第十一自我 【とある世界の自我】
第十一自我 【とある世界の自我】
「ドレイクさまっ……!!」
ドレーミアの嬌声とともに、精気がごっそり削り取られる感覚でかすかな陶酔感を憶える。ぽたりと汗がドレーミアの首筋に落ちる。曝け出された白い首筋には幾つもの赤い華が散らされている。またひとつ、そこに咲かせんと吸い付く。上がる嬌声。吸い取られる精気。響く水音と、ぶつかり合う生々しい音。
「おい!! 飯テロ世界に行くぞ!!」
バァンっと扉が弾けて館長が飛び込んできた。が、とまらない。止められるか、こんな中途半端なところで。
「コラアアァアアアアァアアアァ!!」
視界の片隅でどれいがドロップキックを館長の顔面に決めたのを見届けながら、とまらぬ体の動きそのままにスパートをかける。
高揚感と陶酔感の極み。悦楽の果て。享楽の頂。快楽の奔流。そして訪れる、虚脱感。この一連の流れが我輩は嫌いじゃない。
ドレーミアの吸精が限界に達してもうこれ以上は無理だというところまで追いつめて追いつめて、泣いてもう無理だと懇願するまで追いつめて。やがて訪れる大きな奔流ののちに脱力してベッドに臥せるドレーミアを見下ろしながら、根こそぎ奪い尽くされて精気がほぼ空になってしまった体にひと息吐く瞬間。これが結構好きなのだ。やり尽くした感、とでも言おうか。
そういうわけで今日も今日とてドレーミアを抱き潰した我輩はぐったりとしているドレーミアを抱えて風呂に入り、一服入れたところでようやく館長を呼び寄せたのであった。
「それで? 今日行くのですか? 飯テロ世界に」
洗面所にてドレーミアの髪を乾かしてやりながら、ドレーミアと館長の会話に耳を傾ける。
「うむ。そろそろ落ち着くところに落ち着いて安定したようだしな、遊びに行く!」
「それはいいのですが……でしたら明日にしてくださいませんか? つゆりさまへのお土産をご用意したいのです」
「むぅ。しょ~がないな! じゃあ明日で」
「てか何で朝っぱらからヤってんだよ……」
「ヤりたくなったからである」
「館長さま、わたくしサキュバスとしての自信がなくなってきましたわ」
「淫魔族も打ち負かすドレイクの絶倫具合、っと」
「メモるな」
閑話休題。
そういうわけで次はかの〝飯テロ世界〟に行くことになった。飯テロ世界。館長にとって特別な場所。そして、あらゆる世界の中でも珍しいシステムを持つ世界。
「確か、世界線がひとつしかないのであったな。だから館長もなるべく干渉せず時間軸も弄らず、だから知人が多いとか」
「世界線がひとつしかねえってか……正しい分岐を歩まないとすぐ滅ぶ世界だな。少なくとも異質だってのは行けばわかるよ」
終わっているって。
「そんなものか……〝存在しない世界〟も大概異質であったが」
「あの世界みてえに認識できないとかはねえよ。ただ、なんつうのかな……滅んだ方が世界のためなんじゃないかって気分になる、っつうのかなあ。平和なところだし、うまいもん多いし、いい人多いし、好きだけどな」
相反した感情を抱えてしまう世界、か。
「もちろん〝ワタシ〟──黒錆どれみの魂の片割れもいる。構えておけよ」
魂の片割れ。
レンと魂を同じくする、同一だが一致ではない存在。
「カレンデ嬢も言っていたが……我輩を見ると落ち着かない、というのが他の〝レン〟にも合致するのか知りたいところである」
「……ドレイクを見ると落ち着かない?」
「ん、ああ館長にゃ言ってなかったか……ホラ、ドレイクさんにはやたら冷たかっただろ?」
「…………、…………?」
館長が押し黙って、爪先で化粧水の瓶を弄びながら考え込む素振りを見せる。すぐドレーミアに怒られたが。
「…………神宮寺蓮に会うべきだな」
ぼそりと囁かれた館長の言葉の意味するところは、我輩たちにはわからなかった。
◆◇◆
── ドローシ♪ 唄いましょう、楽しく ──
── レナード♪ 忘れましょう、哀しみ ──
── ミレーユ♪ 愛しましょう、貴方を ──
館長が高らかに唄い上げるレンのあやし唄に合わせて食堂が融け、立つべき場所を失った我輩たちは真っ逆さまに落ちる。ドレーミアが崩れる、と叫んで土産用のバスケットを指差す。即座に館長の魔法に保護されるのを傍目に、空間いっぱいに広がる無数の水滴を眺める。
果てしなく広がる青空。果てなく舞う水滴。
どれいから聞かされた通り──水滴のひとしずくひとしずくに、風景が見える。〝世界線〟が詰まっている。
「……多いな、さすがに」
「不安定だって言ってたよな? だからか?」
「そう。〝ワタシ〟黒錆どれみと〝レン〟神宮寺蓮を中心に人間関係が不安定でな」
たとえばコレ、と館長が無数に散らばる水滴のひとつを引き寄せた。ばちゃりとさざ波に体が掬われて視界が切り替わる。
不協和音。
「あたし、社長さんのためなら何でもするよ。いつもいつもすっごくお世話になっているから! だからね、ゆって? 社長さん、あたしにゆって」
何処かの、何もない片田舎のあぜ道。
そこでひとりの男が地面に蹲っていた。顔は見えずとも、声は聞かずともわかる──〝レン〟だ。レンと同一であり一致ではない、魂を同じくする存在。確か、神宮寺蓮。
その前に立つのは、不協和音にまみれて姿形がはっきりしない存在。
それは、唄うように語りかけている。
「あたしなら、壊せるよ。この世界を、壊せるよ。大丈夫、一瞬だから」
男は──神宮寺蓮は、涙を流していた。
「いいんだよ祝福できなくて。だってにんげんだもん。だいすきなひとがべつのひとのものになっちゃって、くやしーっておもってとーぜんだもん」
それは語る。ただ、唄う。囁く。紡ぐ。不協和音を撒き散らす。
いや、違う。まだだ。まだ不協和音はそれの存在だけで留まっていて、この世界全体には迸っていない。神宮寺蓮にも及んでいない。
だがこれは。
間違いなく。
神宮寺蓮の、言葉ひとつで──
「〝なっちゃん〟」
神宮寺蓮が、涙と憎悪と嫉妬と、絶望とでまみれた眼差しを上げる。
「この世界を滅ぼしてくれ」
こうして世界はあっけなく滅んだ。
はっと気付いた時には、青空に無数の水滴が広がる空間に戻っていた。
「こんな風にな、些細な人間関係の擦れ違いひとつで呆気なく滅ぶ」
「……今のってつまり……〝僕〟黒錆どれみが……」
「ま~、思春期だからな。意地を張って喧嘩しちゃってそのまま別の道を~なんてのもあり得るだろ」
つまり〝レン〟が〝我輩〟に振られたと。そんなところか。どれいも〝レン〟……蓮香だったか? 蓮香と別れたようだし、魂の片割れと言っても色々あるものだな。
ちなみに、館長によれば魂の片割れだからとつがいとなるわけでもなく、親子であったり兄弟であったり親友同士であったりと関係性はまちまちであるらしい。それに、出会えないことも珍しくないそうだ。
「と、そうこうしてるうちに見つけたぞ──〝正解〟」
「〝わたくし〟黒錆どれみさまがめでたく神宮寺蓮さまとおくっつきあそばされてる世界線ですわね?」
「まだくっついてないが、まあそんな感じだ」
行くぞ、という館長のひとこととともに水滴が大津波となって我輩たちを呑み込んだ。ごぼりと水が体内に押し寄せてきて息が詰まるのも一瞬、咳き込んだころには何処かのあぜ道に立っていた。
「ここは……」
田園風景に溶け込むように静かに佇んでいる三階建ての、築何十年経っているのか考えるのすら恐ろしい、葛のつるに覆われた建造物。正門には〝さいはて荘〟と、古めかしい字体で看板が打ち付けられている。
季節は秋から冬に変わりつつあるころ。
枯れ葉が風にそよいで宙を舞い、さいはて荘の前庭に寂寞という名の色を付ける。
「あれ? 常連さんたちじゃないか久しぶり。どうしたんだい、こんなところで?」
「あっゆーちゃん。もしかして今日は定休日ですか?」
「そだよ~」
さいはて荘の前庭で幼い少年と遊んでいた大柄な男が柔和な笑顔を浮かべながら手を振ってくる。おそらくドレーミアお気に入りの〝元王様のパン屋さん〟の店主であろう。
「お久しぶりです、ゆーちゃんさま」
「本当に久しぶりだね~。一年半ぶり? もっとかな。ずっと来ないなあってお蝶くん──もろみと話してたんだよ~」
成程、と思う。
幼い少年のほうはごく普通の、どこにでもいる一般人に見える。ゆーちゃんとかいう男も同様に、一見普通だ。温和で柔和、親近感しか持たない人たらしの象徴と言ってもいい人の好さそうな男だ。だが少年と明らかに違うのは──……。
「はじめまして。ぼくユリウスって言います。ほら暴くん」
「くろさびめぐるにちゃ!」
「……初にお目にかかる。我輩、執事をしているドレイクと申す」
「あぁやっぱり執事さん! すごいなぁ~本物だ」
柔和な笑顔。
温和な人柄。
それに相反するように滲み出る、濃い終焉の気配。この気配には覚えがある。我輩の故郷、〝シュヴァルツヴァイス〟も弾かれる直前──このような負の気配を含有していた。終焉。終末。滅び。終わりかけの、気配。いつ終わってもおかしくない、空気。
それを無理矢理、真綿のような平穏な空気で包み込んで閉じ込めているような。
「ゆーちゃんさま、こちらつゆりさまにお渡ししたくて参ったのですけれど……」
「あれ、大家さんと知り合いだったんだ? ちょうど今買い物に行っててさ。元軍人さんいるから聞いてくる──あ、ちょうどよかった。お~い元軍人さ~ん」
「とーた!」
さいはて荘の中からのっそりと出て来た、これまた同じく終わりかけ特有の負の気配を纏っていて──けれどやはり、幸福感に満ちた穏やかな面持ちの男に少年が飛び付く。
「やあ、黒錆彰人」
「久しいな、館長。あの連絡方法はどうかと思うぞ」
「カワイイだろ?」
「真夜中にいきなり動き出すぬいぐるみは不気味だ」
「どんな連絡したんだよ」
どれいが静かに突っ込む。
「知り合いなんだね、常連さんたちと」
「まあな。今夜も一緒に食べることになっている」
「おや、そうなのかい? 魔女ちゃんがいないのが残念だねぇ~。ほんとそっくりだからさ、一度並んでるところ見てみたいっていうか」
「フフ。だ、そうだぞ。館長」
「ん? おぉそうだなぁ~そのうちにな」
黒錆彰人と呼ばれた、察するに〝我輩〟の父親であろう男が含むように館長の名を呼んだが、館長はきょとんとした顔で意味を図りかねているようであった。
ふむ。
「まだちゃんと会ってないのだろう? どれみと」
「そうだなぁ~。遠目に見たことはあるが」
「明日には帰ってくる予定だ。どうだ、友だちになってみては」
「…………」
やはり黒錆彰人の意図が読めないらしい館長はキョトンとした顔で、しばし沈黙する。沈黙して──やめておこうと、笑顔で答えた。
逃げた。
「そうか、それは残念だ。お前とどれみは仲良くなれそうだと思うのだがな。本当に」
「そうか? そうでもない気がするけどな」
「そうかもな。近すぎると反発し合いやすいと言うしな」
黒錆彰人。
間違いない、この男は館長の正体を知っている。
そして、館長がそれから逃げ続けていることも。
「──誰だ、貴様ら」
ぐ、と息が詰まった。
声だけでもわかる。全く毛色の違う別人の声であろうと、わかる。我輩にはわかる。カレンデ嬢の時と同じ感覚だ。
愛しくて、けれど違うと思い知る感覚。大切で、しかし焦がれる存在じゃないと失望する感覚。同一だけれど一致しないを実感する感覚。
「──〝レン〟」
すっきりとした柑橘系の香水を身に纏った、潔癖すぎるぐらいにすぎる清潔感と傲慢すぎるほどにすぎる高級感で体裁を整えている不機嫌そうな面持ちの男。
神宮寺蓮。
レンと魂を同じくする、存在。
「友人たちだ。元国王が何回か話したことあるだろう? 元国王やお蝶のところによく行く……」
「……ああ、魔女とよく似ている変人集団がいると言っていたな」
「ちょっ! ぼくそんなこと言ってないよ!?」
ゆーちゃんが焦った顔で我輩たちにそんなことは言ってないと釈明するのを聞き流しつつ、神宮寺蓮を観察する。
レンと魂を同じくする男。
感覚としてはカレンデ嬢に感じたのと近い気分で、別段特別な感情が湧いてくる気配はない。しいて言うなら眉間のヒビが気になるところであるな。まだ若いだろうにあんなに深いヒビ、普段からどれだけ眉間に力を入れているというのだ。
と、思ったらいきなり神宮寺蓮の視線がこちらを向いて、ギリッと睨まれた。……カレンデ嬢の時とはまた違う拒絶のオーラを感じるが、よそ者である我輩たちに対してなのか、あるいは我輩に対してだけなのか判別に苦しむ。
「とりあえず中に。大家さんたちはそのうち帰ってくるだろうが、夕飯の用意もあるししばらくゆっくりしていくといい。泊まるか?」
「泊まるー」
「館長さま、もう少し言葉を選びなさいませ。ご厚意痛み入ります。ありがとうございます──こちら、ささやかではございますがお菓子とお酒をご用意いたしましたので、よければ」
「ありがとう。つゆりも喜ぶよ」
おいで、と促されるままにさいはて荘へ足を踏み入れて──色濃く漂う死線の気配に釣り合わないぬるま湯の空間に一瞬、息を詰める。
とても平穏だ。
平和で、安穏としていて世界で一番幸福感に包まれた場所。
だからこそ、常に死線の上にある。張り詰めた糸のような心許ない死線の上にここは在って、でもここ以外にいていいところがない。行くところも帰るところもいていいところもない、だからここにいる。常に、死線と在る。
つくづく終末期の〝シュヴァルツヴァイス〟とよく似ていると思う。戦時下の空気にも通ずるところがあるな。〝シュヴァルツ〟と〝ヴァイス〟が戦争していた古代ではいつ崩れるかわからぬ平和を甘受している人々がそこかしこにいた。明日には空爆で奪われるかもしれない平穏を精一杯甘受していた。
戦時下と違うのは──平穏を壊しかねない原因が彼らにあるという点か。黒錆彰人の息子であろう少年は違うようだが、黒錆彰人にゆーちゃん、神宮寺蓮は間違いなく一歩間違えば平穏を壊す存在だ。加害者側だ。
さいはて荘。
世界の〝敵〟が住まう場所。
先ほど見た滅びの世界線では神宮寺蓮が滅びを願って、滅んだ。あの不協和音もここの住人なのだろう。だが万が一あの不協和音がいなかったとして──神宮寺蓮はきっと、別の方法で世界を滅ぼす。
そういうやつらなのだと思う。
それだけの力がある。だから、ここに追いやられた。──いや、ここにしかいていい場所がない。
「おい」
さいはて荘の管理人室、そこのリビング。
黒錆彰人の淹れてくれた茶を啜りながらひと息ついていた折、神宮寺蓮に呼びかけられた。黒錆彰人は泥だらけになった息子を洗うと言って風呂場へ向かって、いない。ゆーちゃんも一旦自室に戻るとかで、いない。
神宮寺蓮が座っている我輩たちと目線を合わせようともせず仁王立ちで睨み下ろして、高圧的に敵意を向けてくる。
「佐々呉家の関係者ではないだろうな?」
ささくれ? と怪訝に思う我輩たちのなかでただひとり、顕著な反応を見せた〝我輩〟がいた。
館長だ。
目を見開いて、息を詰めて唇を戦慄かせて、凍り付いたように動かなくなっていた。瞳孔は開き切っていて、呼吸さえも止めてしまっている。
咄嗟に、手が伸びた。
館長の視界から世界を遮断するように両眼を手のひらで覆い隠して、そのまま館長の隣に座っていたどれいの胸の中に押し付ける。
「逃げろ」
今は逃げてもいい。
「今は我輩の番だ」
だから蓋をしろ。落ち着け。息をしろ。しっかりしろ。
ごほっ、とどれいの胸の中で館長の口から止められていた分の息が吐き出される。どれいがすかさず館長を抱き込んで背中をさすり始めて、上下する手に合わせて館長が浅く呼吸を繰り返す。
その間に、我輩は立ち上がって神宮寺蓮と向き合った。
「ササクレが何か、我輩たちは知らぬ」
「ではそこの骨の反応は何だ」
「貴様がそんな目で見るからであろう。客人に対する態度とはとても思えんな」
「客人? 招かれざる、か?」
「何をそんなに警戒しているのか知らんが……では逆に問おう。貴様に我輩たちはどう見えておるのだ?」
「似すぎだ」
「……」
「何なんだ、貴様ら」
「……ふむ、困ったな」
「佐々呉家の関係者は根こそぎ掌握下に置いているはずだ。少しでも関与すれば社会的にも生命的にも抹殺すると伝えたはずだが」
……どう説明したものか。
こやつはおそらく我輩たちがあまりにも〝我輩〟──黒錆どれみと似すぎているのを警戒しているのだろうが。ふむ、困った。
と、思ったが事態はあっさり解決した。
「しゃちょうさん」
黒錆どれみの母親、黒錆つゆり。
体が弱いとは聞いていたが、今現在神宮寺蓮を蒼褪めさせるほどの威圧感を放つ様子を見るに、とてもそうは思えない。
神宮寺蓮はあっさり引き下がった。何だったのだ、一体。
ゆーちゃんよりも柔和で優しい微笑みを浮かべる黒錆つゆりに改めて歓迎の言葉を貰った、途端にドレーミアがいきなり立ち上がって頬を紅潮させながら黒錆つゆりに詰め寄った。
「つゆりさま! ご無沙汰しておりました……! 先日はたいへんご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした! お詫びといってはなんですが、お菓子をお持ちしましたのでよければ……あ! わたくし、ドレーミアと申します!」
マシンガントークであったが黒錆つゆりは変わらず穏やかな笑みを浮かべながら〝どれーみあちゃんね〟と、少し拙い発音で応えた。
「見ねえのもいるな。お前がアレか、例の執事か」
「む……ドレイクと申す」
「おう。もろみっつーんだ。よろしく。で、社長とさっきナニやり合ってたんだ?」
もろみ。ああ、確か〝もろみ食堂〟の店主であるな。黒錆つゆりとは真逆のざっくばらんとした性格の女性のようだ。
「佐々呉家の関係者かと問われておった」
「佐々呉? あ~……確か魔女の旧姓……あぁそっか、お前ら似てるもんなあ。だから親族かなんかだと思われたのか」
これは後で黒錆彰人に改めて聞いたのだが、〝我輩〟──黒錆どれみは養子であるらしい。以前は佐々呉どれみという名で両親から激しい虐待を受けており、巡り巡って黒錆彰人と黒錆つゆりの養子となったようだ。
ふむ。
地球系列平行世界第一種 №9321──通称、飯テロ世界。
〝さいはて荘〟の世界。
〝正解〟以外は滅びに直結する、死線の上に成り立つ世界。
──館長にとって特別な場所。
ふむ。
【切迫】




