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自分図書館  作者: 椿 冬華
第三幕 「我輩」の章
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【団欒秋の夜長セット】


 以前、ドレーミアたちが訪れた際に食べ損ねたという豆腐とわかめの味噌汁に栗ごはん。それに焼きさんまと肉じゃが。

 黒錆つゆりに黒錆彰人、その息子の黒錆巡。

 ゆーちゃんに蝶野もろみ。

 そして神宮寺蓮。

 加えて、我輩たち四人。

 大人数ではあったが、ここさいはて荘の住人が一堂に会する機会も多いようでみな手馴れており、それほど窮屈ではなかった。


「どれーみあちゃん、てつだってくれてありがとうね」

「いいえ、今度はきちんとお手伝いできてよかったですわ!」


 ドレーミアは黒錆つゆりに随分懐いている。黒錆つゆりこそが〝母〟だとドレーミアが語っていたのを聞いたことがある。確かに、もう永いこと親を親と思ったことがない我輩でも黒錆つゆりは〝母〟だとうっすら感じる程度には、〝母〟だと思う。


「この酒、地球じゃない世界のなんで外には出さんといてください」

「ほう。ふむ、ウイスキーか?」

「いえ、アルコールの世界っつう……食べるもの飲むものが悉くアルコール成分満載で。おかげでドレーミアさんがどんだけ……ああっと、それでそれ、一応天然水なんです」

「天然水」

「みんな〝澄んでいておいしいわあ〟とか言いながら滝の水ゴクゴク飲んでましたね」

「壮絶だな、その世界」


 どれいは黒錆彰人と何やら楽しげに会話している。黒錆彰人と黒錆つゆりは館長と旧知であるらしく、館長がどういう存在であるのか、また我輩たちが館長とどういう関係なのかを知っているようだ。

 館長は──神宮寺蓮に睨まれていた。もう普段通りに戻っておるから完全に神宮寺蓮をスルーしているが、居心地はよくなさそうだ。館長を呼び寄せて、あぐらの中に座らせる。

 我輩が睨まれた。何なのだ、あいつは。確かに〝レン〟なのだがレンにあんなところはなかったぞ。あ、いや……初対面の相手には割とこうだったかもしれん。

 …………。


「ドレイクさ~ん」

「む?」


 ゆーちゃんがにこにこと屈託のない笑顔で話しかけてきたので、これ幸いにと意識を神宮寺蓮から逸らす。


「どれいくんから聞いたけどぼくと同年代なんだって?」

「マジか気品がちっげぇな。元王様(笑)」

「ひどい!!」


 ゆーちゃんと蝶野もろみの夫婦漫才。いや、夫婦ではないのだったか。

 館長の食事をこちら側に引き寄せながらゆーちゃんを見やる。我輩と同年代──成程、五十代程度に見える。当然、我輩の方が永く生きているが。


「だが親近感はゆーちゃんの方が湧くのではないか」

「あっゆーちゃんって呼ばれた。なんか嬉しいなあ」

「ま~町のパン屋ならドレイクよりも元国王の方がとっつきやすいな。でも執事ならドレイク一択だな。お嬢様とか呼んでくれよ」

「お嬢様という歳には見えないが」


 どつかれた。この女、見た目に似合わず強い。


「いや、割と見た目通りだと思うよ彼女は」


 ゆーちゃんがラリアットされていった。

 ──こんな風に騒がしくも和やかに食事が進んでいく。いや、神宮寺蓮だけは最後まで我輩たちを警戒していたが。

 館長が強請るままに食べさせては自分でも食べ、面倒臭くなった時にはさんまを頭から丸ごと館長の口に突っ込んで。

 味噌汁に、栗ごはんに、焼きさんまに、肉じゃが。

 味噌汁はどれいが作るものに近い味でとても染み込んだ。栗ごはんはドレーミアのものより味が深く、ドレーミアが悔しそうに黒錆つゆりにレシピを聞いていた。焼きさんまは素材がいいのかとても身が引き締まっていた。すだちとよく合って美味で、実に食が進むメインディッシュであった。肉じゃがはドレーミアのものとだいぶ違っていて、牛肉とじゃがいもがひと口では収まりきらない大きさであった。贅沢で好ましくはあるが、これはドレーミアの作るものの方が好きであるな。


「どっちでもおいひー❤」

「おぬしはいつも幸せそうであるなあ……」


 頬袋いっぱいに食べ物を詰め込んで幸せそうにしている館長に些か脱力しつつ、ふと視線を感じて顔を上げてみれば、神宮寺蓮が心底忌々しそうにこちらをねめつけていた。忌々しそうというか、殺気満載であるな。


「うっはは、相変わらずうちの魔女そっくりな顔して食べてんな~!」

「似てない」


 館長のはち切れそうな頬袋をつつきながら言った蝶野もろみを、神宮寺蓮が切り捨てる。


「そう? すごく似てるじゃないか。ハムスターみたいに頬張っちゃってさ。似てるってかそっくりだよねホント」

「少しも似てない」


 ゆーちゃんの言葉も同様に切り捨てて、神宮寺蓮は殺意と敵意とに毛を逆立てた。何故こうも拒絶するのだ。


「社長くん、そんなに怒っちゃあだめじゃないか。まあわかるけどね。可愛いのはうちの魔女くんだけだって言いたいんでしょ」

「ちがっ」

「俺様のどれみが一番だ! 特別だ! 俺様の愛するどれみとそっくりだと!? ふざけるな、少しも可愛くない! 俺様のどれみが世界いち」


 神宮寺蓮が蝶野もろみに座布団を投げつけた。

 蝶野もろみは難なく避けてみせたが、代わりにゆーちゃんの顔面に直撃した。

 ふうふう鼻息荒く敵意に瞳を焦がしている神宮寺蓮の背後に、微笑みを携えた黒錆つゆりが立つ。

 黒錆巡が両手を合わせてなーむーと唱える。

 黒錆つゆりに連れ去られていく神宮寺蓮を見送って、蝶野もろみがドナドナと唄い始める。便乗して、館長も唄い始める。

 ……なんだ、この茶番。





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