてたの、貴女?」

「戦闘の時は全身装甲フルプレートでしたが……実は脱ぎたくてしょうがなかったとかでしょうか」


ソフィアがどこからともなく取り出した、ゆったりとした萌黄色もえぎいろのワンピースを着ながら、尋ねるともなく言う。

「自覚がなかったわけね。心も身体も叫んでたんだと思うワ──こんなに重いのは嫌だって」


「……そう、か……わたしには、重すぎたんだわ」

「鳥の羽が生えたようでしょ? 貴女がこれから何をするのか、アタシも楽しみだワ」


マリウスの口調が戻っているのが気になって、失礼かと思いながらも尋ねてみた。


「アタシの頭ン中にはネ、二人ほど人格ヒトが住んでんのヨ。心の病気だか何だかで苦しかったんだけど、おばさんが治してくれて。それで今、こんな感じなの。説明しづらいけど……世の中いろんな人がいるんだなーくらいに思ってくれればいいから」


「分かりました。ありがとう、マリウスさん」

「いいのヨー、そんな気をつかわなくても。お代はおばさんからもらってるし」


また来てね、と(多分)笑った凄腕すごうでエステティシャンにもう一度礼を言って、イーディスは館を立ち去った。

2020/11/30更新。

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