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自分図書館  作者: 椿 冬華
第三幕 「我輩」の章
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第二自我 【自我の海に揺蕩う花嫁】




第二自我 【自我の海に揺蕩う花嫁】




「執事さまぁ」


 空きっ腹で満足いく睡眠を取れずに迎えた朝。

 ドレーミアの甘えるような声で目を覚ます。ドレーミアが潤んだ眼差しで我輩を見下ろしながらガウンをはだけさせていた。シャワーでも浴びていたのかメイクもヘアセットも完璧で、ほのかに石鹸の香りを漂わせている。だというのにその顔は欲情しきって紅潮している。

 ふむ。


「悪くない」


 舌なめずりしてドレーミアのガウンに手をかける──が、その手をドレーミアが押し留めて軽く口付けしながら我輩に馬乗りになり、寝間着を脱がしにかかってきた。随分積極的であるなあ。正直腹が空いて仕方ないこの状況でドレーミアに吸精されるのはキツいが、据え膳喰わぬは男の恥である。どれいの世界にあるというこの(ことわざ)、なかなか気に入っておる──我輩の世界には()()概念であるからな。


「執事さまはどうぞそのままで……」

「よかろう──たまには悪くあるまい」


 寝間着代わりにしているバスローブを脱がされてしまえばもう体には何も纏っていない。我輩の胸をなぞってドレーミアが妖しく微笑んで、ガウンを脱ぎ去り青いビキニ姿になる。細やかな硝子の装飾が縫い付けられている洒落た青ビキニに、ドレーミアお気に入りのサファイアのタイリボンが結わえられている。

 ……ん?

 ビキニ?


「館長さま、よろしくてよ」

「!?」


 ドレーミアのひとことと同時に体を覆った浮遊感に目を見開いたのも束の間、次の瞬間には赤い絨毯の上に横たわっていた。我輩に馬乗りになって妖しく微笑んでいるドレーミアの背後に、パンツ一丁で苦笑しているどれいと──拘束した腕を革のケープで隠している、これまたパンツ丸出しの館長がいた。

 館長がにやにやと薄い笑みを浮かべて我輩を見下ろしている。


「──謀ったな」

「こうでもしなければご一緒していただけないと思いましたの」


 申し訳ありません、とドレーミアがらしくもなく少し(しお)れた声を出す。ため息を吐いて天井から吊り下げられているシャンデリアを見据える。見慣れた食堂のシャンデリアも、こうやって真下から見上げてみるとまた違った風に見える。

 ──ここらが、潮時なのかもしれない。

 何の潮時なのかは、うまく言葉にできないが。




 ──ドレイク。




 レンが我輩を呼ぶ。

 ああ、そうやってずっと我輩を呼んでいてくれ。どうか、我輩がどうなってしまってもキミはそのままでいてくれ。頼むから──それ以上、消えないでくれ。どうか、記憶に残るキミのこの声だけは。


「…………」

「あの……執事さま」


 上半身を起こして、しょげ返っているドレーミアの顎を上げて口付けを落とした。落としてから、背後の館長を見やる。


「今度は()()()()ということか? 館長」

「フフン! ──さてな。貴様がどうなるかは貴様ら次第だ。ワタシはただ見ているだけさ」


 嗤う館長に鼻を鳴らしてから立ち上がり、ドレーミアも立たせる。


「よかろう。地獄の果てまでついて行ってやる──〝魔女〟」

「くくっ。さてどうなるか。()()も存分に楽しめそうだ──なあ、執事」


 小さく貧弱な館長と対峙しているというのに、我輩が館長を見下ろしているというのに、館長は我輩を見上げているのに──果てしなく上から見下ろされ、見下され、眺められ、観察され、閲覧され、記録され、愉しまれている心地になる。

 全く──レンが愛した我輩と魂を同じくする〝我輩〟だというのにどこまでも忌々しい〝魔女〟であるな。


「……フルチンとパンイチの凄み合い」


 ぼそりと呟かれたどれいの言葉で自分が全裸であったことに気付く。まあ良い。


「よっしゃ!! 執事も揃って初★全員集合だYO!! ドキドキ❤ワクワクの旅行へれっつらごー!!」


 館長が愉しげに飛び跳ねながら言う。たん、とん、たんと館長の足が床を打つたびにどこからか水が流れ込んできて食堂が浸水する。


「この格好ということはまた海底の世界か?」

「ええ。わたくしもどれいさまも初渡界先がそこでしたから、執事さまの初渡界もそうしようと思いまして」


 そう言いながら腕に絡みついてくるドレーミアの今日の髪型はひと房前に垂らしたハーフアップで、髪をまとめるピンに珊瑚飾りが使われている。うむ、愛らしい。

 足元に感じるさざ波に目を閉じ、耳を澄ませる。さざ波の音に混じってレンが我輩を呼ぶ声が聞こえる。確かに、聞こえる。

 ──レン。

 我輩の、最愛の妻。我輩の唯一。たったひとりの……()()()

 ぎゅっと隣のドレーミアの腰に回した腕に力を込める。

 ──願わくば。




 ── ドローシ♪ 唄いましょう、楽しく ──


 ── レナード♪ 忘れましょう、哀しみ ──


 ── ミレーユ♪ 愛しましょう、貴方を ──




 さざ波に合わせてゆっくりと館長の唄が奏でられる。

 その唄に、我輩は閉じていた目を見開いて呆然としてしまう。館長が薄い笑みを──それはそれは悪趣味な薄い笑みを浮かべて、我輩の反応を愉しんでいた。

 ぐっと拳を作る。いつ何処で、かはわからんが──我輩の記憶を、あるいは思考を読んだのだろう。

 ──レンがよく唄っていたあやし唄だった。子どもをあやすのによく使われる唄のひとつ、ドレミの唄。

 さざ波の音が大きくなる。水は、既に膝丈まで来ている。水は限りなく透き通っていて、食堂の赤い絨毯の色合いがそのまま溶かし込まれている。そこにシャンデリアの煌びやかな輝きが投射され、水面が煌めいている。


「フハハ──思ったより動揺してないなあ」

「……館長であればさもありなん、であるからな」

「ふむ、なれば今度はもっと心臓に悪いドッキリ仕掛けるとしよう」

「やめんか悪趣味下劣野郎」


 スパァンとどれいのツッコミが館長に入る。うむ、良い音である。

 ざぶんと波が立って水飛沫が顔にかかる。もう胸元まで来ておる──ドレーミアが我輩の首に抱き着いてきた。溺れてしまわぬように、というよりは我輩を離さぬようにという色合いが窺えるその抱き着きに愛しさを募らせて、こめかみに口付けを落とす。

 ああ、レンが愛した我輩はこんなにも愛らしい。レンが愛して当然──だから、我輩も〝我輩〟が愛しい。

 しかし、と我輩は顔が完全に水に浸かる前に思う。想う。


 願わくば。


 願わくば。


 ──どれいやドレーミアがそうなったように、この旅で我輩も変わってしまったとしても、どうか。




 どうか、残されたたったひとつの〝レンのあかし〟が──この声が、消えてしまいませんように。




 ◆◇◆




 ごぼりと、肺に残った空気が排出されて泡となり登ってゆく。

 青い、どこまでも青い、ひたすらに青い世界を登っていく泡。それに混じって首に抱き着いているドレーミアの髪が揺蕩っている。


 永く続く雨年(あめどし)の開けに広がる、何処までも澄み切った青空の(あお)。全てが凍てつく死と寂寞の凍年(いてどし)(そび)え立つ、氷山の(あお)。人失せた館に揺らめくマジナランタンの、濁りを孕んだ不鮮明で不親切な蝋燭(ろうそく)(あお)。──……鏡に映るわたくしの、双眼に宿る(あお)

 見果てるが(あお)き、凍てつきし(あお)さ。

 朽ち往くは(あお)く、終わりなく(あお)い。

 (あお)い、(あお)(あお)(あお)い。


 いつだったか、ドレーミアが恍惚とした表情を浮かべながら夢見心地で語ってくれたのを思い出す。

 見果てるが(あお)き、凍てつきし(あお)さ。

 朽ち往くは(あお)く、終わりなく(あお)い。

 まさに。そうとしか形容できぬ究極の青。こんな世界──我輩の永い記憶にもない。世界とは、かようにも広いのか。


「──執事さま」


 青い世界に髪を揺蕩わせながらドレーミアが顔を覗き込んでくる。後頭部に手を置いて引き寄せながら耳元で囁く。これがお前の見せたかった〝世界〟なのだな、と。ドレーミアは頷く。これが〝世界〟のひとしずくなのですわ、と。


「……渡界ひとつ、侮れんものだな」

「で、ございましょう? さあ執事さま、尾びれでちゃんと海流を掴みませんと流されますわよ」


 そう言われて足元を見て見ればなるほど、下半身が魚の尾びれになっていた。橙色に縁どられたルビー色の鱗が隙間なく並んだ尾びれはなかなか美しいが、この青い世界には少々目立ちすぎる色合いであるなあ。

 数回尾びれをはためかせて動きを確認する。両脚が拘束されているような感覚があるのは元が二足歩行の人間であるからか──筋肉の使い方をまずは覚えねば。


「何じゃあこりゃあ!? 今度は何だ!?」


 突如、どれいの素っ頓狂な絶叫が響いてきた──ふむ、聞こえ方もだいぶ違う。水中であっても当然、音は聞こえる。しかし人体であった時と聞こえ方が違うのはこの体が()()()()のつくりだからか。呼吸も、肺呼吸ではなくえら呼吸──なるほど、耳の裏にえらがある。この世界に陸上はないと聞き及んでおるから肺機能の必要はないだろうが……肺はどうなっておるのだ? いやしかし待てよ、その前に。


「人魚の交尾はどうやるのだ?」

「最初に聞くことがソレかてめえ!!」


 どれいのツッコミが水中を伝って鼓膜に届き、揺蕩う。──ふむ、水の流れを感じ取る機能も備わっているようだ。海流の動きも手に取るように、ならぬ()()()()()わかる。

 面白い体だ、と思いながらようやく視線を落とす。下半身が何やら蜘蛛(くも)のようになっているどれいがおった。


「クモじゃねえ! カニだ」

「ああ。今回はカニにしてみた」

「横歩きしかできねえじゃねえかフザけんな!!」


 どれいの隣では我輩たちと同じく人魚姿の館長がげらげら笑いながら揺蕩っている。


「さーて! レイシュルド王国に行くとしようか!」

「レイシェルド? オーロフィクシャー王国ではないのですか?」

「前回よりさらに数年経った世界線でな、レミリナ・オーロフィクシャー姫が輿入れすることになっているんだ」

「まあ」


 レミリナ──この世界における〝我輩〟であるな。……ドレーミアの話の通りならば、我輩が〝我輩〟を嫌になることは、ないだろうが。


「王国挙げてのお祭り騒ぎだ! 空きっ腹を満たすのにちょうどいいだろ?」


 そう言って楽しげに回りながら泳いでいく館長を追って我輩たちも海底を進んでいく。……どれいが非常に歩き辛そうにしておったため、途中から我輩の背に乗せてやったが。後ほどご褒美をいただくとしよう。




 ◆◇◆




 館長が高らかに唄う。




 ()の人は揺蕩(たゆた)う。

 (つまび)らかに開かれし海の(つぼみ)より出づる花嫁や。

 さざ波に乗りて揺蕩う花びらに煌めくは未来。

 愛し君と(つが)い誓つて繋げゆかんとや。




 レイシェルド王国は冷たく(はや)中凍(ちゅうとう)海流に守られている氷河の国であった。海の底から何処までも何処までも高く(そび)え立つ氷山に穴を開け、巨大な王国をそこに建立することで堅牢な要塞とした技術大国であるらしい。

 中凍海流の影響を受けない外周部に入国ゲートがあり、そこで入国審査を受け認可を貰えれば王国へのゴンドラリフトに搭乗できる仕組みとなっている。昔は中凍海流を利用した水車によって動力を得ていたのがここ十数年で中凍海流の流れを利用した電気エネルギーの発電に移り変わった、というのはゴンドラリフトの管理人の話であった。

 氷の内部ということで冷たい水を想像しておったが殊の外温かく、それもまた電気エネルギーを利用した暖流を王国全体に満たしているとのことだった。氷が融けぬのかと問うてみれば真珠を溶かし込んで作った外膜を何重にも王国外周に張り巡らして守っているとのことで、面白いと心底思ったのは言うまでもない。光源は建国当時、友好を誓ったオーロフィクシャー王国より譲り受けた光り輝く真珠を利用しているとのことだった。太陽よりは柔らかく、しかし十二分に明るいホワイトパール色の輝きが王国全体を満たしていて、眠る時には遮光窓を下ろすのだという。


「〝僕〟よりも国の在り方に興味あるみたいですね? 執事さん」

「む? まあな……ドレーミアから散々聞かされていた通り、確かに愛らしい〝我輩〟であるがなあ──……」


 ──やはり、多少警戒はしてしまう。

 ため息を……いや、海中だからため水……か? えら呼吸をしている現状、肺は機能していない。だかしかし声帯を震わせ、声を出すには空気が必要だ。では肺機能が一体どういう風になっているかというと、おそらく超音波を作り出す機能に挿げ替えられているのではないかと思う。我輩たちが耳にしているのは期待振動による〝音〟ではなく、超音波による液体振動での〝音〟なのだろう。人魚の体はおそらく魚類よりもはるかに高度な、細かい液体振動を発生させることができる機能が備わっているに違いない。この国に人体について知れる書物でもあればよいがなあ。

 ──と、また関係ないところで考え込んでしまった。

 思考を切り替えてレイシェルド王国の宮殿前広場に視線を向ける。花びらを王国中に振りまきながら海を揺蕩っている人魚姫──〝我輩〟が、そこにいる。ドレーミアが気に入るだけあって非常に愛らしい〝我輩〟だ。王族の婚姻ならばの政略結婚なのかと思っておったが、存外そうでもないらしく〝我輩〟を見つめる新郎の眼差しは愛しみに溢れていた。


「魂の片割れじゃないだろ? アレ」

「そうだな。まあ珍しいことじゃない。必ずしも魂の片割れと番うわけじゃあないし、魂の片割れ相手じゃないからといって不幸になるわけでもない」


 魂の片割れ。

 ()()()

 永遠の半身(ロ・エトパトス)




 ──ドレイク。




 レン。

 我輩の、最愛の妻。

 ふ、と〝もしかしたら〟という思考が頭をよぎりそうになってぎゅっと唇を噛む。考えるな。考えるな──考えるな!!


「執事さま?」

「! ……あ、ああ」


 考えるな、と再度我輩自身を戒めてからドレーミアの腰を抱く。ドレーミアの手元には軽く燻ったサイコロ状の肉が幾つも串に刺さった屋台料理があった。ので、ひとついただくことにする。


「む。刺身か」

「ええ。美味しゅうございますわね。温かい食べ物もあちらのスペースにあるそうですわよ」


 言われて視線を移す。硝子のような、クリスタルのような、硬質で透明な板をドーム状に組み立てた小ぶりの建物があった。中には赤く熟された電球のようなものがあって、それを取り囲むように様々な料理が並べられている。ドレーミアを連れて近付いてみれば専属のコックらしき人魚が何を食べたいか問うてきた。


「この中にある料理はみな温かいのか?」

「ええ。他国では溶岩を使うようですが、生憎我が国には近くに火山がありませんので。このように電熱を用いた加熱方法を編み出しました。保温もバッチリですよ!」

「ほう……この国では電気を使うようだが、感電はしないのかね?」

「電気エネルギーの発明当時は感電事故も多発しておりましたが、近年では年に一度あるかないかですね! 海中で放電すれば四方八方に分散されてしまいますが、電気の通り道を作って方向を調整してやれば安全に放電できるのですよ!」


 突拍子もない問いかけであったにも関わらずにこにこと屈託のない笑顔で答えてくれたコックに礼を述べつつ、温かい肉と芋をリクエストする。


「さすがに白米やパンはないか」

「ペースト状にした素材から作った練り物はあるそうですけれど……粉物は流石にお見掛けしておりませんわね」


 まあ、海中で粉物は無理であるな……。


「うむ、美味い」

「ええ、本当に」


 思った以上に熱いそれらは中までしっかり熱されていて、水を伝ってきた熱気で体が温まるほどであった。海中に適応した人魚の体には些か熱すぎるが、温かい料理を求めてやってくる人魚も存外多い。


「──後悔は、しておりませんか?」


 ふとドレーミアからそんな言葉が落ちる。肉を頬張ったままドレーミアを見下ろせば、またあのらしくもない落ち込んだ表情を浮かべていた。案外気にするタイプであるな、こいつ。

 デコピンした。


「あだっ」

「我輩が後悔しているように見えるか?」

「……見えませんけれど。でも」

「──むしろお前が強引にでも引き摺り込んでくれて有難いと思っておるよ」


 ドレーミアの目が丸く見開かれる。うむ、愛い。


「おぬしも知っての通り、頑固なものでな」

「……わたくしたち全員、そうだと思いますわ」

「いずれこうなるとは思っていたが、どうにも踏ん切りがつかんかった。──どうしても、停滞を……安泰を望んでしまうのだ」

「……わかりますわ」


 ドレーミアもまた百数年間、変化を恐れ停滞していた。我輩に至っては三百年以上。館長は──……。


「どれいは館長に押し流されて渡った。ドレーミア、おぬしはどれいに導かれて渡った。そして我輩も──おぬしに謀られて渡った」


 自分で言って可笑しくなり、つい笑みを零してしまう。


「〝我輩〟ながら頑固で不器用で無鉄砲で、そのくせ器だけは広い奴らだ」


 ああ、これだから愛しくて仕方ないのだ。

 レンが愛した我輩とよく似ているこいつらが、愛しくて仕方ない。そう──レンも同じ気持ちであったはずだ。我輩がこいつらを愛しく想う感情と同じものを、レンも我輩に抱いていたはずだ。

 そのはずだ。


「おい柊どれい、カニ足だぞカニ足」

「僕の足の方が食べ応えありそうだなみてえな顔するんじゃねえ」


 館長とどれいがわあわあ言い合いながらやってきたのを機に、ドレーミアの顎を引き上げて口付けを落とす。海中であろうと容赦なく吸い上げられる精気にぐっと息を詰めそうになりつつも、ドレーミアの柔らかな唇を食む。


「もうそんな顔するでない。我輩は覚悟を決めた」


 恐怖はある。

 忌避感もある。

 逃げたくて仕方ない。

 今すぐにでも安穏とした図書館に閉じこもっていたい。

 ──だが、もう踏み出してしまったのだ。なれば後は、流されるままになりゆきを見守るしかあるまい。

 どれいもドレーミアもそうやって〝我輩〟自身と向き合い、どんな結果であれ逃げずに真正面から受け止めてみせたのだ。だから。今は無理でも、流されるままに──なりゆきに身を任せて。()()()()()()()()()()()()()()




 ──ドレイク。




 レン。

 我輩の、最愛の妻。


「どれい、今すぐあの保温室に入るがよい。いい具合に赤く色づいて洒落たカニ人間になるかもしれんお」

「それ蒸し焼きって言うんだよ馬鹿!!」




 【泡沫】





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