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自分図書館  作者: 椿 冬華
第二幕 「わたくし」の章
73/138

【肉団子】


「それで、館長が優勝をもぎ取って一気にⅢSクラスまで上がったのであるか」

「ええ。館長ろぼ大活躍! でしたわ」

「ロボではない! ファイナルアルティメットフォーエバーファンタスティックブラボーアルティメット館長号だ!」

「アルティメット二回出てるってだから。あとどっかで聞いたぞそんなの」


 図書館のダイニングにて、皿にこれでもかと盛られた肉団子を〝わたくし〟たち四人で囲みつつ、歓談に耽る。

 ほこほこと湯気を立ち昇らせている肉団子は実においしそうで、食欲を誘う香ばしさを滲ませています。ひとつずつ小皿に取り分けて配りながら、つい昨日の出来事に想いを馳せる。

 霊霧さまが住んでおられる街にて行われた、クラスチェンジのための格付け武闘会にて館長さまが装魂であらせられるろぼを乗り回し、見事優勝をもぎ取り初期状態であるEクラスから一気にⅢSクラスへ昇格したのです。

 それだけではありません。なんと霊霧さまも──約三日かけて館長さまやどれいさまと訓練した甲斐あって、Eクラスに昇格することができたのです。初期がEですので戻っただけではあるのですが、対戦相手の装魂を破壊できたのは非常に大きな一歩と言えます。さすがに一撃で、というわけにはまだまだいきませんでしたが、武器の最も脆い部分を突いては下がり、また突いては下がるという一進一退の戦法で破壊してみせたのです。

 装魂に重きが置かれるあの世界においては装魂の破壊も勝ち負けに左右されるため、破壊できた時点で霊霧さまの勝利になったのです。装魂は破壊されても再生できますが、魂が受けたダメージを癒すのに時間を要するようです。

 肉団子はいつか自分で買うからと、Eクラスで購入できる蜜団子を頬張って笑った霊霧さまを思い出して微笑む。


「いやマジで壮観ってか壮絶だった。ロボのビームで大抵吹っ飛ぶし」

「ロボではない! ファイナルアルティメットフォーエバーファンタスティックブラボージャスティスアルティメット館長号だ!」

「長くすんな」


 確かに色んな意味で壮絶でしたわね。観客も審判も唖然としておられましたし。


「ですが館長さま……あれはわざとですわよね? 真に館長さまの装魂、というわけではないのでしょう?」

「まあな。以前あそこの平行世界に行った時ちゃんと自分のを確かめたが、でっかい筆だったぞ」

「筆? 武器……なのか?」

「撲殺エンジェル☆館長ちゃんくらいにはなれるんじゃないか」


 筆……わたくしの謎の球も不思議でしたが、館長さまも不思議ですわね。

 ふと、そこで思い出す。

 かたかたと唇を震わせ、開き切った瞳孔で怯え切っていた館長さまのお姿を。


「…………」

「さーて食べるか! ほれ柊どれい、喰わせろ!」


 今の館長さまはあの時の様子が嘘のようにいつも通りです。いつも通り不敵で不遜な薄い笑みを浮かべて楽しげに、愉しげに過ごしておられるいつもの、館長さま。

 ──どれいさまに抱き締められて、震えておられた館長さま。


「これは美味い」

「さすが上級クラスしか買えない代物……」

「おい柊どれい!! 何先に食べてるんだ!! 生意気だぞ最近のお前!!」


 ──今はやめておきましょう。

 そっと馳せるのをやめて、手元の肉団子にナイフを差し入れ──いえ、ここはフォークでぶっ刺しましょうええそうしましょう。

 フォークでぶっ刺した肉団子は結構な重量感があって、いかにも詰まっていそうに見えます。よく目を凝らせば表面にじわじわと肉汁が浮かび出ていて、実に美味しそうです。

 そのまま、首を突き出してかぶりつく。


「──美味しい!」


 ひき肉ほど細かく切り刻まれていない肉を叩いて柔らかくし、すり潰した野菜と豆腐のようなものを混ぜ合わせて茹でて、ソースを絡めて焼いた……と、いうところでしょうか。

 ソースはとてもスパイシーなのですが舌先を痛めるほどの辛さはなく、おそらくは醤油をベースにした辛いタレにはちみつを混ぜ合わせたのだと思われます。ワンクラス下の魚団子はあっさりした風味でしたが、こちらはこってりに重きを置いた感じですわね。

 唇についたソースをぺろりと舐め取ってまたかぶりつく。ハンバーグよりは硬めなのですけれど、肉の切れ端が大きいからかパサついているとは少しも思わない。パサついた肉団子も結構好きなのですけれどね。


「こちら、何のお肉なのでしょう?」

「ミノタウロスだな」

「へぇミノタウロ……え? 人間族のひとつ……じゃねえよな?」

「いや、獣族だ。二足歩行するだけの牛だな。あの世界においては知恵があり言葉を交わせることが人間族と獣族の境界線になっている」


 牛人(うしびと)なのかと一瞬凍り付いてしまいましたが、どうやら人間ではないそうです。そうとわかってほっとしたのも束の間、館長さまはさらなる爆弾を投下した。


「敗者が肉にされていたのは百年前までだな」

「…………」「…………」「ほぉ。さすがに闘争の世界だな」


 つまり時間軸がズレていればわたくしたちは人食をしていたかもしれない、ということですわよね。どれいさまのように……。


「いやだからアレは人間の形をしているだけで生物的には全く別だって言ったじゃないですか!」


 人間なんか食べてねえ! と必死に否定するどれいさまをよそに、館長さまに人食が禁止されたのは倫理的な問題からかと伺う。


「いいや。共食いによるプリオン病の発症が深刻化したからだな。未だに敗者への風当たりは厳しいし、闘争に抗議する動きすらない。あの世界じゃあ弱肉強食が絶対の(コトワリ)なんだ」


 プリオン病というのは牛や犬、ヒトなどの哺乳類が同種族を食べる──つまり共食いした際に、プリオンというたんぱく質が変質して脳が破壊される感染症なのだそうです。そう、感染症。恐ろしいことにこのプリオン病は遺伝するため、百戦錬磨の強者の一族が悲惨な末路を辿ることが少なくなかったそうです。

 研究によってプリオン病の存在が発覚し、人族を食用肉にすることは国際法で禁じられたとのことですが……そこに敗者への憐憫は一切なかったと館長さまは語って、嗤いました。


「世界違えば常識も違う、か」


 勝者が正義。

 ありふれたフレーズですが、いざそれが絶対となっている世界を目の当たりにしてみると……急にわたくしという存在が心許ないものに思えて、心細くなりますわね。

 ──〝わたくし〟は、大丈夫でしょうか。

 別れを告げてきた小さな竜人の少年、霊霧さまのことを想ってそっと目を伏せる。





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