決戦(1)
「じゃあ何が問題なのよ。何でそんなに怒ってるの?」
「うるせえうるせえっ、お前は学校の先生かよっ!? いつでもお高くとまりやがって、何があっても平気です、みてぇなツラしやがってよ!」
半龍人は、姫騎士が聞く姿勢を作ったのをいいことに、さらに勢いよく言葉を放つ。
「何でも上手く出来て、うまく行くのが当然ってか!? 楽しいことばっかりで毎日幸せですってか!? いいよないいよな楽だよな、何もしなくてもとびきり可愛いやつらが近づいてきて、すぐ仲良くなってよぉ!?」
「誰にも否定されずに皆に好かれて!? 馬鹿にもされねぇで笑いものにもされねぇで! カネも腐るほど手に入ってよぉ! ハッ、どんだけイイご身分なんだよ!? 何様なんだってんだよ!?」
「こんだけ言って言い返さねぇってのはアレか、俺の悪口なんざ気にしませんっていうアレかよ!? ……もういいや、こんな城なんかくれてやんよ! 飽きたわ! 次の世界行くわ! そこで今度こそちやほやしてもらうわ!」
半龍人は腹立ち紛れに『ステレオ』をひっつかんでイーディスに投げつけた。
録音されて再生されていた龍の鳴き声がやむ。
「ご希望の悪口雑言は以上でよろしかったでしょうか」
「あ? 聞こえねぇなぁ! なんだって!?」
「愚痴を聞いて差し上げるコースのご利用ありがとうございました。気が済みましたか、上官殿?」
きっちり受け止めたステレオを静かに床に置いて、イーディスが言う。
「どれだけ人を罵ろうが気が済むわけないですよねぇ可哀想に。異世界に希望を抱き、異世界渡航局に高っけえカネ払って来たんでしょうにね。半龍人の体まで手に入れたんでしょうにね。こっちの世界のおいしいゼリーの食べ方も知らずにねぇ」
途端に不機嫌に戻った上官殿に、後ろに注意するよう促す。
遅かった。
ランスロットの手にした木槌が、太っちょの半龍人の頭を打つ。
ごいん、と鉄を叩いたような音がした。
「何すんだよ!? 俺は言いたいこと言っただけだろ!?」
「生憎と、貴公がさんざん罵った方は此方にとっては大切な友人にござる。貴公は友達を馬鹿にされて黙っていられるのか?」
「とっ、友達なんか居ねぇや! 俺がいなくったって誰も困らねぇんだ! だから違う世界に来て、楽な仕事をしてたんだろうがよ!」
「それが他人を罵って良い理由になるとでも……」
「もういいよランスロット。怒ってくれてありがとね。話し合っても平行線だと思う」
半龍人は、その通りだよ、と強がってふんぞり返る。
肩をすくめたランスロットはイーディスの傍に戻って、槍に手をかける。
「──では、上官殿。僭越ながら、代金をご請求致します」
「そんなカネあるかっ! やっぱムカつく城は渡さん、叩きのめされたくなかったらさっさと帰りやがれ!」
「踏み倒そうったってそうは行きませんよ上官殿」
イーディスも魔剣に手を添える。
「またカッコつけやがって。お前は自分より弱い奴らと戦って、勝ち誇りてぇだけじゃねぇかよ。大暴れしたいだけだろうよ。見かけだけ飾って、野獣みたいな根性しやがってよ! 隠せてると思ってんのが痛々しいわ!」
「でしたら上官殿の実力で、わたしの本性を見極められればよろしいじゃありませんか。その強そうな半龍人の姿は飾りですか?」
「うぐぐっ……ぐぅぅ……それがムカつくんだよっ、ぐぅぅ……ここここのっ、減らず口がああああ!!」
半龍人は熱し過ぎた鍋みたいに顔を赤くして地団太を踏み、自らの腹を軽く叩いた。
するとどうだ、横にだけでかい彼の身体が、みるみるうちに大きくなって行くではないか。
大きな頭はすぐに天井を突き破り、大きく伸ばした腕が壁の材質を粉々に砕く。
龍と化した名も知らぬ太っちょが大きく息を吸い込み、紫色の吐息を吐き散らかした。
瞬時にランスロットと顔を見合わせたイーディスは左右に散開して跳び、攻撃をかわす。
狙われていると自覚して、すぐに次の行動に移る。
両脚に力を込めて高く跳躍すると、山みたいな龍の背中に着地した。
「うがっ!? くそぉ、卑怯だぞっ!?」
「おやおや、どうしたんですか上官殿、随分あわてていらっしゃいますね」
イーディスは愛用している槍を持ち出して構えた。
2021/3/11更新。




