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申し訳ないが、修行回はNG ver1.0 基礎体力編

「はぁ、つまりあんたは魔術の研鑽をするためここに引きこもっていると?」


 為雄は未だ痛む顎をさすりながら、グローバルと名乗った目の前の老人へと問いかける。気絶から覚めた為雄はまず顎に生じる痛みに悶絶して転げまわった。さすがに見かねたグローバルは為雄を案内した銀髪少女、アンナに指示を出し、彼に回復魔法をかけ痛みを、ついでに疲労をやわらげさせた。


 痛みから解放されるや為雄はグローバルへ掴み掛らんばかりに詰め寄り、殴ったことへの弁明を求めて大いに騒いだ。目を剥きながらてめぇよくも殴ってきてくれたなとか、そもそもここは何なんだとか、とにかく胸の中に感じていたことをすべて吐き出す勢いで大声で捲し立てた。


 大声で騒がれるものだから堪らずグローバルは為雄を再び殴り飛ばし、それでまたのたうち回る羽目になり、話をするどころか互いに自己紹介する暇すらなかった。


 ともあれひと悶着あったものの、時間という多大な犠牲のおかげでようやく面と向かって話ができる心理的余裕が生まれた為雄は、リビングへと場所を移し、不承不承ながら目の前の老人へと自己紹介をしたのだった。


「そうとも、ここは勇者の祠の真下に位置するところにある洞窟じゃ、あの祠は邪なるものを遠ざける力があってな、それで弾かれたものが地下へ沈んでいくわけだ、年々蓄積される邪の影響かここは時間の流れも曖昧になっとる、つまり修練には最適な場所じゃ!見つけたときは狂喜したわい、これでいくらでも修行ができる!とな、はっはっは!」


 為雄はそう言って豪快に笑うグローバルを変なものでも見るかのような目で見つめた。それに気づいたグローバルはさらにおかしそうに笑ったが、同時に為雄の中にあった欠片ほどの敬意も消え去ってしまった。


(何だこいつ)「…あんたもそうなの?」


 そう言って為雄はグローバルの隣にちょこんと座るアンナに目を向ける。話を振られたアンナは特に何かを発するわけでも無く、ただ首をこてんと傾げた。


(何だこいつ)「で、どうなん?」

「ん?ああこの子は違う」


 為雄の問いに笑いをやめたグローバルは先ほどの好々爺的な側面をひっこめ、いささか真剣な様子で彼に説明した。


「この子は拾い子でな、まだ赤子の時に拾ったんじゃが衰弱が酷くてな、このまま成長させたんじゃすぐ死んでしまうだろうと思い、、体調が整うまで何十年か封印してたんじゃよ」


 グローバルはいったん言葉を区切り、柔らかな表情でアンナの頭を撫でた。アンナはくすぐったそうに目を細めた。そんなアンナの様子が何だか犬みたいで、彼女の冷たかった印象が薄れていく気がした。何だこいつ、こんな表情もできるのか。


「それで16年ほど前にようやっと体調が回復して、それからはまあ時々稽古つけてやるくらいで、わしの修行につき合わせたことは無いな」

「そうっすか…」

「ま、これから先も付き合ってもらう予定はない、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

「はあ?」


 グローバルの言葉に為雄は素っ頓狂な声を上げた。グローバルの言葉の意味をしばらく理解できなかった。


 対応に困った為雄は助けを求める瞳でアンナを見たが、アンナは首を傾げるばかりで、やはりこちらの思いなど汲み取ってくれそうに無かった。


「わはは!アンナに助けを求めたって無駄だぞ!何せこの子はわしとしかコミュニケーションをしてこなかったから意思の疎通など発達するわけがない!わし以外の思いなど、何も汲み取ってはくれんぞ!」

「おいこの糞親!そこは一番重要なところじゃねぇか!そこを重点して鍛えてやらねぇでどうすんだ!これじゃあ社会に出れねぇぞ!」

「そこはお前の役目だ!修練の合間にアンナと意思疎通をし、彼女が社会に出られるようにするのじゃあ!」

「他力本願ブルシット!」


 為雄は机を拳で叩き、立ち上がって激怒したが、グローバルは柳に風といった体で笑うばかり。アンナは父と為雄を交互に見るばかりで、何を言ったらいいのかわからないようだった。


「ともかくなんで俺がこんな枯れ枝みたいな爺様と二人っきりで拷問染みた事に付き合わにゃならんのじゃぁ~!断固拒否する!」

「わはは!お前がいくら拒絶しようとかまわんが、ではお前はいったいどうやってここから脱出するつもりかね?まさか自力でどうにかできると思っているんじゃないだろうな?」

「ぬっ!?うぐぐ…」


 グローバルに図星を突かれた為雄は口をつぐみ、ただ目の前の老人を睨みつけるだけしかできなかった。グローバルはその反応に手ごたえを感じ、畳みかけるように口を開いた。


「わしと一緒に修行すれば、もしかしたら生きているうちにここから出られるようになるかもしれんぞ?」

「ぬぅーっ…!」

「わしもお前と一緒に修行できて一石二鳥!これ以上何を悩む必要がある?お前にとってこれがベストな選択ではないか」

「ううっ…」


 為雄の脳裏にまた自分が問いかけてくる。本当にこれで合っているのか?この誘いに乗ることは正解なのかと。その疑問に彼はキレ気味に返す。じゃあ他に選択肢があるとでも?


 くそたれ!


 グローバルの説得に為雄は屈したかのように渋々と、本当に渋々といった感じで頷いた。


「良し、これでお前も異論は無いな!よーし、ならば早速始めることとしよう、っとその前に、お前のステータスを見せてもらおうか」


 そこまで言うとグローバルは口を閉じ、為雄にステータスの開示を求めてきた。


 為雄はステータスの開示を渋った。これを見せてしまうと、いよいよ自分が本当の意味で屈してしまうとでもいうように。


 だがそんな風に意地を張る自分をふと俯瞰してみると、酷く馬鹿らしく思えた。どうせ選択肢がない以上、意地を張る意味が何処にある?


 為雄は無言でステータス画面をグローバルとアンナに見えるように開いて見せた。




 名前:目黒為雄

 性別:男

 年齢:17

 職業:まほーつかい

 筋力:E

 防御:E

 速度:E

 魔力:D


 魔法:ほのーまほー みずまほー かぜまほー つちまほー むぞくせーまほー




「こりゃ酷いな!だがまあこんなもの修行次第でどうとでもなる」


 為雄のステータスを見たグローバルの言葉は、為雄が思っていた言葉とはだいぶ違うものだった。どうせ馬鹿にされるものだと思い込んでいたから、その反応にいささか面喰った。


「何とかなんの?これが?」

「無論なるとも、ちなみにだがこれがわしらのステータスじゃ」


 そう言っておもむろに自身のステータスを表示して為雄に見せた。




 名前:グローバル・イングリッシュ

 性別:男

 年齢:200

 職業:大魔法使い

 筋力:A

 防御:B

 速度:A

 魔力:S


 魔法:炎魔法 水魔法 風魔法 土魔法 光魔法 闇魔法



 名前:アンナ・イングリッシュ

 性別:女

 年齢:16

 職業:聖騎士

 筋力:S

 防御:S

 速度:B

 魔力:A


 魔法:光魔法 




「これはアレかな、間接的に俺を馬鹿にしているのかな?」

「無論それもあるが、それだけではない」

「あるんじゃん、何なのだお前は」


 為雄の言葉を無視し、グローバルは話を続ける。


「まあ聞け、このステータスは並大抵のことをしても上がりはせん、生まれた時から死ぬときまで上がらないやつだっている」

「はあ!?ならどうすりゃあいんだよ!」

「聞けって、このステータスはあくまで()()なのだよ」

「補正?」


 為雄は訝し気な目でグローバルを見る。


「そうだ、つまり極論すればだ、どれだけステータスが劣っていようとも素の肉体や魔力が優れていればどうとでもできるというわけだ」

「本当かなぁ…、うさんくさ、まるで努力は実るってくっちゃべる小学生の教師みたいだぁ」

「言ったろう、お前が何を言おうともはやわしと修行をすることは決定事項なわけだ」


為雄の揶揄をグローバルは無視した。


「おら、さっさと行くぞ!時間も場所もたっぷりある、まずはわしの突きで即死しないくらいの肉体になってもらうぞ!」


 グローバルは席を立つやいなや意気揚々とリビングを出て行った。その背を茫然とした面持ちで目で追っていると、いつの間にかアンナが隣に立っており、彼の手を握ってグローバルの背を追い始めた。


「ではご案内します」

「あ~あ、これ大丈夫かなぁ…」


 アンナになすが儘に引きずられながら今後のことを考え、幸先の不安しか感じない為雄であった。







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