表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
自分図書館  作者: 椿 冬華
第一幕 「僕」の章
28/138

【無能チョコ】


「褒めて差し上げますわ」


 いくら食べてもカロリーゼロ! 糖分ゼロ! 絶対に太らない魔法のチョコレート!

 土産として持ってきたそれを前に、メイドさんは満面の笑顔で称賛の言葉をくださった。


「見た目は従来のチョコレートと変わりませんのね」

「一応量だけは貰ってきましたけど、完全に独立した嗜好食ってことで料理には向かないそうです。他の具材と絡めると味が変わるとかで」

「んん、とても上品でまろやかなチョコレートですわね──従来のチョコレートよりもむしろ、こちらの方が美味ですわ。わたくしのお茶菓子として全ていただきますわね」

「アッハイ」


 有無を言わさず全部持っていかれた。別にいいけどな。


「おいメイド、我輩の分まで持っていくな」

「まあ。淑女の嗜みである甘味を取り上げようだなんて恥ずかしい真似、執事さまのような紳士であればなさりませんわよね?」

「我輩は紳士ではないのでな」


 我輩の分を寄越せ、と上から目線で凄む執事さんに、けれどメイドさんは臆することなく美しく微笑む。


「まあ、紳士ではないのでしたら何でございましょう? 変態かしら」

「我輩は我輩でしかない、〝我輩〟」


 くい、とメイドさんの顎を上げて執事さんは艶めかしく舌なめずりを──おい待て。


「はいはいはいはいふたりで仲良く分けてください!」

「ふむ……〝我輩〟とチョコを分け合うのも悪くはない。分け合うのも、な」

「突っ込まねえからな」

「突っ込まれたいんですの?」

「危うい発言やめてください」


 油断するとこいつらすぐ倒錯的な官能世界に入ろうとしやがる。


「ひと箱分くらい執事さんにあげたらどうですか?」

「我儘な殿方ですわね……仕方ありません」


 ひと粒差し上げましょう、と執事さんの手のひらにぽとりと銀紙にくるまれたチョコレートを落とした。


「わたくしの慈悲にどうぞ感謝なさってくださいませ」

「仕様のない奴であるな……」


 ケチの極みだ、と遠い目でふたりのやりとりを見守っていたら意外なことに、執事さんは怒ることなくひと粒のチョコレートを指先でつまんで銀紙を剥ぎ取りにかかった。


「足マット、貴様が我輩に食べさせるがよい」

「矛先こっちに向けんな!!」


 僕にナルシスト趣味はねえ!!


「我儘な奴であるな。仕方ない、我輩が貴様に食べさせてやるとしよう」


 そう言って執事さんはチョコレートを口に咥、え──……


 全力で逃げた。


 全力で追い掛けられた。


「おい〝ワタシ〟……お前らワタシひとりに働かせて三人だけで楽しそうにしおって」


 ぶーぶー、とそれまで黙々と作業していた館長から不満が飛んできて、ランドリールームの中でぐるぐる追いかけっこしていた僕らは足を止める。


「しょうがねえだろ、超ハイテクな機械の取り付け方なんてわかんねえんだから」


 いや、説明書はあった。洗濯機や乾燥機とは別にDR-Mからもらったシステム機つう超ハイテクな機械の取り付けを、最初は僕と執事さんでやろうとしてたんだ。でも駄目だった。説明書はちゃんとあったんだが駄目だった。亜空間電圧プラグに接続ってなに? 亜電流コネクトってなに? 浸透電蝕プログラムってなに?


「すまんな、僕は役立たずだ」

「わたくしチョコレートよりも重いものは持てのうございます」

「我輩は主君に足を向けるような真似はせぬゆえ、安心なされよ」

「足は向けないが背は向けるってか、執事」


 ぶーぶー、と頬を風船のように膨らませて館長は何種類もの工具を巧みに操って作業を進めていく。魔法で一瞬でぱぱーっとできるんじゃないかと思ったが、魔法の駆使には前提として知識が必要なのだと言われた。強引に魔法で完結させてしまうことも可能だが、知識を身に付けた上での駆使の方がずっと効率的なのだという。


「からくりの世界は亜空間を利用して電流や水道を引いている。亜空間とひと口に言っても世界によって定義は違うからからくりの世界特有の亜空間、だがな。この亜空間について今のうちにあらかた学んでおいた方が、今後何かと役に立つ」

「へぇ……勤勉なんだな」

「知らなかったのか? ワタシは真面目なんだぞ」


 ……確かに。

 世界を渡るたびにいちいち、事細かに記録して本を作っていることからも館長の雑なようでいて几帳面な性格が窺える。


「ワタシはご褒美を所望するのである」

「だ、そうだぞメイド」

「だ、そうですわ足マットさま」

「丸投げすんな」


 とりあえずおやつの時間も近いからと、チョコタルトを作ることになった。それを聞いて館長は嬉しそうに笑い、その笑顔に同調して工具たちが踊って、僕らも釣られて笑みを零してしまった。

 自分図書館は今日も、何事もなく平穏に停滞する。




 ◆◇◆




「無能チョコは独立食だから料理には使えないって言わなかったか」

「どうなるのかと思いまして」

「面白そうだと思ってな」

「ヴォェエエェェ!!」


 無能チョコタルト。

 その味、劇薬につき注意されたし。


「納豆が……納豆がとろろとチョコレートといちごに絡んでっ……」


 哀れ、館長。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ