魔術を兵器代わりに使うんじゃない……ああ、生産技術に使うんだね?
産業の高次化とか、第1次~第3次産業別就業人口とか、まあ陳腐なのかもしれない。だが、歴史を振り返って、こんなもんだったと理解するのには役に立つものだなと思う。
例えば、農漁業のことである。
http://research-soken.or.jp/reports/digit_arch/population03.html
こちらに1880年から2000年までの日本の産業別就業人口のグラフがある。
1880年では、産業別人口で第1次人口がだいたい80と数%、第2次がだいたい数%、第3次がだいたい10と数%というところだ。
それが2000年だと第3次産業が60とちょっとくらい。第2次産業が30%くらい。第1次産業は5%ほどかって感じになる。
食料自給率が何ちゃらというが、実は、日本の就業人口のたった5%で、食料自給率30%くらい?あるいは、米だけなら100%はいけるという日本の農業って超優秀と俺は思ってしまうわけだ。何で、こんなに少数で、それくらいの自給率が叩き出せるのかというと、機械力のおかげである。
さて、1880年というのは、1868年の明治維新の12年後でしかない。明治初期……というか、江戸の終わりは、現代人目線で見ればどうしようもないくらいに農漁業社会だったことを示している。
さらに時代を遡行して戦国時代とかなら、就業人口の9割は農漁民で、第2次は数%で、第3次も5%出るか?というくらいになると予想される。
江戸時代初頭の人口の推計値はたったの1200万人。生産年齢人口=就業人口と考えれば、600万人程度が働ける人間だ。現代なら「15歳以上人口を生産年齢人口と呼ぶのはどうなの? 15~20歳の多くは学校に行ってるわけだろ?」というが、この時代なら、まぎれもなく生産活動に従事している人口になる。いや、もっと低年齢から労働に従事させられているだろう。近代的な人権意識などあろうはずがなく、まず生存、それから経済が優先される。
でも、さすがに人口も生産年齢人口も10分の1では、現代では及びもつかないほど、生産力自体がない。人口のほとんどが農漁業に従事しているのだ。
生産年齢人口600万人のうち……
第1次産業=540万人(単純に90%)
第2次産業=18万人(仮に3%とする)
第3次産業=42万人(仮に7%とする)
こういうなかで「武士は公務員も同然だから、第3次産業?」 んなわけあるかボケ。
戦記物が数を盛るからって真に受けてはいけないが、42万人のうちは圧倒的に商人で、少ない割合を公家、芸能民、上級の武士で分け合うのがやっと。ごく少数の割合の職業で、合戦なんかしたらたちまち品切れであるになる。では、下級の武士はどこに隠れているのか?
武士の起源には諸説あるのだが、①開拓農民と開発領主が武装して武士化した、②もともと暴力を生業とする職能集団から発展した、③古代の兵制によって徴収された兵士から発展した……というあたり。どれか一つに決まるものではなかろう。3つの要素が絡み合ってできたのだろうと自分は推察する。
そして、その多くの部分が開拓農民と開発領主の武装化したものなのだろう。国侍だ、地侍だと言われているものが、身を守るために武装。ある者はそのまま半農半兵になり、ある者は職能集団=荘園の警備兵や野盗といった、暴力を生業にする人々に転じていったわけだ……(ちなみに③の方は、地方の警察的兵力が、②に流れ込んでいくわけだ)
つまり戦国期の武士たちが、いくら金で雇われる傭兵化していたと言っても限度がある。食料生産能力が機械力もなく、人力と家畜の力で地を耕す以上、生産力貧弱ぅから抜けきれないのだ。上級の武士は与えられた土地を経営せざるを得ない。下級の武士は、貨幣で購入しきれない分の食料を作らざるを得ない。耕作自体は小作農を奉公人に雇えるかもだが、結局、武士の多くは半農で、荒れた時代には農民と武士の垣根を低めてしまう。
昔の農業は、人力と家畜で土地を耕したり、開拓だってしなければならない。収穫もほとんど人力だ。生産性はとても低い。精米を水車に頼るにしても、ほとんど玄米。白米食は江戸時代に江戸の風習としてやっと定着したという程度なわけだ。
結局、「半農半兵」の人々を軍事力に使うのが当たり前なのが戦国前半の現実。これが割拠された地方地方で相当に産業を興し、十分な食料を生産し、金で買えるように給金を与えるようになる。無能な大名・国人の偉いのが淘汰されていけばそうなる。そうして、貨幣経済が一段も二段も発達し、兵農分離がだんだんと進んでいくといくわけだ。
ここで、魔術の要素が、体系的な科学や技術の体裁を取り、社会に大いに投入されていったら。
「病の精(細菌やウイルス)を呪いの効能をもたせた薬(ワクチンや治療薬)でやっつけよう(予防・治療しよう)」
こういうことなんだよ。きみぃ、せっかくの超常の力を、ダンジョンのモンスター狩りに無駄使いしている場合じゃないぞ。
農地を広げる土木に……荒れ地を再生する緑化に……田畑をつくる耕作技術に……痩せた土地を肥えさせる肥料技術に……すでに自分の作品の中でやっているように医学や冶金に……
むしろそういう使い方の方が、激しい戦争を起こすのじゃないだろうか。より多くの専従の兵隊を生み出せるからである。