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楽園に水を(3)

翌日から、楽園島に淡水を循環させるための事業が始まった。

島の周囲の海底を探索したところ、大量の淡水が溜まっているらしい地層を発見する事が出来た。

大手柄を上げた小人族の冒険者クラウスは、開拓者たちから激賞げきしょうを受けて上機嫌だった。

ひと騒ぎが収まった頃、彼はイーディスとルーチェを浜辺に呼び、こう切り出した。


「お二人は島の古代文明などについて、お調べをなさったことがあるかな」

「クラウスさん、それはどういうことでしょうか?」

これは吾輩わがはいの推測に過ぎないのだが……と前置きしつつ、小人族がひげを撫でる。

「かの海底の湧水ゆうすいは何者かの手によって、島の地下へ流入するよう仕組まれていたようなのである。そして、明らかな意図をもって、途中で寸断されていた。水路のような場所を滞留する水の音を、確かに吾輩わがはいは聞いたのだ」


つまり、島の地底に、水を必要とする何者かが暮らしていたということだ。

海底の地層から湧く淡水を必要としなくなったのは何故か。

先ごろリミュ=アが発見した浜辺の洞窟の奥の階段は一体どこに通じているのか。

考えるだけでもワクワクして来る。


最近はイーディス以上の冒険心を見せることも多くなったルーチェが、蒼い目をキラキラと輝かせる。

二人は開拓者たちに声をかけ、四人の小隊パーティを組んで島の地底を目指すことにした。


「いやぁ、お久しぶりですなぁ。ご一緒できるようになるとは思いませんでしたわ」

「声かけてくれてありがとね」

ゼーフォルトびとの『賢者セイジ』ステラとその生徒、チェルシー少年である。

二人は共に抱えていた案件が終わって、先般の公休の間に島へ駆けつけてくれていた。


「わたしも嬉しいです、ご活躍は聞いてましたよ」

「お宝見つけて帰ろうね!」

縦一列に並んで浜辺の洞窟を奥へと進んだ四人は、雑談を楽しみながら明るく歩き、怪しげな階段にたどり着いた。


「ウチ、階段苦手ですねん」と意外な弱点を自白したステラを軽く抱え、イーディスはなおも意気揚々と進む。

背後で子ども達が魔法の松明たいまつを掲げてくれていればこその余裕、ではあるのだが。


「イーディスさんは怖いものとか、ないんですのん?」

「暗いのがダメです。実は寝るときも絶対、ランプつけるの」

後ろを歩くルーチェ達への気遣いを忘れることなく、でも内緒話をしながら進む。

何が邪魔をすることもなく無事に階段を降りた。ステラを地面へ降ろす。


先ほどから、道を踏みしめる足音が少し高くなっている。

人工の通路に入ったようだ。

固まって少しずつ進んで行くと、何重にも重なったような誰何すいかの声を受けた。


『何者だ』

何者だ、何者だ──と反響する声の主は、漆黒の全身装甲に身を包んでいる。

『害意はありません、この先に何があるのかを見極めたいのです。この地にはもう争いはありません、私たちはこの滅んだ島を再生させるため、探索を行っている者です』

ステラが実に流暢りゅうちょうな古代語で、鎧の戦士に訴えかける。

機械音をさせて構えた拳銃を下ろした戦士は、しばらくの間考え込んで、言った。


『状況が何らかの好転を示したと判断する。通行、許可。……ゲートキーパー・アルム03、任務を放棄し停止す──』

『──ちょっと待ったぁっ!』

ステラが小さな拳で戦士の兜を小突く。


まさに消えようとしていたひさしの奥の光が再びともる。

「任務が終わったから停止やて? そりゃ命令がそうなっとるんやろうけど、アンタは納得しとるんかいな」

『理解不能』


「そうやろうね、うん。分かるで? 役目を果した機械は壊れて終わりっちゅうのが物語の相場や。アルム03の物語はきっと、これで終わんねん」

変わり者の賢者がローブの袖をまくる。

何をするつもりだろうか。


「けど、そんなドラマはウチが許さん──悪いけど飽きてもうてんねん。『賢者』の知識と腕前、見したるわ」

ステラは人間に手術を施すかのように全身装甲の胸の部分に手を突っ込んだ。

動力を断って露呈させた機械からくりに何らかの処理と加工を施し、あっという間に胸の装甲を再び閉じた。


「よーっし出来でけた完璧や! さあアルム03、再起動リブートせぇ」

『再起動、完了。ご命令は?』

「地上に戻って島の開拓を手伝っといて。説明は……あー、めっちゃ可愛い双子の魔導師がおるさかい、その人らに納得してもろてちょーだい」


了解、と頷いて凄まじい速さで駆けだした機械の戦士を、イーディス達は唖然あぜんとしたまま見送るより他なかった。

2021/3/3更新。

2021/3/4更新。

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