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自分図書館  作者: 椿 冬華
第一幕 「僕」の章
17/138

第五自我 【洞窟に自我は眠る】




第五自我 【洞窟に自我は眠る】




 ()の人は(せん)ずる。

 悪魔だと(そし)られ。魔女だと(ののし)られ。

 嫌われ憎まれ(さげす)まれ(うと)んじられてもなお。

 朽ち葉に染まりし手を休めることなきにし、ただ人々を救わん。




「──そんなたいそうなもんじゃないよ、あたしゃ」


 多異種族系列世界第十種 №03──魔女レーア。

 ひび割れてひどく聞き取りづらい声を振り絞るように出してその老婆は──〝僕〟は、笑う。

 多異種族系列世界はその名の通り、多くの異なる種族が(せめ)ぎ合うようにして生存している世界だ。ここでいう種族とは生物としての種ではなく、〝人間族を基準とした意思疎通を可能とする種族〟を指している。魚とか犬とか鳥とかの動物は除外、というわけだ。

 例を挙げるとするなら、この〝僕〟──ばあさんはトロル族だ。朽ちた草木のような肌色と僕らの倍ほどもある体躯が特徴的で、館長によればトロル族はヒュマノ族──つまりこの世界に住まう、僕らのような人間族から嫌われているらしい。


「他にも木に寄生して生きるドライル族だとか、水中でなければ呼吸さえままならないシーモア族だとかがこの世界にはいる」

「へぇ……」


 いる、と言われてもあまりぴんとこない。

 だって僕ら、洞窟の中にいるんだもの。他の種族どころか外すら見えないんだもの。僕らとばあさん以外に誰もいねぇんだもの。

 そう、洞窟。洞窟だ。

 今回は特に何にも擬態することなく、素の体のまま渡界(とかい)した。けれど渡界した先は真っ暗な洞窟の中だった。しかもモンスターがいた。ゲームに出てくるような巨大なコウモリ型のモンスターが出てきて、館長が何故剣を手渡してきたのか理解しつつへっぴり腰で戦った。僕は戦闘なんてしたことがないと理解した瞬間であった。つうか剣が重くてまともに振れなかった。振った剣がそのままごいんって地面に当たって全身に電流が走った。もう二度と剣なんて振るか。

 ──まあそんなこんなで、ランタンの灯りだけを頼りにへにゃへにゃと戦っていた僕らを助けてくれたのがばあさんだったというわけである。そしてばあさんの居住区へ案内されて、現在に至る。

 どうやって倒したのかって? ハエのように手ではたき落としていたよ。


「お前たち、別の世界の人間だね?」

「ほう、わかるか」

「わかるさね──あたしも〝魔女〟だからね」


 あんたほどに強い力はないがね、としわがれた声で続けてばあさんは僕にそれまで煎じていた薬を差し出してきた。


「飲みな。傷が治るよ」

「えっ……」


 ぼこぼこと煮えたぎるショッキングピング色のなにか。いや、煮えたぎっているというか……(うごめ)いている? え……生きている?


「ピンキースライムの生薬(いけぐすり)だよ」

生薬(いけぐすり)!? 生薬(しょうやく)じゃなくて生薬(いけぐすり)!?」

「つべこべ言わず飲みな!」

「がぼぉ!?」


 胸倉引っ掴まれて薬の入った水差しを突っ込まれた。どろり、とスライム状の粘着性ある液体が口内を満たすと同時に気管を塞がれて、味の感想を抱く余裕なぞひとかけらもなく我武者羅に手足をばたつかせた。息を吐き出すことも、吸い込むこともできない。気管が完全に塞がれて息ができない。

 死ぬ、と全身が粟立って冷たくなる。死ぬ。死ぬ。そう、死ぬ。死──




 電車の音がする。




「──ごほっがほっがふっ!!」


 高層ビルの向こうに沈んでいく夕日が見えた、と思った次の瞬間に口内のスライムが滑り込むように食道を通っていった。自力で嚥下(えんげ)したわけじゃない──スライムが自律的に食道に潜り込んだのだ。嚥下の動きをしていない食道にねじ込んできたものだから体が反発して、異物を押し上げようと胃が委縮して逆流してくる。けれどその逆流さえも呑み込んで、スライムは胃の中に収まってしまった。

 ひとしきりえずいてようやく気管や食道が落ち着きを見せたころ──僕ははっと自分の腕を見下ろす。

 巨大なコウモリとの戦いでいくつもの裂傷を負ってしまっていたのだが──それが跡形もない。ただ確かに傷を負っていたのだという、うっすらとした血のシミだけがあるだけだ。


「治ったようだね」

「え……あ……ありがとう、ございます?」

「なんで疑問形なんだい」


 死にかけたからです。


「さて、町に降りるかね──ついてくるだろう?」


 見たいのだろう? あたしがいかに魔女と呼ばれてるか。

 そう言って重い腰を上げるばあさんに、館長は笑った。

 魔女と魔女──それに挟まれている僕は、さしずめ哀れな生贄といったところか?


「薬の素材にさえなりゃしない生贄はお断りさね」

「お断り以外の選択肢はお断りだ」


 洞窟から一時間ほど歩いた場所にヒュマノ族の町があるらしく、ばあさんはそこで物資調達がてら、薬を売っているみたいだ。薬師(くすし)としての腕前は一等品であるらしく、僕らがここに渡った時にも洞窟で客人を迎えていた。

 ──迎えていたというか、略取されていたというか。




 ◆◇◆




 多異種族系列世界第十種 №03──様々な人種が混在している世界。だが、混在しているのは人種だけではなかった。


「オァアー!!」


 角の生えたウサギもどき、ただしヒグマ並みの体長──にあやうくひと突きにされかけて冷や汗を流す。冷や汗どころじゃない──あと一秒、踏み込みが遅れていたらはらわたを人間の腕ほどもある角で抉られていたところだ。


「なんなんだこのウサギっ!」

「ベアットさね。肉食モンスターの中でも凶暴な類のモンスターだよ」

「うまいのか?」

「臭みをちゃんと取れば最高の肉さね──食べたいのかい?」

「ああ! おい〝ワタシ〟、そいつ食うから倒せ!」

「無茶言うな!!」


 この世界に来て痛感した。

 渡界する直前に館長に剣を持たされた時は自分が戦えるかどうかなんてわかりゃしなかったけど、今はっきりした。僕は戦いなんて一ミリたりとしてしたことねぇ!!

 この世界にはモンスターと呼ばれる、僕の認識ではフィクションでしかない凶暴な生物が犇めいていた。僕の知っている動植物とは別に、闘争本能を具現化したような人を襲う猛獣が数多、存在していたのだ。渡界した時に襲われた巨大なコウモリも、今まさに対面している角ウサギもその一種だ。


「館長ぉお!!」

「やれやれ──手間のかかる〝ワタシ〟だ」


 へっぴり腰で助けを求めた僕に館長はため息を零して、たんたんと靴先で地面を叩いた。渡界する前にメイドさんが履かせた、鹿の革で作られたという編み込みブーツ。その靴先は銀の金属板で保護されていて、地面を打つたびに火花が散る。ひと刹那の輝きしかもたらさないと思われた火花はそのまま儚くなることなく、館長の靴周りに輝きを保ったまま漂う。それは館長が靴を打つたびにだんだん増えて言って、僕が角ウサギの突進を避けようと無様にも地面に転がった時には──館長を包み込むほどに目映(まばゆ)い巨大な光となっていた。

 館長を包み込む白藍色の光。

 襲われている最中だというのに、右手がうずいた。


「サンダガ!」

「著作権!」


 某ゲームに登場する雷系魔法の呪文を館長が叫ぶと同時に、鼓膜だけでなく全身を劈く鳴動が轟いて視界が一瞬、(めしい)になる。

 視覚が機能を取り戻したのはすぐだったが、脳が処理に追い付かなくてしばし呆然と地面に這い(つくば)る。聴覚が機能し始めたのはもう少し時間が経ってからのことで、そのころにようやく顔を上げることができるようになった。


 角ウサギが白目でひっくり返っていた。


「フフン。こいつの料理はできるのか? 〝ワタシ〟」

「ああ。血抜きと臭み処理に時間がかかるけどね──角をくれるなら料理してやるよ。どうだい」

「喜んで。さて、じゃあとりあえず死体荒らしに遭わないよう隔離しておくか」


 そう言うが早いか、館長はまたもや靴先で地面を叩いて角ウサギの体を何処かに消し去ってしまった。たぶん──異次元に移したんだろうけど。相変わらず……館長の魔法は出鱈目だ。

 〝僕〟のやることだからと、納得はできるけれど理解は一ミクロンもできない。


「少し手間取ったね。──ほら、あそこがヒュマノ族の町だよ」


 ようやく立ち上がることのできた僕はばあさんが指差している先の、山のふもとにある小さな町──〝アルプレス〟と言うらしい田舎町を見下ろす。町をぐるりと石れんがの壁が囲っていて、全体的に素朴な造りをしている。文明のレベルはそこまででもないらしく──というか、おそらく上下水道すら整っていないように見える。町の近くに川が流れているのだが、そこで洗濯したりバケツに水を汲んだりしている女性たちの姿が見えるのだ。川はお世辞にも綺麗とは言えなくて、町中での飲水はどうなっているのかと若干不安になる。


「清潔に保つことの大切さは伝えるんだがね──なにぶん、あたしゃ嫌われ者のトロル、それも魔女──だーれも聞いちゃくれない」


 そのくせ、あたしの薬は求めるんだからおかしなもんだよ──そう言って大声で笑い、ばあさんは山を下りていく。その後を僕と館長もついていく──途中で館長が駄々をこねておんぶする羽目になったが。




 ◆◇◆




「止まれトロル!! それ以上その醜く穢れた足を町に入れるな!」

「薬を置け。その場に置け!!」


 町中へと通ずる門、と呼ぶにはお粗末すぎるゲートっぽい出入り口付近。

 そこで、山から下りてきたばあさんに気付いたらしい町の男衆に取り囲まれた。おそらくはモンスターの討伐や狩猟に使うのであろう剣や槍、弓を手に、敵意剥き出しで僕らを睨んでいる。


「薬は売りもんだからあげやしないよ。正当な報酬を寄越しな」

「黙れ、卑しい豚め。トロル如きが我らヒュマノのように取引をしようなどと、毎度のことながら反吐が出る」

「後ろにいるヒュマノは何処の者だ? 魔女、お前がよその町から連れ去ったのか?」

「こいつらはあたしの客人だよ。ただの見学さね──それよか、薬はいるのかい? いらないのかい?」

「そこに置け! 醜いトロルめ!」

「相変わらずだね。タダで寄越せとは、どっちがトロルなんだかわかりゃしない」

「黙れ!! 薄汚いトロルめ、退治されないだけありがたいと思え!!」


 多異種族系列世界第十種 №03──薬師にして魔女、トロル族のレーアばあさん。

 〝僕〟は、迫害されていた。

 ヒュマノ族──僕らのような人族の倍ほども体格があり、肌の色は苔生()したような緑色か埃で煤けた布のような灰色であることが多く、そして人種的に粗暴で凶悪だとされるトロル族。それだけでもヒュマノ族にとっては嫌悪の対象であり、ばあさんはそれに加えて〝魔女〟であった。

 だからヒュマノ族は、ばあさんを貶す。


「お前に生きる価値なんざない!!」




 ──お前如きの薬を使ってやるんだ。

 ──ありがたいと思え。

 ──殺さないだけありがたいと思え!




 渡界直後、洞窟でばあさんはヒュマノ族の襲撃を受けていた。この町の住人ではないようだったが、ばあさんの煎ずる薬を略取すべく武器を片手に、集団で押し寄せていた。

 醜いトロル族の薬を使ってやるだけありがたいと思え。醜いトロル族を駆除しないだけありがたいと思え。口々にそう罵り──ばあさんから、薬を奪っていったのだ。

 ばあさんは、抵抗していなかった。

 そして──今も抵抗していない。


「わがままだね、まったく」

「うるさい!! さっさと薬を置け、トロル!!」

「本当に醜い……お前のような醜い生き物が生きているなんておぞましい」




 ──オマエナンテ




「トロル族だってだけでそこまで言うおまえさんたちの方がよっぽどだと思うがねぇ」

「口答えするな!! 殺すぞ!!」

「お前なんかが我々に意見していいとでも思っているのか? トロル如きが」




 ──イナクテモ




「やれやれ、おまえさんたちがあたしを嫌おうとどうでもいいけどねぇ……野菜と魚、それに小麦くらいは分けておくれよ」

「汚物がヒュマノの食べ物を求めるなんて……!」

「ふん、いつも通りおこぼれだけは我々の慈悲で与えてやる。感謝することだな」




 電車の音がする。




 ()の人は(せん)ずる。

 悪魔だと(そし)られ。魔女だと(ののし)られ。

 嫌われ憎まれ(さげす)まれ(うと)んじられてもなお。

 朽ち葉に染まりし手を休めることなきにし、ただ人々を救わん。

 はてさて、真なる悪魔はいづれかなりや。




「!」


 ガタンゴトンと鼓膜の奥で鳴り響いていた電車の音が館長の唄声にかき消される。

 唐突に唄い出した館長にヒュマノ族は面食らったように目を白黒とさせていた。が、館長の唄が自分たちを揶揄るものであることに気付いたらしく、顔を紅潮させて怒りに戦慄(わなな)いた。


「貴様らは何処のヒュマノだ!? トロルに追従するなど……醜悪な! ヒュマノの誇りもないのか!!」

「くっくっく、薬師の煎じた高度な薬に対して、腐った魚と(しな)びた野菜、それに湿気ってカビた小麦を用意するのがヒュマノ族の誇りとは、面白い」

「なっ……」

「よしな。──確かに報酬は受け取ったよ。ほら、薬は置いていくから好きに使いな」


 これだけ悪辣な扱いを受けているというのに、ばあさんはやり返すどころか大して言い返すこともせず、素直に持参した薬をかごごと地面に置き、かごに入れられることさえなく地面に放り投げられた〝報酬〟を風呂敷の中に押し込めていく。

 ばあさんが大きな体を小さく丸めて野菜を拾うさまがたいそう気に入ったのか、ヒュマノ族が大笑いする。大笑いする。大笑い、する。大笑い──




 ──オマエナンテ

 ──イナクテモ




「さて、還るかね」

「!」


 またもや飛びかけていた意識を、ばあさんのしわがれた声が現実に引き戻してくれる。ヒュマノ族に対する言いようのない、痒くて痒くて仕方ない背中のいぼをライターで炙ってやりたいのにできない、怒りであり不満であり歯痒さであり、今すぐにでも叫びたくて怒鳴ってやりたくて、けれどばあさんが何もしない以上なにもできなくて。

 どうしようもないフラストレーションで口元がひくつくのを感じながら、僕らはばあさんとともに山へ引き返していった。




 ◆◇◆




「──あんな扱いを受けているのに、なんで薬を煎ずるんだ?」

「全てが総てああじゃないのを知ってるからさ」


 洞窟に帰り着くやいなや、薬を煎じ始めたばあさんに僕は(わだかま)っているフラストレーションそのままに、問いかければ答えはすぐ返ってきた。


「全て……?」

「あの町にもね、あたしを慕ってくれているヒュマノはいるのさ」


 そう多くはないものの、薬師としてのばあさんを純粋に尊敬してくれている人間もいるのだそうだ。じゃあ何故庇いにこないんだ、と言ったら鼻で笑われた。


「お前さん、画一的に物事を捉えるクセがあるだろう」

「え……」

「あの町で見た全てが総てだと思っているだろう? なんてひどいやつらばかりなんだ──見た目でしか判断しないやつらなんだ──差別主義者なんだ──」

「…………」


 ……そうとしか見えない、様相だったと思う。トロル族のことを見下して、薬師としての腕を利用しておきながら感謝はしない。報酬だって正当なものではなく、それに異論を唱える人間さえいなかった。


「トロル族にはね、ヒュマノ族を虐殺してきた歴史があるのさ」

「え……」

「つい二十年ほど前までの話だよ。トロル族のせいでヒュマノ族はその数を三分の一以下に減らしたのさ。ヒュマノ族に英雄が現れたことで虐殺は止まったがね……未だ、その傷を拭えずにいるヒュマノ族は多い」

「…………」

「それにね、あたしがこうやって薬を届け続けていることでヒュマノ族の中にも、トロル族とひと口に言っても様々いるということをわかってくれるやつらが現れてきた──ああやって表立って対応してくるのは口汚いやつらばかりだがね」


 ほら、とばあさんが笑みを深くしたのと同時に、ばあさんの居住区へと通ずる簡素な木製の扉が開いて、数人のヒュマノ族が現れた。

 ──背中に大きな荷物を背負って。


「レーアさま、今日も薬をありがとうございました」

「先ほどは兄たちが申し訳ありません……こちら、食糧です。いろいろ持ってきました」


 二十歳前後の若いヒュマノ族が大半であったが、老いたヒュマノ族も何人か混じっている。彼らは口々にばあさんへ礼を述べて、持参してきた食糧品の数々を差し出してきた。


「多すぎるよ。これじゃあ見合っていないね」

「いいえ──むしろ少なすぎるくらいです。レーアさまのおかげで伝染(うつ)り病が収まって以来……大きな病気をする同志がいなくなりました。レーアさまの言いつけも、最近では子どもたちが守るようになって……おかげで赤まだら病にかかる子どもが近年では驚くほど少ないのです。礼をしてもしきれません」

「大袈裟だね。清潔にしていれば病気にかかることも減る、普通のことさね」


 つんけんとした物言いだったが──ヒュマノ族と会話するばあさんの顔は、とても嬉しそうだった。

 あまり長居すると何を言われるかわからないから、とヒュマノ族たちはすぐ帰っていったけれど──彼らがいなくなった後もしばらく、僕の脳裏にはばあさんと楽しそうに談笑する彼らの姿が残った。


「こういうことさね。お前さん、目に見えているものだけが全てではない──当たり前のことだがね、物事を多角的に見るというのは殊の外、難しい」

「…………」


「〝()()()()()()()()()()()()()()


 ばあさんは、笑う。


 僕は何も知らない。

 僕は〝僕〟を知らない。

 記憶が失く。過去が亡く。自我が無く。

 けれど、それは〝知らない〟だけだった。

 知らない知らない言いつつ、一切自覚していなかったのだ。


 肝心なのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 僕はこの世界について知らない。

 それはわかっていた。わかっていたけれど、〝何を知らないのか〟さえ知らないことはわかっていなかった。

 無知の自覚が大切だとよく言われる。けれどそれ以上に、無自覚の認識こそが大切なのだ。


 物事を画一的に見るな。


「…………難しいな」

「ああ。ワタシもげんこつされた」


 ヒュマノ族の前で唄ったことを怒られたらしい。若干涙目な館長に思わず笑いつつ、けれどこの渡界も無駄じゃなかったと僕は穏やかな心地で目を閉じる。




 無自覚を認識しろ。




 【堅実】


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