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開拓(8)

森の伐採や木材の確保を『鰐顎族クロコダイル』の一団が引き受けてくれることになった。

彼らは浜辺の洞窟を仮の住まいとし、島の開拓が終わるまで働くという。

その間は肉をたらふく食べたり酒を飲んだりしたいらしく、それを保証すると例の雄叫びをあげて喜んだ。


イーディス達はソフィアの力を借りながら住居の隣に二軒の工房を建てた。

砂がすべて吹き飛ばされて久しい岩盤そのままの浜辺に、未だに新しく砂を投入していなかったことが、逆に功を奏した。

ワインや果実酒などをかもすことのできる設備や鍛冶ができる作業場を作り、『金暁騎士団ゴールデン・ドーン』から手練てだれの鍛冶オタクを雇い入れた(期限付き移籍)。


最初こそ原始的な蜥蜴人族リザードメンの威容に驚いていたが、数人の鍛冶オタク達は水を得た魚のように躍動し、彼らに合わせた道具を作っては身振り手振りで使い方を教えた。

そのようにして三日も経てば、恐ろしかった蛮人たちも、心強い味方となって島を開拓してくれることとなったのだった。


森の開拓を『鰐顎族クロコダイル』達に任せたイーディス達は、本格的に山地に入ることにした。

後にシャトゥ・ハーンの剛力ごうりきによって丸ごと引き抜かれ、南大陸の北部に移動された活火山帯『ギムレット山脈』が、"もと魔王"の魔法で正確に再現されている。


暴れ者の龍の姫君による破壊を免れたこの山地は熱帯性の植物に鬱蒼うっそうと覆われており、火山のエネルギーを求めて集まった魔物や他の地域から渡って来たらしい獣どもの巣窟となっている。


山地の一合目にあたる開けた場所にテントを据え置きにしてキャンプ地とし、山の調査と出来る限りの開拓とを同時進行で進めて行くことにした。


一日三度の嵐を律儀に起こし続ける巨大な龍族が山頂の火口にむこと以外は、何もわかっていない山である。

南北どちらの大陸でも見かけない色の猿に小石を投げつけられて投げ返したり、派手な色の鳥に警戒音で脅されて大声でやり返したりしながら、山道を進んでゆく。

二合目あたりで異様な気配を感じて立ち止まり、原生林に身を隠した。


気まぐれな大魔導師が島全体に張り巡らせた罠のスイッチを踏んだ覚えは誰にもなかったが、デボリエの事だ。

『時空も次元も関係なくランダムに召喚を行う術式』なんて物を仕掛けていても何の不思議もない。


しばらく警戒していると、クロスボウを撃つ音が響き渡った。

大外れだ。

でっぷりと太った鳥が素早く羽ばたいて逃げて行くのが見える。


「また失敗だっ」

ああー腹減った、とぶつぶつ文句を言いながら、小柄な半猫族キャッツアイが不機嫌そうにのしのしと歩いてゆく。

背筋が寒くなるほどの魔力だ。

なぜ魔法を使わないのか不思議に思うほどだけれど、空腹ほど判断力を奪うものも少ない。

イーディスは暫く考えたが、ソフィアに耳打ちしてみた。


「食べ物で雇えないでしょうか、彼女」

『味を占めたか』

「はい」

『素直でよろしい。さっそく試してみようぞ──あー、そこ行くお嬢さん』


「にゃ?」

『後ろじゃ、後ろ』


半猫族キャッツアイの少女が立ち止まり、振り向いた。

青い前髪が覆う額に、大きな宝石飾りをつけている。

いや、何かがおかしい。

左目を潰してしまうほど大きな飾りなど、古今東西通じて存在するはずがないではないか。

ちと見せてみよ、と慌てて近づいたソフィアの求めに、少女は素直に応じた。


「ちっちゃい頃から額にあったんだ。痛くも痒くもないし魔法もバカみたいな威力が出るから、むしろラッキー、みたいな」

『ある病気にかかると出来る腫瘍じゃが悪性ではない、取り除けとは言わん。じゃが額──頭にあるってぇとちょいとマズい。魔法を使うたびに大きくなって、じき両目が潰れる』

「え、マジで?」

『マジじゃ。山地の入り口にわしらのテントがある。すぐに治療できるぞ』

ええー早く行こうよ大変じゃん、と急に慌て始めた少女を伴って、またも急いで山を下りた。


ソフィアが活躍すればすぐにでも解決できそうだったが、その『風使い』は何とイーディス達に治療を任せたいと言い出した。

浜辺の拠点に戻って術後に不可欠な薬を調合するというので、不安ながらも任されることにした。


「お姉ちゃん、落ち着いてね。いつも通りに」

「うん。任せて」

ルーチェがテントを覆うように展開した結界の中で、イーディスは清潔なナイフを握り、わずかな間、息を止める。

2021/2/22更新。

2021/2/23更新。

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