昔と違って今は夏があまり好きじゃない
一ヶ月続いた長い梅雨がようやく終わり、本格的に夏がやって来た。本来ならば大人も子供も浮かれてレジャーや旅行、里帰りでごった返すハズだが、半年前中国から広まった新型ウイルスによって世界がバイオハザードでヤバい状態となった為、自粛を余儀なくされた。
自粛によって人の流れが無くなったおかげで、経済は衰退し、再び恐慌が起こる可能性が出てきた。
人を外に出させない為に在宅ワークが日本でも導入されてきたが、私の職場には無縁で、今日も感染に気を付けながら出勤、労働に明け暮れていた。私の仕事は障がい者事業所の職業指導だ。今日も利用者の感染予防をしながら作業を教えている。
ピーポーピーポーピーポー
今日も救急車が忙しなく走っている。夏になると熱中症によって救急搬送される人が増える。今日でもう既に救急車と三回出くわしている。
「五月蝿いし迷惑です」
利用者が不貞腐れた顔で呟く。命を救うために一刻を争っている者に対して掛ける言葉がこれか。多少憤りを感じたが、その子は軽度の知的障がいを患っている為、一般的な考えは通用しないのだ。と気持ちを落ち着かせる。
「しょうがないじゃないか。命がかかってるんだから」
そう言って利用者をたしなめる。しかし、命がかかっているとはいて、こう毎日何件も救急搬送するとなると、救急隊員も嫌になることがあるかもしれない。
感謝しないとな。そう思いながら作業を続けた。
夏になると日没が遅く、七時を過ぎてもまだ明るい。子供の頃は夏の門限が三十分伸びるので嬉しかった。すぐに喉が渇いて汗でびしょびしょになってしまうのは嫌だったけど、海で泳げて、虫取りが出来て、花火大会があって、そんな夏が好きだった。
子供の頃の夏はワクワクして、輝いていた。どうして子供の頃はあんなに夏が好きだったのだろう。
夏休みだ
子供には夏休みというホワイト企業もビックリの長期休暇があったからだ。
夏休みかあ。俺は何をしていたかな。
缶酎ハイを一口飲みながら夏の思い出を振り返ってみた。