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開拓(6)

「ちょい待てコラ」

じゃりっと、つい先ほど敷き詰めたばかりの美しい砂浜を踏みしめる音がした。

一休みするためにドームに戻ったはずのルーチェだった。

少し無理をしているのかも知れないと思いながら、イーディスは立ち位置を譲った。


「なんだいルーチェ。魔力を干渉させて早く疲れさせたのに、もう復活したのか」

「小細工してすぐネタバレすんの、やめなさいよね。ちょっとは『親』らしいことでもして行けってのよ」

「ふふん! どうやらわがままなお姫様に育ったようだね? まぁ、最強の騎士が傍にいるんじゃ、誰でもそうなるってか」


「いいから。これで全部チャラにしてあげるからさ」

「はいはい、わかってるよ──何がお望みかな? 開拓に使う道具? ぼくの魔力? それとも、ゲームを盛り上げる罠でも仕掛けてあげようかね?」

「とりあえず全部」


渋々ルーチェの要求を受け入れたデボリエが魔力を練り上げ、開放する。

凄まじい魔力で生み出した濃霧が、周囲を包んだ。

「霧が晴れたら散策してみな。楽しい仕掛けをしておいたからね。それと道具だったね。ええと、付与魔法エンチャントってどうやるんだっけね……」


ああ思い出した、とか言いながら手を打ったデボリエの眼前に、細長い木製の杖が転がった。

「ぼくの魔力も込めておいた。さあ、これで文句ないだろ? 次はアリス達の所に行かなきゃいけないんだ、早くしとくれよ」


「うん、気が済んだよ。……ありがとう、デボリエ」

きみからその言葉を聞く日が来るとはね……ふふふっ! じゃあねルーチェ、島が完成した頃に遊びに来るよ」


アリスには二・三回斬られる覚悟をしておかなきゃね、とか何とかぶつぶつ言いつつ、不死身の魔導師は転移魔法を行使して姿を消した。


直後、ソフィアが背中の翼をたたんで急降下して来た。

『やつの態度を見て駄目そうなら稲妻でも撃ってやろうかと思っておったが。要らん世話じゃったようじゃ』

古代から存在する大魔導師が本気の対決なんてことになったら、きっと島が崩壊してゲーム・オーバーを迎えたに違いない。


「そうならなくてよかったです、本当に」

『うむ。さあ、開拓に戻ろうぞ』

「はい!」


浜辺から山へと通じる森を散策するうちに、島を色濃く覆っていた霧が、徐々に晴れて来る。

先頭に立って進むイーディスの足元で、何かが動くような小さな音がした。


三人の周りを囲むように、凶悪そうな形の斧や槍を構えた数十人の蜥蜴人族リザードメンが現れた。

ソフィアが鋭くにらみを利かせながら魔力を練るが、彼らは血走った視線を下げようともしない。

『こりゃア『蜥蜴人リザードメン』より古い種族じゃな。『鰐顎族クロコダイル』じゃ!』

すぐそばの木を引っこ抜いて投げつけつつ、『風使い』が背中の翼を広げる。

二人を一息に抱えたと思うと、一瞬で上空へと飛翔した。


「たっっ……対策はないんですか!?」

赤銅しゃくどう鱗状鎧スケイルメイルで紫色の鱗に覆われた身を包み、厚い兜のひさしから血気に逸った鋭い眼だけをらん々と光らせる蛮人の戦士たちの姿は、様々な戦いを経たはずのイーディスさえもわずかに怯えさせる威容であった。


『ガチで戦うなら閃光や雷鳴で脅かす! ズルく勝つなら睡眠魔法と酒と食い物で懐柔するべきじゃろうな! どうする!?』


後者を選ぶことにした。

相手は言語を持たぬ蛮人、とは言え魔族の一派だ。

魔物のように容赦なく倒すわけにも行かない。


ルーチェとソフィアが例の一団の前に戻り、強烈な睡眠の魔法を行使する。

我慢強く残った何人かをイーディスが棍棒で殴って、いったん無力化する事が出来た。


昏倒した一団を、浜辺の奥の岩場を工事する最中に見つけた小さな洞窟に運び込んだ。

揃いも揃って大きないびきをかきながら眠っている。

早く次の手を打たないと、敵だと誤認されたままである。

『次は食い物じゃな。山の方へは?』


「まだ行ったことないです」

現在はまだ、島の中央に位置する小高い山のすそ野を広く覆う森を探索し、同時に切り開いているに過ぎない。

夕刻までに時間を区切って森を抜け、山に挑んでみることになった。

急いで獲物を仕留めて戻らねばならない。


幸い、次の嵐までには随分と時間がある。

2021/2/21更新。

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