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まほーつかいVSほねほねぐんだん 所により勇者

「なあ王女様、こういうことになるんならもっと護衛の騎士とか連れてきた方がよかったんじゃない?」


 為雄はふと思い出したかのようにその考えを口にした。いくら勇者として常人よりはるかに強いからと言って彼らは戦闘の素人だ。こういう万が一のために兵を連れてきても良かったのではないかと言ったが、王女は頭を振ってその考えを否定した。


「それができないんですよ、この勇者の祠は選ばれし者を除いて同行できる者が数名程度なんです、ですから」

「ああそういうことですか、あくまでここは勇者の力試しの場所だからその妨げになるものは入れないと」


 王女は頷いてその考えを肯定した。


「えぇ~…、けち臭い場所だなぁ、いいじゃん楽して手に入れたって、力試しなんてこれから先いくらでもするんだからさぁ…」


 岡山の言葉に全員が同意したが、だからと言ってそれでどうこうなるわけでは無く、そんな事実が余計に全員の肩を重くした。


 しばらく無言で道なりに進んでいると広い空間へと出ていた。奥の方に大きな鏡が置いてあり、それ以外には何もない酷く殺風景な空間だった。


「あ~これ絶対あれだ」

「ああそうだな、これ絶対なんか出てくる奴だ」

「うわ~いかにもだぁ」

「セーブポイント何て見当たらなかったんですけど?普通どっか近くに置いてあるはずでしょ?不親切ねぇ」

「そんな、胡桃ちゃんゲームじゃないんだから…」

「あはは…」


 彼らの懸念は的中し、しばらくすると広間のちょうど中心部分の空間が波打ち、うっすらと蜃気楼のように何かが現れ始めた。徐々に輪郭がはっきりし、姿を現したのは先ほどのボーンソルジャーをそのまま巨大化させたかのような骸骨戦士だった。


「うわああああ出たああああ!」

「出ましたね、あれが試練の大詰め、ボーンナイトです!動きが緩慢なのは変わりませんがその巨体故リーチも長く破壊力も高いです、これが最後の戦いです、気を引き締めてかかりましょう!」

「いや勝てんのかあれ!?」


 王女へと訴えかけるも、すでにボーンナイトは動き出しており、有無を言わさず戦いは始まった。


 ボーンナイトは確かにボーンソルジャーと同じようにぎこちない動きであることは変わりはなかったが、その巨体のため歩幅が段違いに広く、あっという間に彼らの眼前へと到達し、無造作に大剣で薙ぎ払ってきた。


「ぎゃああああああああ!?」


 為雄はその迫力に思わず悲鳴を上げた。他の連中は持ち前の身体能力で逃れられるであろうが自分は別だ。

 そのまま薙ぎ払われて襤褸肉になった自分を想像し、為雄は死を覚悟した。


 そんな為雄の死の覚悟などお構いなしに隣にいた不動が彼を抱き抱え、王女は藤川が抱えそれぞれ散開して薙ぎ払いをかわした。


 不動はあたりを見回し何とか人一人が隠れられるような岩を発見し、そこに抱きかかえていた為雄をおろし、念を入れて忠告した。


「いいダメ夫君絶対出ちゃ駄目だよ?いいね?」

「言われなくてもそうするよ!っておい!なんか来てるぞ!」

「え?」


 為雄の忠告に慌てて振り返ると、迷いのないの無い足取りで確かにこちらに向かってくるボーンナイトが見えた。不動が為雄を抱えて跳び離れるには少々距離が近すぎた。


 たまたま目についたからかなのか、それともあからさまに弱そうなやつを狙って意図的に向かってくるのかは為雄には判断が付きかねた。だがこのまま何事もなければ死ぬということだけは簡単にわかった。


「ぎゃああああああああ!?」


 やむなく不動はこれから来るであろう一撃に備えるために踏ん張り、為雄が本日二度目の絶叫を上げたのと同時にボーンナイトの真横から岡山が弾丸のように突っ込み、金棒の一撃をがら空きのわき腹に叩き込んだ。


 ボーンナイトは予想外の一撃に思わずたたらを踏み、さらに反対側から藤川の燃える跳び蹴り、即ちファイヤーキックを受けたとなればさすがの巨体も身を支えきれずに倒れこんだ。


「昭ぁ!今のうちに離れるんだ!ダメ夫から引き離せ!」

「う、うんわかった!いいね?絶対出ちゃ駄目だよ!」


 為雄は赤べこのごとく何度も不動に頷き、ボーンソルジャーに向かって果敢に切りかかってゆく不動の背中を心細そうに見送った。


「こ、怖かった…」


 背後から聞こえてくる戦闘音を耳に挟みながら、岩を背にずるずるとへたり込んでぼそりと呟いた。


 ったく、だから俺は戦力外だって言っただろうが。どーして連れてこられなきゃいけないのよ~、おかし~だろ~。こんなん拷問だよ~。


 ボーンナイトは岡山達が引き付けているおかげで為雄の元へ向かってくることは無く、一応は安全が確保された状況だった。


 危険地で安全が確保されると人は余計なことを考えがちだ。あまりにも思考の余地のない状況だったので考えている暇はなかったが、いざ考える時間ができると為雄の心臓は思い出したかのように早鐘を打ち始めた。


 今の状況、何度死んでいた?たまたま助けが入ったから事なきを得たものの、彼らがいなければ確実に自分の命はあそこで終わっていたはずだ。


 そう考えると途端に体の震えが止まらなくなった。今になって自分がとんでもない状況に立っていることに思い至った。


 俺が来ていい場所じゃない。俺がいていいはずがない。何せこここは戦う者のための場所なのだから。戦う武器を手に入れるために戦いに来る場所だから。


 ガタガタと寒くもないのに体が震えだした。冷汗が止まらない。胃の中からせり上がっているものを吐いてしまわないように堪えながら、どうにか恐怖心に屈してしまわないように気を強く持とうとした。


 そのようにしてある程度時間が経つと恐怖感も薄れてゆき思考がクリアになっていくと、今度は恐怖が占めていた場所に怒りが雪崩れ込んできた。


 そもそもここは選ばれし者のためのもんなんだろ?ならそれ以外の奴を入れようとするな!なにが選ばれし者と少数の者しか入れないだ!ふざけるな!選ばれし者以外誰も入れるな!な、なめやがってぇ~!!!


 ふつふつと湧き上がってきた怒りは今や完全に恐怖感を駆逐した。この怒りをどうやって晴らしてくれようかと、為雄は岩陰から身を乗り出して戦況を確認した。





 --------------------





 岡山はボーンナイトの大上段に振りかぶった一撃を側転でかわし、懐に潜り込んで腹を金棒で殴り飛ばした。


 ボーンナイトは金棒の一撃に怯みはしたが、それはそれまでのことで何事もなかったかのように骸骨騎士は前進した。


 殴った感じから手ごたえは感じていたが、それが効いているのか効いていないのか岡山にはさっぱりわからなかった。


 今度は背後から藤川が≪ファイヤーパンチ≫を不動は≪風魔法カマイタチ≫を同時に叩き込み、ダメ押しに飯塚と王女が≪ファイヤーボール≫を数発撃ちこんだが、これもまた怯みはしたものの効いているのか効いていないのか分かりはしなかった。


「あぁもう何なのこいつ、ちっとも弱ってないじゃない!」


 ボーンナイトの顔面に素晴らしい右フックを決めた藤川が苛立ちを含んだ口調で吐き捨てた。ボーンナイトがバランスを崩して倒れる隙に間合いを離し、岡山達の元へと降り立った。


「これもしかして一撃で倒せないといけない感じなのかなぁ、あまりにも効かなすぎるよ」

「なら先ほどのようにまた強力な一撃をするしかありませんね」

「だったら次は俺がやる、みんなは俺が溜めている間にアイツの注意を俺から逸らしてくれ」


 短い会話で作戦を決めると各々は自身の役目を果たすために動き始めた。岡山は金棒に魔力を集中させ、持っている中で最も威力の高い魔法を放つために溜めの姿勢に入った。


 その瞬間ボーンナイトの動きが変化した。今までは攻撃してきた者か近くにいる者を機械的に攻撃していたのだが、岡山が溜めに入った瞬間、まるでそこに吸い寄せられるかのように岡山の元へ向かおうとした。


「行かせるかっちゅうの!」

「こっち向けこっち!」

「行かせません!」

「くっいい加減に…!」


 それを阻止するため岡山以外の面々が近づかせまいと何度も吹っ飛ばすが、ボーンナイトはそんなこと眼中にないとばかりに不動たちを無視し、ただひたすら岡山の元へ向かおうと機械的に動き続けた。


 そんなことを何度かやっているうちに疲労が溜まり、さらに魔力を使いすぎたために威力が落ちてきた魔法ではボーンナイトを足止めできなくなっていた。


 そしてついにボーンナイトが魔法の直撃でも怯まなくなり、ボーンナイトが岡山目掛け到達せんとした。


「しまった!?武夫君逃げて!」


 息も絶え絶えに何とか岡山へと忠告を投げる不動だが、溜めるのに集中している岡山の耳にその言葉は届かない。


 ボーンナイトが大剣を振りかぶり、今にも振り下ろそうかとしているその矢先に一条の炎が、まるで吸い込まれるかのようにボーンナイトの目に直撃した。


 虚を突かれた全員が炎が飛んできた方向を見ると、そこには荒い息をつきながら肩を上下させる為雄が、岩陰から身を乗り出して右腕を突き出しているのが見えた。


 さしものボーンナイトも眼球(と言っていいのかはわからぬが)に攻撃が叩き込まれれば反応するくらいの感覚を持っていたらしく、持っていた大剣を手放してふぁいやーしょっとが命中した右目を抑えて後退った。


「どうだこの野郎!じっくりねっとり狙ってたからちったぁ効いただろ?ざまぁみやがれ!」


 為雄は渾身の笑みを浮かべてボーンナイトに向けて中指を突き立てた。


「ははっ…そうだった私たちにはまだ仲間がいたね」

「戦闘じゃ全く使えないけどね」

「うふふ、そうですねぇ」


 不動たちは中指を突き立てて喚いている為雄に呆れた、でもどこか嬉しそうな顔を向けた。


「うふふ…、あ、皆さん見てください、どうやらようやく溜まったみたいですよ」


 王女はそのやり取りを楽しそうに眺めながら岡山の方を見るよう全員に呼び掛けた。


 ボーンナイトが目を抑えて後退っていた時間は短く、すぐに体制復帰して前方の岡山に再び向かおうとしたが、その時には岡山の魔法が完成していた。彼の手の金棒は眩いばかりの光を放っており、為雄の素人目に見てもその光は危険なものであることが分かった。


 それをその身に受けることになるボーンナイトからすれば堪ったものではないだろう。ボーンナイトの無表情の瞳が恐怖に見開かれる様に見えたのは、果たして錯覚なのだろうか。


「おおおおおおおおおお食らえええええええ!」


 岡山は金棒を野球選手の如く振りかぶった。ボーンナイトは死に物狂いで岡山を叩き潰そうと迫ったが、その前に岡山の一撃が叩き込まれる方が何倍も速かった。


「≪ディバインビーム≫!!!」


 岡山の打ち振るった金棒から極太の光線が放たれ、ボーンナイトの巨体を飲み込みそれでもなお止まらず、背後の壁に直撃して大爆発を引き起こした。


 爆発はこの広い空間に凄まじい衝撃と振動をまき散らし、疲れていた為雄は(もっとも疲れてなかろうが変わりないだろうが)立っていることもままならず、たまらず地面にひっくり返ってしまった。


「痛てーっ!」


 他の面々はそんなことはなく、ふらつきながらも何とか倒れることなくその衝撃に耐えきった。


 衝撃が晴れ、顔を上げるとボーンナイトは影も形もなく、広場には凄まじい破壊の痕跡が残るばかりになっていた。


「ふぅ~疲れたぁ…」


 大量の魔力を使い切った脱力感に襲われていた岡山であったが、その顔は初めての大規模戦闘を制した達成感からか思いのほか晴れ晴れとしていた。


「おーおーお疲れちゃん、よくできました、褒めてあげます、喜べ」


 へたり込んだ岡山に手を差し出しながら、為雄は意地に悪そうな笑みを浮かべた。


「戦闘にほとんど参加してなかった奴が何でそんな上から目線なんだか…」


 岡山はそんな為雄の軽口に苦笑いを浮かべながら、その手を取って立ち上がった。その後ろから不動たちが駆け寄ってきた。為雄以外みんな顔に疲労の色が浮かんではいたが、それでも岡山のようにどこか晴れ晴れとした表情が浮かんでもいた。


「でもまぁお前がいなかったら実際やばかったし、まぁいいか」

「そう、だねぇ、情けない悲鳴上げてたけどね」

「あーあこんなのがいたんじゃ先が思いやられるわ」

「んだと貴様ら!大体俺を戦いに引っ張り出すのが間違いですー!ばあああああああああか!」

「まあまあ、これから先きちんと訓練すればダメ夫さんも上手くいくようになりますって」

「そうですよ、何せこの戦いで為雄さんがいなかったら勝利できなかったんですからね?」

「そうだ、俺こそがMVPだ、もう神みたいなもんだろ、敬うといいぞ、年上だし!」

「そこは関係ないだろ」

「いやあるね、大体お前らは年上への敬意ってもんがだな」


 ぶつくさ言って先を歩く為雄の背中に皆は面と向かってでは決して向けないような、柔らかな目を向けた。


 そうとも、と五人は思う。この口が悪くて偉そうで、でも必要な時に必要なことをやってくれる彼がいれば、きっと自分たちは成し遂げられることができるだろう。


 出会ってからまだ一ヶ月と少ししか経っていないが、今日の体験により彼ら全員に為雄への信頼が形成されていた。


「ま、いいか」


 そう言って為雄はくるりと岡山達に向き直った。


「これからはきちんと俺を守ってくれよなぁ~、マジ頼むぜぇ~、死に直結するからな!」


 為雄からのお願いに、岡山達は一瞬きょとんとした顔をし、それから笑いながら頷いた。


 為雄はその反応に満足そうに頷いた。そしてその瞬間唐突に、何もかも一瞬で事は起こった。為雄の足元に大穴が開いたと思えば、為雄はその穴の中に静かに飲み込まれていった。穴は為雄を飲み込めたことに満足を覚えた様に、出てきた時と同じように一瞬で消え去った。


 あまりにも突然に、彼らの目の前から為雄は消え去った。唐突すぎて、五人はしばらく理解できなかった。五分十分と時間が経ち、ようやく事態が飲み込まれた岡山は震える声で、為雄の名を呼んだ。


「ダメ夫…?」


 彼の名を呟く際に、先ほどの王女の言った言葉が唐突に蘇った。


『いえ、幸い敵は強くないというので、そこまで気負う必要ないです、ですがトラップもあるといいます、くれぐれも注意して進みましょう』

『トラップがあります、くれぐれも注意して』


 トラップ、注意という言葉が頭の中でぐるぐると回り、それがまるで自分たちを責める茨の如く、彼らの心を締め付けた。


「ダメ夫?」


 岡山はもう一度呼んだ。これは何かの間違えで、為雄がいたずらか何かで姿を消したと思い込みたかった。あいつならそれくらいはやるだろう。まったく仕方のない年上だなぁ。だがいくら名前を呼んでも、為雄は姿を現さなかった。


 誰かが息をのんだ音が聞こえた。隣にいた不動が口を覆っていた。藤川は訳が分からないといったように首を振っていた。飯塚は意識を失いかけた王女の背中を支え、だが王女と同じくらい顔を真っ青にさせていた。岡山達は茫然とした様子で、為雄が消えた地面をいつまでも見つめていた。









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